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2014年5月15日木曜日

ゴール・オブ・ザ・デッド

(Goal of the Dead)

 サッカーW杯がブラジルで開催される時流に乗って公開された、「ゾンビ de サッカー」なホラー映画です。この時期を逃せばビデオスルー確定な代物ですね。
 題名だけでお判りの通り、ほとんど出オチ、一発ネタです。
 サッカーの試合中、スタジアムにゾンビが乱入し、瞬く間に観戦者が感染者になって、スタジアムは阿鼻叫喚のるつぼと化す。選手もゾンビ、監督もゾンビ、サポーターもゾンビ。ゾンビのグルーピーに、ゾンビのフーリガン。
 さすがはサッカー大国フランス……なのか(一応、本作はフランス映画であります)。
 でもW杯はストーリーにまったく関係ないし。無理矢理、「Z杯」などとこじつけて宣伝されておりますが、ゾンビとサッカー対決する場面は……最後の方にチラッとあるだけ(看板倒れにならないギリギリな程度)。

 こんなB級ホラーを観に来る客は少ないと思われたのか、劇場側も色々と割引サービスを実施したりしております。
 チケットカウンターで、ゾンビのモノマネをしたら料金が千円になると聞いたので、スタッフのお姉さんの前で「うげえええ」と呻いたら、ちゃんと千円にしてくれました。
 上級者になると、サッカーのユニフォーム上下着用とボールを持参で更に割り引き、加えてゾンビのメイクまでしてくると無料鑑賞になるそうな。さすがにそこまでの強者はお見かけしませんでしたが、実際にやらかした人はいたのかしら。

 たまたま私が鑑賞したときは、上映前に歌舞伎俳優の片岡亀蔵さんのトークショーが行われることになっていて、ちょっと得した気分でした。
 これはシネマ歌舞伎『大江戸りびんぐでっど』(2010年)がリバイバル上映されることに引っ掛けたタイアップ企画だったそうで、歌舞伎俳優の中では「大のゾンビ好き」と云われる片岡亀蔵さんが、色々とゾンビ愛を語っておりました。
 『大江戸りびんぐでっど』の苦労話とかも、なかなか興味深い内容でした。
 しかしトークの中で、色々と本作について触れているところがありまして、「人生、無駄なことも必要である」とか「精神的に鍛えられる映画は自己啓発にも繋がる」と云った旨の発言があり、何となく鑑賞前から内容を察してしまいました。ああ、やっぱりそうなのか。
 いや、バカなB級であると承知の上で観に行ったのですが(汗)。

 本作は何故か、前後編に分けられていて、監督が各々別になっています。
 前半戦の「死霊のキックオフ大乱闘編」と後半戦の「地獄の感染ドリブル編」。もはや配給会社が色々とネタを付け加えて盛り上げようとしているようです。そこまで盛らないとイカンのか。
 前半戦の監督が『ザ・ホード/死霊の大群』(2010年)のバンジャマン・ロシェ監督で、後半戦の監督が『エイリアンVSヴァネッサ・パラディ』(2006年)のティエリー・ポワロー監督。

 この二人で前後編の映画を撮って、B級にならなかったら不思議というものでしょう。本作は尺にして一二一分ですので、大体が各編六〇分ずつといった按配でしょうか。日本ではノーカットで一本の作品としていますが、本来は別々の上映作品だそうな。
 でもこれを分ける意味があるのか甚だ疑問です。どう見ても連続したドラマになっていて、あからさまに前半のラストが「つづく」でブッた切られて後半に雪崩れ込む構成ですし、前半だけ劇場公開しても意味なしのように思えます。無論、後半だけ観てもワケが判らないでしょうし。
 B級映画の二本立てとしても、クエンティン・タランティーノの『グラインドハウス』(2007年)みたいにはなりませんですねえ。
 とりあえず、日本では途中休憩もなしに前後編一挙上映で助かりました。

