確かに。二〇〇八年当時、放映中の他のアニメに比べて、それほど人気があった作品であるとは思えないし──いやいや、あくまで比較ですよ。やっぱりホラ、『マクロスF』とか『コードギアス』とか色々ありましたでしょ。勿論、『ストライクウィッチーズ』も──、作画も丁寧に作られてはいるものの、派手な展開も少ないし(むしろ地味な作品でありましょう)、萌えるかと問われれば「それほどでも」という回答の方が多いような……。
でもコアなファンはいるし、熱心な原作のファンもいる。なにせ有川浩の小説ですからね。
それにまあ、主役の声優さんは井上麻里奈ですよ。井上麻里奈である以上、「誰得か」と訊かれると「俺得だ」と云わざるを得ませんです。沢城みゆきも出演しておりますし。
劇場まで行ってみると、意外なことに女性客の方が多い。いや、私が不明だっただけか。これは女性の方に人気があった作品でしたか。目当ては誰なんだ。堂上か。堂上萌なのか。あるいは小牧萌と手塚萌もいるのか。玄田萌もありか。
なにやら座席横一列にズラズラとお姉さん達が並んで座っているのが目を引きました。男性客の方が少ないぞ。あと、カップルの姿もチラホラと。
世間一般的な『図書館戦争』評価の縮図を見るような感じがいたしました。
劇場売店ではパンフレットなんかと一緒に、「図書隊公式紅白饅頭」なんてのも売られていました。何故に紅白饅頭。そりゃ劇中で笠原さん、結婚しますけどね。
有川浩の原作小説は四部作──『図書館戦争』、『図書館内乱』、『図書館危機』、『図書館革命』──ですが、TVシリーズとしてアニメ化された際には第三巻『~危機』まででした(全12話)。物語としては、特にこれで終わっても差し支えない──「王子様の正体云々」というエピソードもケリが付いたし──と思われましたが、やはり最後まで製作したかったんでしょうねえ。
とうとう第四巻『図書館革命』が単発で劇場版化ですよ。製作も Production I.G で、監督もTV版と同じ浜名孝行で、レギュラー声優もそのままですから、違和感なんてまるでありません。この四年の歳月は無かったも同然。そこは本当にお見事デス。
当初は、〈メディア良化法〉なる架空の法律が施行された、架空の年号の日本が舞台であるだけに、平行世界ものの近未来SFのように考えておりました(正化三一年てのは、西暦二〇一九年だし)。SF者としては、当然レイ・ブラッドベリの『華氏四五一度』を想起せずにはおられません。
でも二〇一〇年の東京都による青少年健全育成条例改定のおかげで『図書館戦争』も近未来SFとは呼べなくなりそうな気配です。そんなところで現実が追いついてこなくてもいいのに。
つい最近も『BLOOD-C The Last Dark』(2012年)の劇中に、類似の条例が劇中に登場するなどしておりましたが、こういうのはディストピア的設定には付きものですね。
もっとも、本作の背景に近未来SFなテイストはまったくと云って良いほど感じられず、もう甘々ベタベタのラブコメ展開が主軸ですから(TV版の時からそうだったし)、さほど世界設定は気にしなくてもいいですか。
良化隊と図書隊のドンパチも、現実的では無いとクレームつけるよりも、これは一種の風刺的な寓話なのであると割り切って観る方がよろしいでしょう。現実の自衛隊のパロディのようなものだと。
そりゃあツッコミ入れ始めたらキリがない。
そもそも〈メディア良化法〉施行後、三〇年という背景もそう。そんなに長期間、日本が内戦も同然な状態であるところからして、リアルとは云い難い(武力闘争が三〇年続いているワケでは無いにしても)。市街地で実弾発砲しまくりな割に、物語に直接関係ない部分では平穏そのものというのも如何なものか。
だから風刺的寓話。ハードSF的、あるいはミリタリ的なツッコミは意味なしでしょう。
さて冒頭からして、いきなり「検閲とは」と、説明的字幕が入ります。日本国憲法第二一条で禁止された行為であると。
久しぶりに『図書館戦争』の世界に戻ってきた感じがしました。続くオープニングがなかなかグラフィカルで、原作小説の表紙のテイストに近い表現なので嬉しくなりました。
違憲であるにも関わらず、大量の書籍が「公序良俗に反する」として差し止めをくらい、焼却処分にされていく。「本を焼く」という描写が、改めて『華氏四五一度』を想起させてくれます。
原子力発電所に対するテロ行為の元ネタになったとして、とある作家の小説が〈メディア良化法〉の標的にされるのみならず、今回は作家個人までもが対象とされ、身柄の拘束、執筆権の差し止めにまで発展していく。「作家狩り」と云う言葉が今までに無く暗く、ディストピアSFを感じさせてくれます。
