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2012年6月18日月曜日

スノーホワイト

(Snow White & The Huntsman)

 ユニバーサル映画一〇〇周年記念作品は『バトルシップ』(2012年)だけかと思っていましたが、これもまたそうなんですね。同時に本作は、グリム童話誕生二〇〇周年記念作品でもあります。
 しかしアニバーサリー的な作品は、無駄に豪華なCG特撮アクション映画でなければならぬなどと云うキマリでもありましたっけ。

 近年、グリム童話を大作映画にすると云うのが流行りだしたのか、『赤ずきん』(2011年)に続いて、今年は『白雪姫』ですか。アニメ、実写を問わず、もう何度となく映画化されてきましたが、またですか。しかも今年は「グリム童話誕生二〇〇周年」と云うこともあって、ユニバーサル以外でもう一本の『白雪姫』の公開が予定されております(個人的に期待しているのは、実はソッチだったりするのですが)。
 ハリウッドでは企画がカブってしまうのは、よくあることです。
 とは云えグリム童話は沢山あるのだから、別にネタをカブらせずともよさげに思うのデスが。『シンデレラ』とか『いばら姫』とか、プリンセス・ストーリーだけでも色々ありそうなものなのにねえ。それとも来年以降もこの路線が続くのかしら。

 しかし本作は、素直に童話を映画化しているわけではなく、『赤ずきん』に輪をかけて「大胆にアレンジ」されております。いやもう、どの辺が白雪姫なのか判らないくらいで。
 原題も “Snow White & The Huntsman” (白雪姫と狩人)ですし。何故、狩人が白雪姫の物語に登場するのか。それはどっちかと云うと『赤ずきん』の方でしょうに。

 序盤は基本設定に割と忠実にストーリーが進行していきます。白雪姫は幼い頃に母を亡くし、父王が娶った後妻に国を乗っ取られてしまう。
 姫と王子が幼馴染みだったり──王子は公爵の息子だから、従兄に当たるのか──、魔法の軍団が登場したりしますが、そのあたりの改変はその後の展開に比べれば可愛いものです。王を殺し、奇襲をかけて城を制圧した後妻は自らが女王となり、白雪姫を塔の中に閉じ込める。そして十年近い歳月が過ぎ去った。
 成長した姫は、ある日機会を捉えて単独で塔からの脱走を図る。もはや男の助けなど不要であると云う演出が現代的ですが……『白雪姫』からはどんどん遠ざかっていくような。
 悪の女王は、森に逃げ込んだ姫を捕らえる為に、腕利きのハンターを差し向ける。

 色々とツッコミ処はありますが、決して詰まらないわけでなく、アクション満載のファンタジー・アドベンチャー大作として楽しめることは楽しめます。でもそれならいっそオリジナル作品にした方が良かったんじゃないかと思うのデスが。
 本作で白雪姫を演じているのは、クリステン・スチュワート。〈トワイライト・サーガ〉のあのヒロインですか。〈トワイライト・サーガ〉は若手の俳優さんを色々と輩出しておりますねえ(あまり熱心に観ていませんけど)。
 どちらかと云うと、本作は白雪姫よりも「悪の女王様」の方が目立っていますし、主役はこちらなのでは思うくらいです。今回は女王様にはラヴェンナと云う名前まで付いています。そしてこれを演じるのが、シャーリーズ・セロン。冷酷な女王役が板についております。

 一方、主演の男性陣は、狩人のエリックと王子のウィリアムの二人。
 狩人エリック役に、クリス・ヘムズワース。『マイティ・ソー』(2011年)でお馴染みです。本作ではハンマーの代わりにトマホークを振り回してくれます。ダブル・トマホークが結構、凶悪。
 ウィリアム王子役がサム・クラフリン。主役四人の中では一番、知名度低い方でしょうが、『パイレーツ・オブ・カリビアン/生命の泉』(2011年)では、人魚と恋に落ちる宣教師の役でジョニー・デップとも共演しておりましたですね。本作の王子様は弓の名手という設定がいい。
 実は私はトマホークで接近戦を挑む狩人よりも、矢を射る王子様の方がカッコいいと見惚れてしまいました。腕も度胸もある王子。『指輪物語』のレゴラスみたいです。元々、弓を射るキャラが好きな所為もあるか。ランボーもそうだし、『アベンジャーズ』(2012年)でもホークアイが好きでして。

 監督はCMディレクター出身のルパート・サンダーズ。本作が長編初監督作品となるそうで、いきなり大作を任せられるあたり、腕の良さが察せられます。特にヴィジュアル面での心配はありませんです。印象的なシーンが幾つもあります。CGの使い方も巧いですね。
 ジェームズ・ニュートン・ハワードの音楽で、アクションも盛り上がります。

 問題は特にないか。これが「白雪姫」なのか否かという点を除けば。
 ところどころグリム童話を強制的に思い出させるような演出が入るのは仕方ない。特に〈魔法の鏡〉は「白雪姫」には必須のアイテムでしょう。でもこれはまた『ターミネーター2』(1991年)のような〈魔法の鏡〉です。CGによる液体金属の描写が特に。
 「鏡よ、鏡」というアノ呼びかけに、鏡面からドロドロと液体金属が流れ出てきて、人の形に凝り固まるのが、不気味です。シャーリーズ・セロンの顔も映り込んだりしていて、良く出来たCGです。

