ミルハウザーの小説は大体、どこの書店でも同じ海外文学ではあっても「アメリカ文学」とカテゴライズされたコーナーに置かれており、「SF&ファンタジィ」のコーナーにはやって来ません。
内容的には充分にファンタジィ小説だったりするのですが、ギリギリ主流文学の範囲にとどまっており、〈こちら側〉からするとジャンル外ということになるのでしょうか(笑)。
ドナルド・バーセルミやアンナ・カヴァン――サンリオSF文庫の作家として紹介された後、主流文学として復刊されてる――と同じく境界ギリギリに位置する作家という感じですね。カート・ヴォネガットまでくると〈こちら側〉の作家なのですが(笑)。
アメリカ・チェコ合作というなかなか珍しい映画です。
2006年のインディペンデント系の製作としては異例のロングランを続けて、やっと今年日本公開。それでも主演がエドワード・ノートンでなければDVDスルーされていたかも知れん。
ポール・ジアマッティとか――『シューテム・アップ』ではキレた役でしたが、今回は燻し銀のシブい役だなあ。
ジェシカ・ビールとか――『NEXT ネクスト』でニコラス・ケイジと競演してましたが、いまいち印象薄い。
割と実力派の俳優を取り揃えているのに。もっと拡大公開してくれ。
チェコとの合作なので、ロケは主にプラハで行われたとか。一九世紀末のウィーンの雰囲気が良く出ています。ハプスブルグ帝国末期というのは、日本で云うと大正浪漫なイメージなんですかね。
なかなかアメリカ映画とは思えぬ落ち着いた映像がヨーロッパ的で、台詞が英語なのでイギリス映画化と勘違いしそうでした。
原作が短編なのですぐに読めます(何故か私は福武書店版『バーナム博物館』を買っていた)。実に短い。
奇術師を志した青年が精進を重ねて巨匠と呼ばれるに至り、ライバル奇術師達との腕比べにも勝利し、孤高の道を突き進んだ挙げ句、もはや誰にも仕掛けを推理できない高度な幻影を作り出し、やがて自身も幻影と化して消え失せる。
――だけの物語を、かなり脚色しております。確かにあの原作そのままでは映画化は難しかったでしょう。そこで公爵令嬢との恋とか、ハプスブルグ帝国皇太子との三角関係とかを巧みに追加し、時代背景を強調し、奇術のトリックをミステリ風に解き明かそうとするなど映画として成立するように頑張ってます。
原作の雰囲気を損なわずに脚色している点が素晴らしいです。
奇術のトリックをミステリ風に――という演出が、昨年の『プレステージ』にも似ています。ただこちらはあくまでも幻想的で、明確な仕掛けを説明するようなことはしませんが。
でも〈騙しのテクニック〉を駆使し、どこからトリックを仕掛けられていたのかが最後に判るラストは、ミステリ映画のどんでん返しにも似たカタルシスを得られます。
ミルハウザーはそんなこと一行も書いてませんが(笑)。
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