本作で描かれた「原発に対するテロ」も近い将来、日本で起こりそうな気配が感じられます。あまり『図書館戦争』には〈予言の書〉であってもらいたくないのですが。
そんな大変なニュースが、ごくフツーに飲食店のTVで報じられており、一般の人々がさして騒ぎもせずに見ているという描写が妙にリアルでした。
出演しているレギュラー声優に混じって、本作のゲスト・キャラである小説家、当麻蔵人の役がイッセー尾形。
正直、最初はちょっとビミョーな感じがしました。どうにも「絵」と合っていない。他のキャラと比べて浮いている。
ところが観続けているうちに、「当麻蔵人の声はこれでいいのだ」と思えてきたから不思議です。問題はむしろ、イッセー尾形の演技に合わせられない作画の方にあるように思えました。
イッセー尾形の演技は実に軽妙洒脱で、ユーモアのあるトボけた小説家という感じなのに、キャラクターの動かし方があまりにも地味で木訥。デザイン自体は問題ないのに、劇中での表情の変化が乏しいように思われました。およそ冗談を云う人物に見えません。
人物がアップにならない場面等で、当麻の台詞だけ聞いていると、いい感じなのが惜しい。
日本のアニメ制作ではアフレコが一般的でしょうが、アニメ声優には馴染みのない俳優を起用するなら、海外のアニメのように役者の演技に合わせて、後から作画する方が良かったと思います。
いろいろ事情はあると思いますが。
本作はシリーズ最終作として、〈メディア良化法〉との全面対決という展開に発展しますが、原作が真面目で真摯であるだけに、法廷闘争に持ち込んでしまうのが、アニメとしては苦しい展開に思われました。
〈メディア良化法〉は違憲か否か。審議は高裁判決から最高裁判決にまでもつれ込む。違憲判決を引き出すのが主人公たちの勝利につながるのですが、これでは図書隊の出番がない。
その上、相当に時間軸を圧縮せざるを得ない展開が苦しい。二時間弱の尺の中で最高裁判決が出るまでを描くので、時間経過がかなり不自然に感じられました。近未来の裁判はスピードアップされているのか。
劇中では故意に時間経過をぼかしたように見受けられ、当麻蔵人の身辺警護任務ってどのくらい長期間だったのか判り辛かったです。
ドラマの展開に比べて、背景のリアルさに関しては文句の付けようもありません。背景美術は見事です。個人的に見覚えのある風景が次々に出てくるのが、楽しかったです。
新宿三丁目の紀伊國屋書店が実にリアルです。宣伝も兼ねたタイアップ企画ですね。
紀伊国屋書店以外でも、都内の地下鉄半蔵門線とか市ヶ谷近辺の背景がいいですね。もう簡単に聖地巡礼できそうです。こういう場面では、原作小説での描写よりも直接的なので、移動経路とか判り易い。
更に東京だけでなく、舞台を大阪に変えてからもいい。難波や御堂筋など、どこをどう走っているのか判ります。
心斎橋で良化隊と図書隊が激突する場面はコメディ・タッチで笑えました。主人公のピンチに仲間が駆けつけてくるのもお約束。
しかし何故か、アーケードの屋根の上でも乱闘が始まっており、絵としては面白いんですけど、別にそうまでして笑いを取りに行かなくてもとも思いました。これは演出の悪ノリか。
そこまでやるなら道頓堀の橋の上でも乱闘させてもらいたかった。二、三人は道頓堀ダイブさせて(笑)。
法廷闘争だけでは動きがないので、終盤は当麻の身柄を保護して笠原さんが走り回る。
本作のクライマックスではありますが、このあたりはリアルな描写とコミカルなアクションの折り合いが難しかったように思われます。そこに至るまでの展開がリアルなだけに、ちょっと違和感が(カーチェイスを入れたい心情は理解できますけども)。
特にラストの突撃シーンは『明日に向かって撃て』とか『ガントレット』的なシチュエーションですよ。実弾が発砲されているわけだし、あれでは笠原さん殉職必至なのでは……。
総じて人間ドラマ的な演出とアクション・シーンの演出の温度差が気になりました。
でも、これもTV版から云われてきたことなので、むしろ四年たってもスタイルを崩すことなく貫き通した演出姿勢は賞賛されるべきなのかも知れません。あるいは全て承知の上のツッコミ待ちなのか。
エピローグ描写はなかなか巧く、ドラマとしてきちんとまとまってくれたのは嬉しいです。笠原さんのその後については、訓練生が「堂上教官!」と呼ぶ一言に集約されています。あの未熟者が、今や鬼教官かぁ。
しかし手塚くんと柴崎さんについては不完全燃焼ですよ。外伝アニメ化企画も是非。
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