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2012年5月31日木曜日

メン・イン・ブラック3 (3D)

(Men in Black 3)

 我々は何者か。誰でも無い。任務は地球上の異星生命体を監視することである──と云う、あの黒服の男たちが、ダニー・エルフマンのお馴染みのテーマ曲に乗って帰って参りました。
 一〇年経ってまた続編ですか。そんなに人気があるのか、それともハリウッドの企画力不足なのか(多分、その両方ね)。
 軽いSFコメディとして、それなりの水準を維持して戴けて良かったです。と云うか、実は本作はシリーズ中で一番面白いのではないかと思えます。
 まぁ、ツッコミ処が色々あるのは御愛敬ですが(無いと困るし)。

 監督もお変わりなく、作品としては統一感が取れているので、歳月をまったく感じませんです。そこはお見事だと思います。
 しかしホントにバリー・ソネンフェルド監督作品を観るのは『メン・イン・ブラック2』(2002年)以来です。他に監督の仕事はしていないのか、と思われましたが、ロビン・ウィリアムズ主演の『RV』(2006年)と云うのがありましたか。日本ではビデオスルーでしたが。

 主演もまた変わらず。無表情で不愛想なエージェントK(トミー・リー・ジョーンズ)と、ファンキーでお調子者なエージェントJ(ウィル・スミス)のコンビも一〇年越えですか。なんだかんだ云いながら仲の良い二人です。
 今回はタイムトラベルが絡んだ物語なので、「若かりし日のK」も登場します。ジョシュ・ブローリンが笑えるほどトミーに似ています。ジョシュは『ブッシュ』(2008年)でもジョージ・W・ブッシュ大統領とソックリでしたが、素のままだとあまり似ているようには思えないのに、メイクと演技で完璧になり切るというのは、やはり才能ですねえ。
 どっちかと云うと、本作ではトミーの出番はあまりなく(やはり年齢的にアクションはキツいか)、活躍するのはジョシュの方です。

 宣伝ポスター等では、この三人が並んでいるスリーショットがお馴染みですが、実際にはトミーとジョシュは同じ場面には一度も登場しません。過去と未来の自分が対面するというシチュエーションが無いからで、何とも残念デス。
 『告発のとき』(2007年)、『ノーカントリー』(同年)、そして本作と、三本も同じ映画に出演していながら、一度も共演シーンがないとはこれ如何に。

 今回もまたキテレツな宇宙人たちが大挙して登場し、画面を賑わわせてくれます。リック・ベイカーの職人技です。でも予告編にあった「喋る壁画」の宇宙人は登場しませんでしたが。
 また、人語を話すパグ犬のエージェントFにも出番無し。残念デス。その代わり、巨大なポートレイトで存在を主張してくれますが(なんでJの部屋にあんな写真があるのか謎です)。
 他にも、前作ではマイケル・ジャクソンも登場して「ボクをエージェントMにしてよ」と訴えていたことを思い出します。できればマイケルのガラスの胸像を、殉職したエージェントの列に加えて戴きたかった……。

 まずは凶悪異星人を収監した宇宙刑務所から囚人が脱獄する場面から幕開けです。どこにあるのかと思ったら、月面か。
 アポロの着陸船がチラリと見えるのが軽い伏線ですね。しかし静かの海にあんな刑務所を建てて、よく見つかりませんねえ。偽装工作も怠りなしか。

 脱獄した囚人〈ボリス・ジ・アニマル〉は、自分の片腕を切断し、刑務所にブチ込んでくれたエージェントKに復讐を誓っていたのだった。逃亡したボリスは、まず単刀直入にKの命を狙うが失敗し、今度はタイムマシンで過去に戻ってKを抹殺する。
 実はボリスはボグロダイト星人の最後の生き残りであり、四〇年前にKが作動させた地球防衛装置〈アークネット〉のお陰で地球はボグロダイト星の侵略から守られていたのだが、その歴史が変わってしまった。
 ボグロダイト星人は滅亡しなかったことになり、現代の地球にボグロダイト艦隊が大挙して襲来する。
 『インデペンデンス・デイ』(1996年)のようなハードな侵略では無く、ヘンテコな触手をウニョウニョさせながら降下してくる宇宙船がなんかユーモラスです(笑っている場合では無いが)。
 ボリスによる歴史改変の影響を免れたエージェントJは、ボリスを追って四〇年前の一九六九年へと赴く。ボリスからKを守り、〈アークネット〉を作動させないと、地球に未来は無い。

