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2009年11月28日土曜日

クヒオ大佐


やはり堺雅人はいい役者である。堺雅人が出演していたら、とりあえずそこそこの出来は期待して良いと思う。
昨年は『クライマーズ・ハイ』、今年は『ジェネラル・ルージュの凱旋』等の例もある。残念ながら『南極料理人』は見逃してしまったが……。

しかし正直、堺雅人主演とは云え、実在した結婚詐欺師の映画と云うのが面白いのか、甚だ疑問ではありました。監督は『腑抜けども、悲しみの愛を見せろ』の吉田大八だし……。どう見ても私の守備範囲外である。

もう堺雅人一点買いで観に行き……。そこそこ満足しました。
やはり堺雅人はいい。

これと似たテイストの映画と云うと、思い起こすのはティム・バートンの『ビッグフィッシュ』である。ある意味、『クヒオ大佐』もファンタジー映画であると云える。

どの辺がファンタジーかと云うと、自分の履歴。およそあり得ないだろうと云う荒唐無稽なものである。
カメハメハ大王の末裔で、英国王室の親類で、米国空軍特殊部隊の大佐である。なんでそんなアホらしい履歴に騙される女性が後を絶たないのであろうか。

堺雅人のおかげでクヒオ大佐が非常に憎めない男として描かれているのがポイント高い。彼のファンタジーは女を騙すためのものではなく、自分を騙すためのものだと云うことが次第に判ってくる。
悲惨な子供時代──貧困にあえぎ、家庭内暴力を振るうロクデナシの父親とか──を画面に出しながら、堺雅人の語る子供時代は幸せに満ち溢れている。
ああ、架空の自分を作り出さなければやっていけなかったのだ。
もはや自分を騙すの為の嘘である。
その為には誰かに信じてもらう必要があった。手っとり早いのが結婚詐欺。
偽りの自分を維持するための資金を女性から巻き上げ、ファンタジーを売りつける。
一石二鳥の計画と云える。

実在の結婚詐欺師と云えば、今年ニュースで話題なった女の詐欺師がいましたなあ。
男から次々と金銭を巻き上げた挙げ句、睡眠薬と練炭で自殺に見せかけて殺していく連続殺人詐欺師が。
あれもまたブログ上に作り上げた超セレブな自分を維持するための詐欺と殺人だったようですが、クヒオ大佐も一歩間違うと同じ道を歩んでいた危険もある。

堺雅人のおかげで、人の良さが強調され、多分に間抜けな側面も描かれる演出もあって、好感の持てるキャラクターになりましたが……。
心を病んでファンタジーに逃避してしまった男を、それでも愛してしまう松雪泰子の演技も巧いです。

時代が90年代ということもあり、「湾岸戦争に莫大な支援金を支払いながら、各国からさっぱり感謝されない日本」という構図が背景にある。そのことが日本人の負い目になっているのか、クヒオ大佐を怪しみながらも、いまいち強気に出られない男たちと云うのも面白い。
正体がバレそうになると、逆ギレした堺雅人が「それでいいのか日本人よ!」と叫んで難を逃れる場面が笑えた。

しかしそれも終盤、内野聖陽が演じる外交官に、完膚無きまでに粉砕されてしまうのであるが。

「何故、女達を欺したッ」
「俺は……彼女たちが望むとおりのことをしてやっただけだ」
「アメリカと同じようなことを云うなッ」

まぁ、自分の為のファンタジーを強引に売りつけながら、相手がそれを望んだのだと言い逃れるのは、通るワケないよね。
そうか、アメリカと同じなのか(笑)。

最後には実話の通り、御用になってしまうクヒオ大佐でありましたが……。
そんなことでメゲる大佐ではない。逮捕されても、彼には逃避できる世界が残されているのだから。

ラストシーンはもう『ビッグフィッシュ』というか、テリー・ギリアムの『未来世紀ブラジル』のように、笑みを浮かべて恍惚とする堺雅人のアップで終わる。
それで幸せなら、もはや云うことは何もありませんです。はい。


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