近年、東映の過去のヒーローが次々にリニューアルされておりますが、仮面ライダーやスーパー戦隊の映画にゲストで登場するのではなく、単体の劇場版で製作されるとは、東映の気合いの強さが伺えます。
マーベル・コミックスのアメコミ・ヒーロー達がどんどん映画化されると云う時流にあやかっているのは判ります。ハルクやパニッシャーは、一度の失敗でも懲りずにリメイク、リブートされておりますし、時としてスパイダーマンのような成功作でもリブートされますからね。
前兆は以前から伺えました。『レッツゴー仮面ライダー』(2011年)のラストに、キカイダー、キカイダー01、イナズマン、快傑ズバットが四人そろって顔見せする場面がありましたし、『スーパーヒーロー大戦 Z』(2013年)のラストシーンには予告まで付いてきましたし。
とは云え、キカイダーは別格扱いですねえ。
東映の特撮番組のヒーローは、今までも仮面ライダーのお祭り映画の中でゲストとして登場しておりましたが、キカイダーは単体の劇場版ですか(いや、宇宙刑事ギャバンも単体のリメイク劇場版がありましたね)。
あれ、ズバットは?
東映のクロスオーバー手法にも磨きが掛かって、最近では劇場版公開前には必ず、その時に放映中の特撮番組の中でゲスト出演させるエピソードを挿入して、宣伝にも怠りありません。キカイダーも『仮面ライダー鎧武』の中に一話だけ登場しておりました。『鎧武』の本筋を一旦、差し止めてでも、脈絡無く一話完結の番外編を入れてしまうあたり、あざといですねえ。
仮面ライダー鎧武が人造人間キカイダーと共闘するストーリーで、ハカイダーも登場しました。
とりあえず本作で登場するのは、キカイダーとハカイダーのみです。01も、ビジンダーも、ワルダーも今回は出番なし(マリさんは登場すれど、ビジンダーに変身してくれません)。キカイダーとハカイダーのみに焦点を絞ったストーリーです(やはり基本はそれか)。
多分、01達は続編になったら登場してくれるのでしょう。ハカイダーも一度倒されないと四人衆に増殖してくれませんし。
でも、ホントに続編が制作されるのか、甚だ心配ではありますが……。
一時期、雨宮慶太監督によるハカイダーを主役にしたスピンオフ企画『人造人間ハカイダー』(1995年)なんてのもありましたが、一作きりで終わっておりました。そう云えば、アニメ版もありましたが、そちらは全く未見です(汗)。
今度は再び、キカイダーを主役にして、ハカイダーが敵役です。背景設定もガラリと変わって、登場人物名だけ同じで、まったく新たなストーリーとなっています。リブートですから。
リブートに際して、現代に合わせた背景が用意されております。本作に於いて、人造人間を作っているのは日本国です(悪の秘密結社ではないのか)。
国家的な事業として「ARK(アーク)プロジェクト」が立ち上げられ、人間を補佐し、介護や救助での利用を目指しています。誇らしげに「日本の未来はロボットが救う」と総理(石橋蓮司)がぶちかましております。日本でロボット開発が盛んであるところはリアルですね。
このプロジェクトの主任研究者が、光明寺博士(長嶋一茂)です。共同研究者に神崎教授(鶴見辰吾)と云う人がおりまして、常に光明寺博士の後塵を拝して敵愾心を燃やしております。
後にフルネームが明かされますが、教授の本名は「ギルバート神崎」でした。だから「プロフェッサー・ギル」か(なんか無理矢理ぽい)。
当然、光明寺博士はロボットの平和利用を目指しているわけですが、国家的プロジェクトですので国防分野でも利用しようと、国防大臣が色々と口出ししております。そもそも国防大臣が計画のトップであるので、軍事利用を念頭に置いているのは明かです。
これも後半で明らかになりますが、「ARKプロジェクト」の名前には、後で国防(“defense”)が冠せられて、略称の読みが「アーク」から「ダーク」になってしまいます。