 ツッコミ処の最たる点がココです。
 何故、Jだけが歴史改変の影響を免れたのか。誰もが「エージェントKは四〇年前に殉職した」時間線上の人物に置き換えられているのに、何故にJだけ無事なのか。
 更に、「Kがいないから防衛装置が作動しない」ことになるのであれば、他にもKがしてきたことは全部、無かったことになる筈で……。
 すると「JがKにスカウトされてMIBの一員になる」と云う第一作の出来事も無かったことになるのでは。
 JがいつものようにMIB本部に出勤すると、誰もKのことを知らない……どころの話では無く、Jすらも「あんた誰?」な状況になっていないとオカシイのではないか。

 なんかヌルい脚本です。もうちょっと辻褄合わせが出来なかったものか。
 デヴィッド・コープやらジェフ・ナサンソンといったハリウッド大作映画の脚本家が四人もクレジットされていながら、これはあんまりだ。いや、四人もいるから逆に支離滅裂になるのか。
 「Jが歴史改変の影響を免れた」件については、最初はちゃんと理屈の通った設定があったように見受けられるのですが──登場人物のセリフのひとつにそれらしい原因に言及しているものがある──、編集段階でカットされてしまったのか。
 何にせよ、説明不足な感は免れませんです。SF者で無い人は気にならないのかしら。

 そのあたりの状況をスルーしてしまえば、あとは『バック・トゥ・ザ・フューチャー』よろしく六〇年代の世界をドタバタ走り回るウィル・スミスのアクションを笑って観ていられるのですが。
 例によって有名人ネタもちゃんとあります。アンディ・ウォーホルはMIBのエージェントだし(エージェントWとな)、ミック・ジャガーはエイリアンですよ(きっと正体は豹っぽい異星人ですね)。
 六〇年代と云うと、公民権運動華やかなりし頃で、黒人に対する差別や偏見も今よりずっとあった時代なので、ウィル・スミスが警官から不当な扱いを受けるという描写に、チクチクと風刺的なものを感じます。
 まぁ、それほど深刻な描写ではありませんし、MIB謹製のニューロライザーをピカピカさせて相手を煙に巻いてしまうので、風刺的な場面もあっさりめです。

 若かりし日のKと一緒にボリスを追うJ。ボリスはKの命を狙うだけで無く、ある異星人の命も狙っていた。
 実はその人物こそが、対ボグロダイト星人防衛装置〈アークネット〉の提供者であり、エージェントKはその人物から託された装置で地球を守ったのだった。
 しかしK以外にその詳細を知る者はおらず、四〇年経っても〈アークネット〉がどんなものだったのか、誰も知らないので、探しているJにも判らない。このあたりの展開は前作『メン・イン・ブラック2』と同様ですね。
 「Kしか知らない秘密」があまりにも多いような気がします(それでいいのかMIB)。

 命を狙われている異星人グリフィンを演じているのが、マイケル・スタールバーグ。設定上、多次元宇宙を見通す能力があるので、何とも浮世離れした不思議な人物になっています。
 マイケル・スタールバーグはマーティン・スコセッシ監督の『ヒューゴの不思議な発明』(2011年)で映画史家ルネ・タバール先生の役でしたがヒゲが無いので判りませんでした(汗)。他にもコーエン兄弟の『シリアスマン』(2009年)にも出演しております。

 そしていよいよクライマックス対決となるのですが、タイムジャンプした行き先が一九六九年の七月であると云う時点で、既に勘の良い観客にはネタバレでしょう。
 Kがボリスを逮捕した──あるいは殉職した──場所はフロリダ州ケープカナベラル。その日、そこから歴史的なロケットが打ち上げられることになっていた……と云うワケで、最終対決はアポロ十一号の発射台の上での大立ち回り。
 これはなかなかの見せ場です(3Dですし)。こういうアクション演出はお見事です。
 また、再度のタイムジャンプを使った窮地の脱し方も、ニコラス・ケイジ主演の『NEXT ネクスト』(2007年)みたいです。SFっぽいのでそういうのは好きなんですが。

 Jの生い立ちに関する伏線もラストできちんと回収され、ちょっとホロリとする場面もあります。
 でもそれを云うと、歴史改変が行われた際に、あの人物は存命していることになるので、それをスルーしてしまう脚本には、やはり穴が開いていると云わざるを得ませぬデス。

 「奇蹟は起きていないようで、実は結構、起きているんだよ」と云うグリフィンの言葉が味わい深い。
 ほんの些細な行為が、地球の未来に多大な影響を及ぼすワケで、カウンターにはちゃんとチップを置きましょう(笑)。




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