「ポゼッション(憑依)」だけではタイトルがシンプルすぎるので、過去の同名の作品と重複しまくりですが、特にどれとも関係はありません。ホラー映画にはありがちな単語ですから仕方ないか。
有名なところだと、アンジェイ・ズラウスキー監督による『ポゼッション』(1981年)がありますが、別に本作はリメイクではないです。
冒頭、これは実話に基づいた物語であると断り書きが表示されます。「ある家族の二九日間にわたる恐怖体験」であるそうな。
オーレ・ボールネダル監督は、デンマーク映画『モルグ/屍体消失』(1994年)で知られ、後にユアン・マクレガー主演でハリウッドリメイクされた『ナイトウォッチ』(1997年)でも自分で監督を務めておられましたが、実はどちらもスルーしております。特に後者は観ておきたかった。
しかしそれ以外では、とんと名前をお見かけしませんです。あまりハリウッドでは仕事していないのか。
本作は久々のハリウッドに於けるボールネダル監督作品ですね。私もこれが初めてデス。
主演はジェフリー・ディーン・モーガン。『グレイズ・アナトミー/恋の解剖学』とか、『スーパーナチュラル』といった海外ドラマへの出演の方が有名なようですが、個人的にはザック・スナイダー監督による『ウォッチメン』(2008年)の〈コメディアン〉役の方が馴染み深いです。SF者ですから。
ジェフリー以外には、あまり有名な俳優は起用されておりません。オカルトホラーなジャンル映画には有名人は必要無いか。ジェフリー・ディーン・モーガン自身も玄人好みぽいし。
ジェフリーの娘役を演じる二人の女の子が、可愛いです。
長女役がマディソン・ダヴェンポート。次女役がナターシャ・カリス。
特に次女のナターシャが新人とは思えぬ芸達者ぶりで、悪魔憑きの少女を熱演しています。
先述のとおり、本作はオーソドックスなオカルトホラー映画であります。丁寧に作られており、定番の演出、お約束をしっかり守る方針が貫かれておりますが、逆に大きく逸脱しないので、スレたオールドファンには物足りない向きもあるでしょうか。
実は、意外な展開はナニひとつ起こらないと云ってもいいです。
黄金のパターンを楽しめるマニアか、これからオカルトホラーを観てみようという初心者向けであると申せましょう。だから個人的には……あまり怖くなかったデス(汗)。
ぶっちゃけ、ウィリアム・フリードキン監督のオカルトホラーの金字塔『エクソシスト』(1973年)と同じパターン。
そもそも、「悪魔に憑依されてしまった少女を、悪魔祓いして助けよう」と云うストーリーなので、お約束テンコ盛り。CGによる特撮など映像的には格段の進歩がありますが、演出自体がオーソドックスなので、取り立てて派手な見せ場はありません。
静かに、じわじわと異常な事態が進行していきます。
プロローグは、とある住宅街の一軒から始まります。
喪服を着た中年女性が、棚の上の木箱を見つめている。ちょっと大きめのオルゴールぽい長方形の箱ですが、あまり美しくない。これが得体の知れない代物であるのはすぐに判ります。
箱の中からは不気味な声が呪文を詠唱するように聞こえてくる。
意を決して箱を破壊しようとトンカチを振りかざすも、見えない力にはじき飛ばされ、逆にボコボコにされてしまう。帰宅した女性の息子が血だらけで倒れている母を見つけて救急に通報。
詳細な事情は説明されませんが、箱が不吉なものであることだけは充分に判ります。
がらりと場面が変わって、本題に。
ジェフリーは大学のバスケットボールのコーチですが、最近離婚したことが説明されます。小学生と中学生くらいの二人の娘がいますが、親権は妻の側にあるらしい。
週末だけ娘たちとの面接を許されて、自分の新居に連れて帰ろうとしている(元の家は妻のものになったようです)。
離婚家庭で、父親が子供との面接に現れると云うパターンは、洋画ではお馴染みですねえ。仕事ばかりで家庭を顧みなかった男であると云うのも、お約束の設定。
独身に戻って新たな家に引っ越したにしては、れっきとした一戸建てを購入しているあたりに、アメリカの住宅事情は恵まれているなあと感じてしまいます。それともバスケのコーチはそんなに高収入なのか。
週末だけとは云え、娘達を泊める為の部屋もきちんと用意していますし。
転居して間もない為、食器や家具を買いそろえる必要があるところに、たまたま通りかかった家が不要家具一掃のガレージセールを行っているのを見つける。この家が、プロローグで登場した家です。
売りに出されている家具や食器に混じって、例の木箱も並んでいます。当然のことながら、娘がこれに目を付ける。実にサクサクした展開ですね。
不吉な前兆に気付くことなく、箱も買って帰るワケで、その夜から奇妙なことが起き始める。
