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2012年12月31日月曜日

青の祓魔師

(Blue Exorcist The Movie)

 加藤和恵による人気コミックスの映画化です。TVシリーズ(全26話)でアニメ化された(2011年)後に、劇場版化されました。放送終了後、一年半してからの公開ですが、根強い人気ですね。でも実は原作の方はサッパリ読んでおりません(申し訳ない)。
 一応、TVシリーズは全話制覇した上で鑑賞しました。監督が岡村天斎であり、岡村監督と云えば、私が好きな『DARKER THAN BLACK 黒の契約者』(2007年)の監督さんですし。勿論『DARKER THAN BLACK 流星の双子』(2009年)に至るまで、ブルーレイで買っておりますよ。

 しかし、ぶっちゃけ岡村天斎監督作品でありながら『青の祓魔師(以下、青エク)』は『DARKER THAN BLACK』ほどの出来ではなかったような。特に前半の十話を過ぎるまでがモタついた感がして、キャラが出そろった後半に入ってから、持ち直したように思われましたが……。
 後日、TVシリーズの前半が原作に準拠した展開で(第四巻あたりまで)、後半はオリジナル展開だったと聞いて、妙に納得いたしました(原作ファンの方には失礼)。

 さて、それで劇場版の方は面白いのかしらと半信半疑でした。製作スタッフが随分と入れ替わっておるようですが何かあったのかしら。
 特に監督と脚本が別の人に交代しているのが気になりました。本作の監督は岡村天斎に代わって高橋敦史。脚本は吉田玲子になっています。
 高橋敦史監督と云うと、個人的にはカサハラテツローの二足歩行バイクロボが出てくる『RIDEBACK ライドバック』くらいしか存じませんです。大丈夫なのか。
 一方、脚本の吉田玲子と云うと、『けいおん!』(2011年)と『手塚治虫のブッダ/赤い砂漠よ! 美しく』(同年)がありますな。劇場版『けいおん!』は良かったデス。しかし前者はともかく、後者は……。まぁ、アレも脚本が悪いワケじゃ無い(そうかぁ?)。

 結論から申し上げると、劇場版『青エク』はTVシリーズより遥かに出来がよく、グレードアップされており、大変面白かったデス。
 特に背景美術の気合いの入れようはハンパではありません。実に濃密な空間が演出されており、なんでTVシリーズも最初からこういう風に描いてくれなかったのか、不思議でなりませぬ(いや、予算の都合とか色々あるんでしょうが)。
 キャラクターデザインと総作画監督がTVシリーズと同じく佐々木啓悟でありますし、登場人物の配役も同じ声優さんでありますので、キャラクターに関してはまったく変わりありません。音楽も変わらず澤野弘之です。
 が、物語の舞台となる正十字学園町がね。
 もう名前が同じだけど別の場所なんじゃないかとさえ思えるほどです。いや、街全体のデザインは以前と変わらず実に奇天烈で、景観も何も変わっていないのに、描かれ方が全然違いますよ。

 もう昭和レトロな雰囲気が全開になったノスタルジー溢れる描写は、「ここホンマに同じ場所かいな」と疑いたくなるくらいで。
 しかも今回は中華台湾的なアジアン・テイストも炸裂しまくりで、「祓魔師」も無理にルビふって「エクソシスト」と読ませるよりも、そのまま「ふつまし」と読んだ方がしっくりきますね。
 本作の美術監督はTVシリーズの甲斐政俊から代わって、木村真二と云う方になっています。『スチームボーイ』(2004年)や『鉄コン筋クリート』(2006年)の美術監督も務められた人であると知って腑に落ちました。本作に於ける正十字学園町はまさに『鉄コン筋クリート』の宝街のようであります。
 私は本作の正十字学園町が大変、気に入りました。

 本作のストーリーは、TVシリーズから独立した番外編的エピソードになっていて、十一年毎に行われると云う祭りを主軸に展開していきます。
 この祭りに登場する巨大で壮麗な山車のデザインがまた美しい。中華的旧正月を思わせるデザインと、ねぶた祭の山車燈籠を掛け合わせたような代物です。ちょっと押井守監督の『イノセンス』(2004年)で描かれたお祭りシーンにも似ておりますね。
 その上、劇中では常に空中に何かしらが降っていたり、舞っていたり、漂っていたりしておりまして──祭りの紙吹雪だったり、魍魎(コールタール)と云う低級悪魔の群れだったり──、画面に奥行きを感じます。背景を常に動かしていなければならない処理はかなり難しいのではと察せられますが、これもCGの威力なのでしょう。実に見事です。

 完全独立エピソードですが、キャラクターの説明は一切いたしません。不親切なようですが、大抵の観客はとっくに御存知でしょうから潔く省略したのでしょうか。
 複雑な設定を説明し始めると、主役の奥村燐(岡本信彦)と弟の雪男(福山潤)の生い立ちだとか、本筋とは関係ない説明を延々とやらねばなりませんしね。他にも〈サタンの落胤〉やら、降魔刀を抜くと全身が青い炎に包まれる理由とか、虚無界(ゲヘナ)だ、物質界(アッシャー)だとややこしいことになります。
 とりあえず「悪魔と人間のハーフである主人公が、悪魔退治のエキスパートになることを目指している」だけ判れば大丈夫でしょうか。
 人物紹介をまったくと云っていいほど素っ飛ばすので、上映時間も八九分と短めです。