つまり本作では、敵は国家になるわけで……。国家的事業をそんな怪しげな名前にしてしまって、エエんかいな。あからさまにイメージ悪いと思うのデスが。
まぁ、「有事の際でも戦おうとしない国民に代わって必要となる」と云う国防大臣の風刺的な台詞には何となく肯けるものがありますが。
するといずれ尖閣諸島に武装したC国の兵士が上陸なんぞした日には、日本国は集団的自衛権を行使してダーク破壊部隊のロボットを差し向けるのか。グレイサイキングや、グリーンマンティスみたいなロボなら、C国の兵隊さんも張り合いがあるかもしれませぬが、カイメングリーンみたいな奴が相手だと、やるせないでしょうねえ。
本作では、前座のヤラレメカとして、グレイサイキング似のロボも登場します。
冒頭から、一組の男女が激しい格闘訓練を行っています。ワイヤーアクションによる殺陣もなかなかお見事。戦っているのはジロー(入江甚儀)とマリ(高橋メアリージュン)。
人間離れした格闘でありますが、ジローの動きには躊躇いがあり、劣勢に立たされている。ジローの良心回路が暴力的な行為を抑制していると説明されます。
実は、光明寺博士が不在の間に、神崎教授がロボット同士で模擬戦闘を行わせていたわけで、国防大臣(中村育二)に向かって「光明寺の作ったジローより、私の作ったマリの方が優れている」とアピールしておりますが、なかなか認めてもらえず屈辱を味わっております。
模擬戦終了後、無抵抗のジローに「お前は不完全な機械だ!」と八つ当たりするのも見苦しいですね。この言葉を覚えてしまって、ジローが「僕は機械だ。キカイだ。キカイダー」と名乗るようになると云う、なかなか苦しい展開ですが、避けては通れない段取りです。
背景設定を紹介した後は、ドラマはいきなり一年後。
不慮の事故で光明寺博士が亡くなり、遺された長女ミツコ(佐津川愛美)とマサル(池田優斗)は姉弟だけで暮らしていると云う状況。ミツコは研究で家を空けることの多かった父親を怨んでいて、光明寺博士の事故に不審な点があるとつきまとうルポライターを一蹴しております。
このルポライターが服部半平(原田龍二)。もう「忍者の子孫な私立探偵」ではないのか。しかし事故から一年経つのに、まだ調査を続けているとは悠長な人です。
旧作の登場人物が色々とリファインされて登場するのはよろしいのですが、どうにも説明的な台詞やモノローグが多くて、ちょっと興醒めなところがあります。これは脚本が悪いのか。「臭い芝居」が至るところに見受けられます。
『キカイダー』に初めて接する小さなお友達にも判り易いようにすると云う配慮でしょうか。でもアクションはリアルかつハードですし、あまり長々と説明台詞を続けるのも如何なものか。
子供は端からそんな台詞は無視するだろうし、大人には必要無いと思うのデスが。
わざわざミツコに「白馬に乗った王子様なんかいない。現実の男が見ているのはスマホだけ。だから私もアニメや漫画の方がいい」なんて、語らせても意味は無いような気がします。
そして何故か一年が経ってから、いきなり武装したレンジャー部隊みたいな連中がマンションに突入してきて、光明寺姉弟を拉致しようとする。
国が敵なので、このレンジャー部隊みたいな連中が、旧作で云うところの戦闘員ですね。リアル指向なドラマなので、もはや「ギル、ギル」とは云わなくなってしまいました。チト寂しい。
それにしても、派手なアクションを見せたいのは判りますが、拉致するのに、もうちょっと穏便と云うか、目立たない方法は無かったものかと思わざるを得ませんです。アクションそれ自体は迫力あるしお見事なのですが、どうにもドラマの中に無理矢理、派手な見せ場を挿入している感じがします。
そして、姉弟の危機に、どこからともなく忽然と現れる謎の男。ちゃんとギターを背負っているのはお約束ですね。
