2011年11月15日火曜日

ウィンターズ・ボーン

(WINTER'S BONE)

 今年のアカデミー賞作品賞にノミネートされた十作品の中の一作ですが、これはまた一際、ダークで重たい物語ですね。
 アメリカ社会の底辺で生きる人々の生活をリアルに描き、サンダンス映画祭では絶賛されたそうな。毎年、低予算のインディペンデンス系映画から一本はアカデミー作品賞にノミネートするのが習わしだと云いますが……。
 主役のジェニファー・ローレンスが主演女優賞候補にもなりました。その他にも、脚色賞と助演男優賞の計四部門にノミネート。確かに、それはもう納得の出来映えではあります。

 ミズーリのとある寒村で貧しい一家を支える十七歳の少女が、行方不明の父親を捜すうちに危険な状況に陥っていく。世の中には、知ってはいけない真実がある……と云うか、十七歳の女の子にそんな過酷な現実を突きつけちゃっていいのか。
 全編にわたって映し出される寒々とした山林の景色がまた侘びしい。

 投獄されたロクデナシの父親が保釈中に失踪し、このまま保釈金を返済できない場合は、担保に入れられた土地と家を取り上げられてしまうという状況が冒頭で説明されます。
 幼い弟と妹を抱えて生活するお姉さんにはキツい話です。お母さん(シェリル・リー)は精神を病んでおり(鬱病なのか)、まるで頼りにならない。
 近所に住んでいる親戚一同もまた、誰も頼りにならない。父のことを訊ねるだけで怒り出して追い返される。特に叔父(ジョン・ホークス)の態度が冷たい。
 地域の共同体にあって、こうまで冷淡な親戚達と云うのが実に奇妙です。観ている側としては、裏にナニかあるらしいと察しが付くのですが……。
 逆に、一族でない隣人の方が遙かに親切であるという描写が興味深い。

 それにしてもシェリル・リーがこんなところに登場するとは意外でした。『ツイン・ピークス』ではローラ・パーマー役でしたが、今や「生活に疲れた母親」の役が妙に似合っています。最近は仕事はTVドラマの方に移っているので、なかなかスクリーンではお目にかかれませんねえ。
 怪しい叔父の役であるジョン・ホークスも、助演男優賞でノミネートされただけのことはあります。凄みのある冷酷な男のようで、妙に優しい側面が垣間見える。

 淡々と描写されますが、底辺に生きる人達なので犯罪とは密接に関係している。なんかもう、ごくフツーにヤバい仕事に手を出していたり、怪しげな連中と密談しているところへ、十七歳の女の子を放り出していいのか。
 とは云え、さすがにジェニファー・ローレンスの方もタフで、ちょっとやそっとじゃへこたれませんが。幼いうちから鍛えられたんだねえ。
 荒みきった生活環境の中で、それでも気丈に弟妹らの面倒を見ながら日々を過ごすジェニファーが健気です。

 父親の消息が不明なら、今度は軍隊に入隊してもらえる一時金で保釈金を返済して問題解決を図ろうとするも、これも上手くいかず八方ふさがり。立ち退きの期限は刻々と迫ってくる。
 すると今度は叔父や親戚達は口を揃えて「お前の父親は死んだ」と云い始める。
 父親はドラッグ密造の名人であったらしいが、作業に使っていた小屋は全焼して跡形もない。風邪薬を煮沸してアンフェタミンを精製する工程には引火爆発の危険性が伴うそうな。
 親戚らは「おまえの父親はミスして火を出し、小屋ごと焼け死んだ」と主張し、ジェニファーを納得させようとする。しかし名人であった父が初歩的なミスなど犯す筈がない(そういう部分は信頼してるのね)。
 どうにも怪しいことがありすぎて、死んだという主張を信じられないジェニファー。
 一体、真実はどこにあるのか……。