 主演はアルバン・ルノワール、シャーリー・ブルノー、ティファニー・ダヴィオ、アメッド・シラといった方々ですが、よく存じませんデス(汗)。
 でもB級ホラー映画に有名俳優は必要ありませんですね(むしろ不要でしょう)。
 皆さん前後編を通して、そのまま出演されております。
 実は前後編、別々の監督が撮ることにもあまり差異が感じられなかったので、ますますこの企画がよく判りませんデス。ドラマがシームレスに繋がっているのは、逆に有り難いですが。

 まずはのっけから大混乱のスタジアムの様子がアバンタイトルとして流れます。
 フリーガンがピッチに発煙筒を何本も投げ込んだらしく、試合は中断しておりますが、スモークの向こうで選手達が乱闘しているようでもあります。実際は襲われていたりするワケですが。
 観客席にも混乱が見受けられ、サポーター同士が乱闘しているようにも見えます。どんどん感染が広がっているのですね判ります。暴れるフーリガンとゾンビは紙一重。

 最初にクライマックスのサワリをチラ見せしておき、どうしてこうなった的に時間が巻き戻って数時間前に。
 フランスの田園地帯を、サッカーチームのバスが走って行くオープニングです。実に平和です。フランスのサッカーリーグだから「リーグ・1(アン)」か。
 パリのチームが地方のスタジアムで地元のチームと対戦するようで、取材のためにレポーターが同行しております。ザッとバスの中で登場人物と状況が説明されます。

 主人公はかつてのスター選手で、今は若干落ち目のアルバン・ルノワール。これから行く地方都市キャプロングの出身で、かつて地元チームで将来を嘱望されたものの、期待を裏切ってパリのチームに移籍して地元からは怨まれ続けていると云う設定。
 アルバンの移籍のお陰でキャプロングは優勝を逸してしまい、以来ずっと怨まれ続けている。
 十七年も前の出来事なのに、田舎の人は執念深いのですね。

 地元キャプロングでは、裏切り者アルバンの所属するチームが来るというので、フーリガン共が騒ぐ気満々で待ち受けております。
 そしてかつてのチームメイトも、アルバンに復讐する気満々だった──と云うところで、得体の知れない洋館の地下では、怪しげな医者がひとりの選手──地元チームのエースストライカーらしい──にドーピングを施そうとしていた……。

 何も説明がありませんが、このドーピングのお陰でゾンビが誕生します。一体、どんな薬なのかとか、どこからその薬を入手したのかとか、まったく説明がありません。とりあえず説明抜きにストーリーが進行しても、どこかで事情説明とかあるのかと期待しましたが、そんなものはありませんでした。
 素晴らしく御都合的なB級展開です。
 とにかく、その薬でドーピングすれば憎いアルバンに復讐できるのだと注射を受けて、早速に身体に変調を来し、白目を剥いて口から泡を吹き出しております。そして洋館を飛びだして行く。

 本作に於けるゾンビは、『28日後…』(2002年)や、『ドーン・オブ・ザ・デッド』(2004年)のようなアクティブかつアグレッシブなゾンビです。まぁ、そうでないとサッカーの試合は出来ませんからね。古典的なロメロ風ゾンビではスポーツの試合には甚だ不向きでしょう。
 監督達のコメントによると、本作には『ショーン・オブ・ザ・デッド』(2004年)などのコメディ系ゾンビものに対するオマージュがあるそうですが(確かにそう云う場面もありますが)、どちらかと云えば本作は『28日後…』の系統に属するものでしょう。

 試合前に森の中を駆け巡りながら、手始めに不運な人達を血祭りに上げて感染を拡大させていくゾンビストライカー。静かな田舎町に、少しずつ破局の種が蒔かれていく演出はお約束ですが手堅いです。
 電話線工事中の業者が襲われたりして、街が孤立していく段取りもしっかり描かれております。フーリガン共が騒ぎを起こすことを懸念してパトロール中の憲兵隊が惨殺死体を発見したりするホラー映画にお約束の場面もあります。
 フランスの警察組織に馴染みが薄いので、「憲兵隊」と云われましてもピンと来ないのは、エリック・ヴァレット監督の『プレイ/獲物』(2011年)と同様です。本作ではアメリカの映画と同じく「田舎町の警察署」といった感じです。
 憲兵隊の隊長が、警察署長という理解で概ね正しいようです。