何故か、ジローのギターはアコースティックギターではなく、エレキギターに変更されています。それでもちゃんと劇中では「例のメロディー」を奏でてくれるのですが、どこにアンプがあるのだろうかと考え、自分自身がアンプなのかと思い当たって笑ってしまいました。
このあと、あっさり姉弟の前で変身し、戦闘員共を蹴散らしてくれるのですが、リアル指向のドラマは変身ポーズや掛け声が省略されているので物足りません。一応、「スイッチオン」とは呟きますが、派手なポーズや見得を切るような場面はなしデス。うーむ。
やたら説明台詞が多いくせに、お子様にアピールする肝心の変身ポーズはスルーしてしまうとは、演出的に如何なものか。
本作に限らず、最近の東映の変身ヒーローものは総じてCGのエフェクトが派手なので、役者の大仰な身振り手振りは押さえられる傾向にあるようですが、本作ではCGのエフェクトも地味なので、どうにもキカイダーの変身がカッコよく見えません。
本作に於けるキカイダーは、ボディの表面に「人間の顔や衣服」をプロジェクションマッピングのように映しているだけなので、変身がすごくアッサリしております。と云うか、それでは「スイッチオン」ではなくてマッピングのスイッチを「オフ」にして元に戻っているだけなのでは。
旧作に則って、神崎教授は亡き光明寺博士が何処かに隠した「光明寺ファイル」を探していると説明されますが、この「光明寺ファイル」の設定もどうなんでしょ。
実は、本当に生前の博士は息子マサルの体内に外科手術でマイクロチップを埋め込んでおり、父親としてそんなことしてエエんかいと突っ込まずにはおられません。また、マサル本人が全く気付いていないのも、あまりにも不自然。もう、色々とツッコミ処が多くて困ります。
姉弟の逃避行にジローが同行し、その行程で弟がジローに懐いていくのを、複雑な面持ちで見守る姉の図に、ジェームズ・キャメロン監督の『ターミネーター2』(1991年)を彷彿とします。
姉弟が頼ろうとした光明寺博士の恩師として、前野博士と云う人物が現れますが(石ノ森章太郎の原作では和尚さんでしたね)、これを演じているのが伴大介でした。
新旧のジローが対面する場面は、なかなか感慨深いものがありました。
紆余曲折の末、光明寺ファイルは奪われ、ダーク・プロジェクトのロボット開発は前進するのですが、功績を認めてもらえない神崎教授は、自分の技術の正当性を証明しようと自身の脳髄をロボットに移植し、ハカイダーが誕生します(でもちょっと登場が遅かったような)。
厳密に云うなら、このハカイダーはロボットと云うよりサイボーグなのですが、「人間もまたモノに過ぎない」と云う台詞で、強引にロボットになりました。
本作では、最初から教授がハカイダーなのですが、自棄になってプロジェクト自体を破壊しようとする姿勢はちょっと不自然に思われす。出世の道を自ら断ってどうする。
しかし如何に「キカイダー対ハカイダー」の図式に持ち込みたいとは云え、かなり強引な展開であります。アクションの見せ場としては迫力あるのに、ジローの方に戦う必然性があまり感じられません。
ドラマ的には、最初から登場しているマリとの因縁の方が深い筈ですが、それではビジンダーが主役になってしまいますか(そっちの方が良かったかも)。
総じて、アクション場面は見応えがあるのに、そこに行き着くまでのドラマが物足りないというか、中途半端というか、「泣きの芝居」で引っ張る演出は見たくなかったデス(また邦画の悪い癖が)。
一応、ハカイダーを倒しても続編につながるように、「国家的陰謀は進行しているのだ」的なエンディングでしたが、本当に続編はあるのでしょうか(もう一度、リブートが必要かも)。
エンドクレジットにかつての主題歌「ゴーゴー・キカイダー」を流しつつ、旧作の名場面集を見せてくれたのは嬉しかったです。そう云えば、サイドマシンは本作には登場しなかったなあ。
ランキングに参加中です。お気に召されたならひとつ、応援クリックをお願いいたします。
にほんブログ村