 暗い雰囲気の中で淡々と進行していく陰鬱なミステリーです。
 原作者ダニエル・ウッドレルによると、「カントリー・ノワール」とでも呼ぶジャンルだそうで、なかなか雰囲気のある言葉ですね。
 名称に「カントリー」と付くだけあって、地域の風土と文化もよく描写されています。本作の場合は、ミズーリの山間地(オザーク地方)に住んでいるヒルビリーの文化。
 ヒル(山)に住んでいるビリー(スコットランド系移民)だから「ヒルビリー」。主人公達一族の名前も「ドリー」というケルト由来の家名。
 総じて低所得の貧困層であり、法律よりも一族の血縁や掟を重視する傾向にあるのだそうで、ワイルドな人達なんですね。

 ヒルビリーと云うと、音楽的にはバンジョーやギター、フィドルを使ったカントリー・ミュージックが有名ですね。ジャンル的には「フォーク」だそうですが、西部劇でもよく耳にします。
 劇中でも何度かヒルビリーの音楽が演奏されますが、陽気な歌曲ではなく、どちらかというと物悲しい落ち着いた曲。印象的なのはドラマの中盤で登場する歌手。この映画の随所で使用されている歌曲を提供しているアーティスト、マリデス・シスコ御本人だそうな。
 結構、サウンドトラックも聴きものであると申せましょう。

 とうとうジェニファーは破れかぶれで一族の長老(のような人)に直談判に行こうとして、親戚一同に取り押さえられる。なんか一族の掟に抵触したらしい。話を聞きに行くのがそんなに悪いことなのか。もはやヒルビリーでない部外者には、ナニが逆鱗に触れちゃったのかよく判りません。異文化って怖いわ。
 拘束されて殴る蹴るの暴行を受けるというのも理不尽ですが、そこで遂に涙の一滴も見せないというジェニファーの気丈さにも感心します。十七歳にしてこの胆力。タフな女の子だ。

 なんとか叔父の助けが入って命拾いしますが、さすがに家族の為に奮闘する少女に哀れを催したのか、次第に叔父の口から事の真相が語られ始める。
 父親は刑期の十年に耐えられず、一族を裏切った。密告は重大な掟違反である。
 そもそも父親の罪状が何であったかはあまり話題にはならず(多分、麻薬絡みでしょうが)、そんなことより「一族のヤバい仕事」のことを官憲に喋ったことが重大な罪であるらしい。
 このあたりの、少女の与り知らぬ部分は、劇中でも深くは語られませんが、「掟に背いた父親は一族の手で断罪された」ことが暗示される。どおりで親戚一同の口が堅いワケだ。

 遂に叔父はジェニファーを「父親の遺体がある場所」に案内してくれる。死亡が正式に確認された場合は、担保の取り立ては免除されるのだから、立ち退きを回避するにはこれしかない。
 目隠しされて連れて行かれた先は、いずことも知れぬ山中の湖。チェーンソーまで持ち出して来たときには、もはやこれまでかと思いましたが、そこまで叔父も非道ではなかったですね。
 父親が死んだという証拠が必要なら、遺体の一部でも切り取って持って行けばいい。
 その為のチェーンソーかよ!
 「しっかり持って斬るんだ」って、十七歳の少女にナニさせるんデスか。
 これはもう精神的な拷問ですよ(観ている側にも)。

 やっと私にも映画の題名が『ウィンターズ・ボーン』である理由が判りました。「冬の骨」とはどういう意味かって、そういう骨かいッ。
 他にもスラングでは「犬に投げてやる骨」が転じて「思いがけない贈り物」の意味もあるそうですが、イヤな贈り物だ(必要なものではありますが)。

 なんとかDNA鑑定により父親の死亡は確認され、家屋の接収は回避。危機を乗り切るジェニファーでありますが、果たしてこれはハッピーエンドと云えるのか。一族の間の深い闇は解明されないままなので、ミステリーとしては不完全なのでしょうが(イヤ、別に知りたくないデス)。
 ラストで叔父から「父の形見のバンジョー」を手渡された末の妹が無邪気にそれを弾く姿が印象的でした。冬の日差しに末娘の爪弾くバンジョーの素朴な音色が流れていく……。
 実に陰鬱な映画でした。腹に堪えるというか、気合いを入れてからの鑑賞をお奨めします。



Winter's Bone
ウィンターズ・ボーン

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