誰もいないのに冷蔵庫が荒らされていたり、夜中に何者かの声がヒソヒソと聞こえてくるあたりが、ギレルモ・デル・トロ監督の『ダーク・フェアリー』(2011年)のようでもあります。アチラも古典的なホラーでしたね。
本作で、魔物の標的にされてしまうのは、幼い次女の方。次第に箱に取り憑かれていき、振る舞いが異常になっていく。
片時も箱を手放さず、学校にも持参するようになり、ちょっかいを出した男子生徒に過剰な暴力を振るったりします。
しかし年頃の娘の情緒不安定な行動は、すべて両親の離婚の所為にされてしまう。おかげで事態は悪化の一途を辿っていきます。このあと、学校の先生も見えない力に襲われてお亡くなりに。
昆虫の異常発生もお約束。本作の場合は、蛾がブンブンと飛び回っています。これもCGか。
更に、憑依された少女の中に「別なもの」がいると云う描写が、実に判り易く描かれております。『エクソシスト』より判り易い。
少女が洗面所で喉の奥に違和感を感じて鏡を覗き込むと、自分の喉の奥に何者かの指がチラリと見える。これはかなり気色悪いですが、実に即物的な描写です。
他にも、皮膚の下を何かがゾワゾワ這っていたり、片眼だけが異様に裏返ったり。
最新式の医療機械が登場するのも、『エクソシスト』以来のお約束のパターンでしょうか。
MRI検査の結果、少女の体内透視画像に人の顔らしいものが映る。心霊写真みたいです。
映像的には面白いところもあるのですが、もはや掴み所のない霊ではなく、しっかりと実体を備えているのが現代的と云うか、CGで描けるからと云ってしっかり見せると、あまり怖くなくなりますねえ。
本作は怖いと云うよりも、気色悪い、不気味であると云った方が正しいようです。
一方、娘の異常行動の原因がすべて木箱にあると睨んだジェフリーは、これを大学の知人に見せると「ユダヤ教のディビュークの箱」であると教えられる。即ち、この箱は悪魔、悪霊の類を封じ込める為に作られたものであると。
割と簡単に箱の正体が判明します。本作は実にテンポ良く、何事もサクサクと進行していきますが、それもあって、やっぱりそれほど怖くありません。
必要な段取りをきちんと踏みながら、丁寧に作っているのは判るのですが。尺が九二分ですから、あまりゆっくりしている暇がない。
こういう場合、元の所有者にも由来を聞きに行ったりとかするのかとも思われましたが、売り手の出番は冒頭のみでした。正体が判ったからには、詳しい来歴は省略です。
ジェフリーは一足飛びにユダヤ教の司祭の元を訪れる。箱がユダヤ教のもので、悪魔を封じていたものなら、ユダヤ教の司祭に解決策を教えてもらおうと云う、実に合理的かつ的確な判断です。
迷いがないのが素晴らしいけど、オカルトホラーとしては、ちょっとライトな印象です。
年寄りの長老たちが尻込みする中で、若い司祭が協力を申し出てくれます。
ここからいよいよクライマックスの悪魔祓いが始まります。演出に一切のヒネリがないのも清々しい。離婚した夫婦も、我が子の危機に際して再び固く団結です。
司祭が祈祷を唱えると少女が苦しみ始め、見えない力が周囲で暴れまくる。
ここで『エクソシスト』からのお約束台詞まで飛び出したので、ちょっと笑ってしまいました。
「娘の身体から出ていけッ。取り憑くなら俺に取り憑け!」──なんてパパが云ってしまうものだから……。
本作のキービジュアルに、「少女の口から不気味な手が伸びて顔面を掴んでいる図」と云うのがあります。パンフレットにはホラー漫画家の楳図かずおがこの場面を描いたイラストも掲載されております。実にグロい。
でも本編にはそんな場面はありません。
手が出てくるのは少女の口からではなく、パパの口からでした。うーむ。これはこれでエゲツないが、期待していたビジュアルとはちょっと違うような……。
ゲロゲロと気色悪い展開ですが、遂に悪魔が身体の外へ出てきます。MRIの画像に映ったとおりの、ヌメヌメした小人のような姿がチラリと映りますが、司祭の祈祷により、即座に元の箱に封印。
少女も、パパも無事で一件落着。離婚した夫婦の仲も修復され、家族は再びひとつとなる。ジェフリーはもう仕事にかまけることなく、家族一筋の男に改心し、ハッピーエンド。
B級ホラーでこんな結末はアリエナイだろうと思っていると、そこはそれ。やはりお約束は外しません。
悪魔を封じた箱は……この先もいろいろと人手を渡っていくもののようです。
定番のオチに、安心のクォリティ。手堅くまとまっておりますが、やっぱりライトな味わいのオカルトホラーでした。
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