 主人公と共に祓魔師を目指す祓魔塾の級友達も、登場はすれど、各々がどんな技を持っているのかとか、一切の説明なし。でもそれでOK。何故なら級友達に見せ場はほとんど無いからデス。
 三馬鹿トリオもギャグ要員としてしか出番なし。出雲ちゃん(喜多村英梨)も顔見せ程度。なんでじゃあッ(一番納得できん!)。
 一応、しえみちゃん(花澤香菜)だけは序盤だけでも出番がありましたが。
 聖騎士アーサー(小野大輔)も、登場はしますが戦闘で活躍するより、「今年のお祭りの年男」を演じている方が目立っていると云う有様。
 メフィストフェレス(神谷浩史)とアマイモン(柿原徹也)も台詞が少ない……。

 代わって登場するのは本作だけのゲストキャラ二名です。
 一人目は「台湾から来た凄腕の祓魔師」リュウ・セイリュウ(木内秀信)。なかなかクールな祓魔師で、シュラさん(佐藤利奈)とは顔見知りと云う設定です。
 TVシリーズではバチカンに正十字騎士団の本部があったり、キリスト教的背景が前面に描かれておりましたが、魔を滅する職業にはキリスト教も仏教もないようです。したがって本作で道教の祓魔師が登場しても問題なしか。
 二人目が「正体不明の謎の悪魔」ウサ麻呂(うさまろ)。小さな少年の姿をしており、これを釘宮理恵が演じております。なかなか可愛らしい。くぎゅう。
 本作は燐とウサ麻呂の物語なので、それ以外の全員が脇役扱いなのデス。

 序盤に祓魔師の仕事の紹介として、幽靈列車(ファントムトレイン)退治が描かれますが、これが原因で街のあちこちに被害を及ぼしてしまい、とある祠に封印されていた悪魔を覚醒させてしまう。
 しかし正十字騎士団は祭りの準備に忙しく、再封印に人手が割けない。この祭りというのが、街全体に及ぶ巨大な結界の張り直し作業と同義である為、有力祓魔師がそちらにかかりきりという状態です。シュラさんも魔方陣の中から動けない。
 細かい部分で、大勢の祓魔師が様々な楽器を駆使して呪文を詠唱したりしている様子が描かれているのが興味深いです。
 なりゆきから祭りが終わるまでの数日間、ウサ麻呂の世話をすることになった燐であるが、実はウサ麻呂は大変な能力を持っていた──。

 と、云うところで冒頭に語られる燐の少年時代の思い出──今は亡き父に読んでもらった絵本の筋書き──と、ストーリーがリンクする仕掛けで、実に判り易い展開です。
 『忘れんぼうの村と悪魔』と題された絵本は、昔々、行き倒れの悪魔を助けた少年の物語。仲良しになった悪魔と少年が遊び続けると、村人達は己の仕事のことを忘れて一緒に遊び呆けてしまい、遂に村はさびれ、悪魔は祓魔師によって封印されはしたものの、村は廃村となってしまったという、あまり救いのない童話です。
 この絵本の中の悪魔がウサ麻呂のことであるのは容易く察せられます。
 ゲストキャラであるリュウ・セイリンの御先祖が、同じく絵本の中に出てくる祓魔師であるのもお約束デスね。

 ストーリーは祭りの進行と共に、絵本の中の出来事をなぞるように展開していきます。
 ウサ麻呂は人間の記憶を喰らう悪魔だった。しかし捕食するワケではなく、本人はあくまで人助けのつもりでやっている。
 「嫌なこと、辛いことを忘れてしまえば、みんな幸せになるのじゃ」と云う理屈は判らないではありませんが、かなり危うい。
 宿題のことを忘れるくらいなら害はない(いや、本人の為になりませんね)が、祓魔師が己の職務のことを忘れてしまうのは如何なものか。
 街中の祓魔師が任務を忘れ、お祭りに没頭し始め、結界の力が弱まって、異界から続々と悪魔が侵入してくる。しかしそれに対処すべき祓魔師は誰もいない。
 危機的状況が出来する中、燐はウサ麻呂を説得できるのか。
 例えどんなに辛い記憶だろうと、哀しい思い出だろうと、決して忘れてはいけないものがあるのだ。亡き父の思い出は哀しいが、それを忘れては自分の今まで消えてしう。記憶の蓄積こそが人格を形作るというのはよく判ります。

 『青エク』はTVシリーズの頃から、奥村兄弟の対比が強調される演出になっており、本作に於いてもそれは変わりませんですね。
 絵本を読んでくれた父(藤原啓治)が幼い兄弟に問いかける言葉が印象深いです。
 「お前達なら、この絵本の悪魔に出会ったとき、どうする?」
 弟の雪男は「頑張ってやっつけるよ!」と答えたが、兄の燐は何と答えたか(それはラストシーンで明らかに)。
 成長した後も、兄弟の対比は鮮明です。
 「悪魔を退治するのが祓魔師の仕事だ」と云う弟に、「違う。人を助けるのが祓魔師だ」と云い放つ兄。どちらも目指すところは同じなのに、アプローチの仕方がまるで違う。
 そんな水と油な兄弟なのに、固い絆で結ばれているのがいいですね。

 クライマックスの一大スペクタクルはなかなかの迫力です。ほとんど正十字学園町は壊滅寸前までいくのですが、ギリギリで回避。ちょっとお約束的死亡フラグが経つのが判り易かったりしますが、シンプル且つストレートな物語できちんとまとまってくれました。
 TVシリーズのレギュラー陣に過度の思い入れさえなければ、楽しめるのではないでしょうか。

 だから個人的には、やっぱり出雲ちゃんの出番が無いのが釈然としないのデス。雪男の出番なんか削っても良いから、出雲ちゃんの活躍が観たかった……(がくり)。




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