 〈魔法の鏡〉と並んで、白雪姫に欠かせないのは、〈七人の小人〉。ドワーフ級の小人を実写化するのに、一番手っ取り早いのは『バンデッドQ』(1981年)や、『ウィロー』(1988年)のように小人症の役者さんを揃えることだろうと思っておりました。でも本作は『ロード・オブ・ザ・リング』と同様に、普通の俳優さん達が小人に扮してます。
 演じているのは、イアン・マクシェーン、ボブ・ホスキンス、レイ・ウィンストン、ニック・フロスト、エディ・マーサン、トビー・ジョーンズ、ジョニー・ハリス、ブライアン・グリーソンの八人。
 え。小人が八人?
 何故に一人多いのか。遂に説明はありませんでした。そもそも〈ドワーフ〉とも云わなかったような。「ハイホー」とも云わんし(云ってしまうと、ディズニーからクレーム付くのか)。
 この小人さん達がなかなか個性的な面々──ボブ・ホスキンスやらレイ・ウィンストンやら──で味わい深いし、ニック・フロストもいてくれたのが嬉しいです。『パイレーツ・オブ・カリビアン/生命の泉』で黒髭船長だったイアン・マクシェーンも小っちゃくなって、妙に可愛くなっている(強面の親父さんですけど)。

 ファンタジー世界の住人では小人の他に、妖精やら、トロールやらも登場します。中でも動物、植物、鉱物が混じり合ったようなトロールのデザインが秀逸です。劇中では森の中で白雪姫を襲おうとして、逆に姫に懐いてしまう野生動物と云う扱いでした。
 このトロールが迫力あるだけに、きっとクライマックスでは姫を助けて大暴れするに違いないと、勝手に想像したりしたのですが、これ以上の出番はありませんでした。勿体ない。
 「動物と植物が混じり合った」と云うと、立派な角が木の枝になった白鹿が〈森の王〉と云うか、スピリット的に登場するのも印象深い。このあたりは、モロに『もののけ姫』(1997年)を連想させる描写でした。ジブリの影響って大きいんですねえ。

 本作は『T2』や『もののけ姫』以外にも、あちこちからイメージを拝借しているようです。
 シャーリーズ・セロンが永遠の若さを保つ為に、村の娘達を拉致しまくって、「若さ」を吸い取っているという描写もあります。現実の歴史上にもあるエピソードを基にしているようではありますが、『ダーククリスタル』(1982年)と云うか、ぶっちゃけアレは『スペース・バンパイヤ』(1985年)ですよね。口から吸い取ってるし(笑)。

 この悪の女王が単なる悪役でなく、それなりに哀しい過去を背負っていたと云うか、男尊女卑の中世世界の中で女性が生き延びるには、こうする他に無いのよ的な事情説明場面が入っているのも現代的でした。演じているのがシャーリーズ・セロンなので、尚のことに女王様に感情移入しそうです。
 でもそれって正しい見方なんでしょうか。善悪の境界が定かで無くなり、キャラクターの描写に深みを与えるのはいいのですが、どんどん童話ぽくなくなっていくのは如何なものか。
 更に、女王は魔法使いでもあり、魔力を消費すると若さを失う。
 CGとメイクを駆使して、老けたり若返ったりするシャーリーズ・セロンが見事です。だから「女王が老婆になる」というのが単なる変装では無い、という描写は巧いと思うのデスが、肝心の毒リンゴを白雪姫に食べさせる場面で、老婆にならないのはちょっとチガウのでは。
 しかもそのあとの展開がまた……。

 何と云うことか。白雪姫は「王子様のキスで蘇生しない」のです。さすがにこれはどうかと思う。代わりに狩人さんのキスで蘇生する。うーむ。
 しかしながら王子と狩人で三角関係にするわけでも無い。狩人は亡き妻を愛しており、悪の女王に「協力すれば妻を生き返らせてやる」と持ちかけられていた時点で、白雪姫とのハッピーエンドは無いも同然。
 かと云って、幼馴染みの王子様との関係もそれほど進展しません。従兄は従兄のまま。
 恋愛関係が希薄なのに、「真実の愛」で魔法が解ける展開を強引に──そりゃまあ『白雪姫』ですから──持ち込むのが、無理ありすぎなのでは。

 アクションは凄いデスよ。白雪姫は蘇生した後、反乱勢力をまとめ上げてかつての城を取り戻す為に挙兵するのですから。クライマックスの攻城戦はそれなりにエキサイティングです。序盤の伏線を活かした展開も巧い。
 かなりピンチになりながらも、最後には勝つのも問題なしでしょう。
 問題なのは、国を取り戻し、自分が女王として即位するエンディングでしょう。未婚のまま女王になるあたりがエリザベス一世的ですが、そこまで女性の自立を強調しなくても。
 しかも〈魔法の鏡〉の扱いがスルーされてましたけど、アレはどうなるんですか。自分で使っちゃうんですか。考えようによっては、今度は自分が悪の女王化しかねない、ちょっとダークなエンディングでした(そりゃ深読みし過ぎかしら)。かなり違和感が残るのは否めませんです。




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