『大統領の陰謀』風に邦題を付けるとすると、『大統領の屈折』とか『大統領の劣等感』あたりになるのでしょうか。
『JFK』、『ニクソン』につづく、オリバー・ストーン監督による大統領三部作(笑)だそうな。完結編がこれかいッ。
まぁ、そもそもはデッチ上げの企画だそうですから。
本来ならオリバー・ストーンはブルース・ウィリス主演による〈ソンミ村虐殺事件〉の映画化に取り組むはずであった。またベトナム戦争物かよ──と云うか、それでこそオリバー・ストーンと云うべきか(笑)。
ところが撮影開始直前でブルース・ウィリスが降板してしまい、製作中止が決定。ピンチのオリバー・ストーンは急遽、代替案を出さねばならなくなった。
海外ロケにも行かず、比較的に費用もかからない、脚本も単純ですぐに撮影に取りかかれそうな映画──が、コレだったとか。
確かに捻った展開や、凝ったカメラ・アングルなんて無い。CG合成皆無。
でもブルース・ウィリス主演の〈ソンミ村虐殺事件〉……観たかったなあ。
それにしても、これほどまでにコケにされる合衆国大統領がかつていたであろうか。在任中からマイケル・ムーアに笑いものにされ、『大統領暗殺』なんぞという嘘ドキュメンタリまで作られ、歴史的評価にはきっと「アホでマヌケな」という枕詞が必ずや付くであろうと云われる大統領。
希有な存在ではあるか。
ニクソンにはどちらかと云うと「シリアスな悪党」というイメージがあるが、ブッシュはもう「マヌケな悪党」と云うしかない。
オリバー・ストーン自身も「『ニクソン』では〈心に闇を抱えた男〉を表現するのに苦心した(だからアンソニー・ホプキンス主演なのね)が、この作品にはそんなものは必要ない」と云い切ったそうですから(笑)。
その主人公ジョージ・W・ブッシュ役にはジョッシュ・ブローリン。なかなか上手く似せています。
以下、各閣僚は名優さん達によるそっくりさん大会(爆)。これは一見の価値ありか。
チェイニー副大統領に、リチャード・ドレイファス。
ラムズフェルド国防長官に、スコット・グレン。
パウエル国務長官に、ジェフリー・ライト。
ライス大統領補佐官に、タンディ・ニュートン。
……皆さん、本当に芸達者。
閣僚会議の場面は、ものすごーく豪華で良くできた「新春スター隠し芸大会」のコントを観ているようでした(笑)。
ついでにブレア英国首相にヨアン・グリフィズ。
唯一、ジョージ・ブッシュ・シニアが……ジェームズ・クロムウェルと云うのが残念。絶対に今は亡きロイ・シャイダーの方がハマっていたと思うのに。
物語としてはシンプル。キャラの描写もシンプル。
そもそもそんなに深みのあるドラマじゃありません。
名家の息子に生まれてしまったボンボンの劣等感に苛まれる苦悩の日々……。
ある意味、〈エディプス・コンプレックス〉がテーマの父と息子の物語ではあるが……。
でも、なんと云いますか。
父親に認められたいのは判るが「一体、いつになったらパパはボクを見てくれるんだ」なんてセリフをですね、五十過ぎの中年男が臆面もなく口にするのはデスね、あまりにも恥ずかしいというか、成長していないというか、そんな男が大統領になっていいのか的な違和感を感じるのデスよ。
父親が大統領になった以上、父を超える為には自分も大統領になるしかない、とか。湾岸戦争で父が仕留め損なったサダム・フセインを倒すことで、父を乗り越えようとか。そんな個人的な理由から戦争を始めちゃったのかよ。
あまりにも情けない。感情移入したくても出来ない。
哀れな……と思うよりも先に、「バカか、こいつ」と突っ込んでしまう。
ひとつはっきりしているのは、努力もせず、反省も謝罪もせず、ただひたすら己の不遇を託つだけの自己憐憫野郎は、破滅しようが何しようが知ったことか、ということですかね。最近の犯罪者にありがちなパターンですね。
考えてみると怖ろしい。
この大統領は見事に「自分のこと」しか考えていないのである。
劇中、ブッシュが国民のことを気にかけるシーンはただの一カ所もない。
それを端的に表すのが、ラスト近くの記者会見シーン。
「御自身の政策の中で最も失敗だったと思われるものは何ですか?」
ブッシュはこれに答えることが出来ない。
もちろん、第三者的には〈ありもしない大量破壊兵器を信じて戦争を始めてしまったこと〉なのだろうが、どうしてもそれを口に出来ない。「あれは自分の失敗ではない」と信じているから。責任は別の誰かにあって、自分にはない。
まぁ、舌先三寸で嘘をつくほどの才覚もないのが、根が善人である証拠と云えなくもないが……。
あまりにも単純で、世界は善と悪の二色しかないと、本気で信じている人は政治家なんぞになるべきではない、というのが教訓か。
何人もの名だたる名優を配してまで作る価値のあるドラマだったのか、と疑問にも思えますが、これが実話に基づく、と云うのが一番怖ろしいですわ。
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