 総じて、事前の状況説明と破局に向かって進んでいく段取りの描写が丁寧です。ゾンビ映画にしては若干長めの二時間と云う尺もやむを得ないでしょうか(一般的には九〇分前後でも充分と思いますが)。
 それにしては、根本的なゾンビ誕生の経緯を省略しまくりなのは御愛敬。そんな説明よりもジワジワ進行していく過程の方が大事ですね。

 街のほとんどの住民がスタジアムに集結し、いよいよキックオフです。
 劇中の時間経過は、主人公達が街に到着する午後から始まり、ナイター試合が開催され、ゾンビで大騒ぎになって、翌朝にはラストを迎えると云う、比較的短い時間の出来事が描かれております。
 試合開始前から、主人公アルバンには観客席から非難囂々、審判までもがアルバンに不利な判定をする始末。アウェーの試合は厳しいと云いますが、これは酷い。
 結果、レッドカードで一発退場を喰らって引っ込んでしまうので、主人公は難を逃れるわけですが。

 計画通り、フーリガン共が発煙筒を投げ込み、ピッチの様子がよく見えなくなった頃に、ゾンビストライカーの入場。煙に巻かれて何がナニやらの間に、チームメイトも対戦相手も襲われて感染していきます。
 のみならず、観客席の最前列にいるサポーターにもゾンビストライカーのゲロが吐きかけられて一発感染。
 本作での感染者は口から泡を吹いたり、ゲロを吐いたりしながら感染を拡大させていきます。飛沫感染で、数十秒後には発症するあたりも『28日後…』や『ワールド・ウォーZ』(2013年)並みのスピード感染です。
 観客席でサポーターがゲロのウェーブをするギャグも見せてくれます。

 退場を喰らって早々にスタジアムを出て、バーで飲んでいた主人公は難を逃れ、やがてスタジアムからあふれ出したゾンビ達が街を破壊していく中、バーに籠城する羽目になる(このあたりが『ショーン・オブ・ザ・デッド』ぽいか)。
 他にも憲兵隊の隊長と逮捕されたフーリガンや、チームメイトの中でも感染を免れた者達が数カ所でサバイバルしていく展開が同時並行的に描かれていきます。
 自分だけ助かろうとして、仲間を見捨てて逃げ出した奴がやられたりするのは当然です。このあたりはもう、お約束テンコ盛りの黄金のパターン。

 街は破壊され、あちこちで出火し、大騒ぎになる中、生き延びた連中が少しずつ集結していく流れで、その過程で主人公アルバンの過去や人間関係が明らかになっていくわけですが、主人公があまり誉められた人間ではないので感情移入はできません。過去に対する反省もないし、怨まれて当然のような。
 発端となるゾンビストライカーが、かつての親友だったりとかするわけですが、その決着の付け方も弱い。

 定番のグロい描写も、手堅いですが標準的でしょうか。銃弾がスローモーションでゾンビの頭部を破壊するCG場面等も挿入されたりするのですけど。
 終盤、生き残った連中が最後にスタジアムに戻ってくると同時に、ゾンビの大群に囲まれて万事休す。
 そこで強引にゾンビ達とサッカー対決する展開です。ゾンビ化してもサッカー大好きな連中だから、ボールがあると無闇に襲ってこないのが笑えます。
 取って付けた御都合主義な場面ですが、サッカー対決はそれなりにカッコ良く撮れておりました。ただ、ゾンビの頭をゴールに蹴り込む場面は、それほど大した場面ではなかったのが残念(ポスターの絵の方が何倍も迫力あります)。

 何とかスタジアムを脱出し、街から逃げ出したところで、軍隊が出動してきて一件落着。そのままエンディングに。
 序盤の仕込みはそれなりでしたが、ラストがなし崩しな感じです。
 エンドクレジットで、その後の様子がエピローグとして紹介されていきますが、ヒドいお笑い落ちで、シリアスコメディ路線が台無しになった感があります。それなりにゾンビ愛は感じられましたが、悪ノリしすぎでしたかねえ(B級だしな)。




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