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2012年3月27日火曜日

トロール・ハンター

(Trolljegeren)

 極北ノルウェーの凍てつく大地に幻の生物トロールを見た!──という嘘ドキュメンタリー映画ですが、これが映像もリアルだし、編集もセンスが良く、非常に出来のよいB級怪獣映画に仕上がっております。
 サンダンス映画祭など各国の映画祭でもなかなか評判が良ろしかったようで。
 ノルウェー映画、侮れん。

 手持ちカメラによる一人称視点のみの映画というと、『REC/レック』(2007年)、『パラノーマル・アクティビティ』(同年)、『クローバーフィールド』(2008年)など、色々ありますが怪獣映画とかホラー映画ばかりですなあ。低予算で済むからか。
 でも『クローバーフィールド』は、(ハリウッドにしては)低予算と云いつつ相当な大作でしたし、本作もCG映像(だけ)はハンパなく凄いデス。一点豪華主義。
 逆に見事なCGに比べて、トロールをおびき出す為に仕掛ける餌の「熊の死体」とかの方が、あからさまに剥製ぽくてチャチいくらいです(むしろ低予算映画らしくて微笑ましいか)。

 「トロール」と云うと北欧伝承に登場する妖精ですが、ムーミンみたいな可愛らしいトロールもいるかと思えば、『ホビットの冒険』に登場するような人食い巨人のように描かれることもあります。本作のトロールは、どちらかと云うと後者。
 加えて知能の足りない野生動物であるという扱い。劇中では、れっきとした哺乳類であると言明もされます。
 但し、寿命は百年から千年以上、妊娠期間は十年以上、大別して「山トロール」と「森トロール」の二種類に分類され、体長は数メートルから最大六〇メートルくらいまで種々様々……って、そんな哺乳類がいるかーっ。

 ついでに「太陽の光を浴びると石になる」という伝説上の設定にも、もっともらしい理屈を付けてリアルに描こうとしています。太陽光を浴びて生合成されるビタミンDをカルシウムに変換することが出来ず、急速に組織が石化するとか何とか。
 だからトロール・ハンターの最大の武器は「超強力紫外線照射装置」なのですッ。
 おおお、ノルウェーの科学力は世界一ィィィッ!

 ──などと云う、おバカな設定を大真面目に描写しようとする姿勢が素晴らしいデス。加えて、何故いままでトロールの存在は公になってこなかったのかという疑問にも答えてくれます。
 それは MIB ならぬ TSS が世間の目を欺き続けていたからなのです。TSS──即ち「トロール保安機関」。
 TSSから正式なライセンスを受けて、トロールの調査から、保護、駆逐までこなすのがトロール・ハンターの仕事であるそうな。もっぱら仕事の内容は駆逐が多いようですが。駆逐と云うよりは屠殺か。
 北欧諸国には数名の公式ハンターがいるそうですが、ノルウェーにはそのうちの一人しかいない(予算が足りない所為?)。
 政府機関による陰謀、という設定が妙にリアルな上に、政府機関である以上、トロール退治にも「お役所仕事」が持ち込まれるという芸の細かい演出が楽しいデス。
 トロールを一頭仕留める度に、政府指定の書式に細々と記入して提出を求められる(笑)。

 本作の監督はアンドレ・ウーヴレダル。脚本も自分で書いています。CM監督出身であるそうで、やはり映像の使い方が巧いです。
 主演のハンター役がオットー・イェスパーセン。ノルウェーでは有名なコメディアンであるそうな。でも本作では、お笑い要素は完全に封印し、苦み走った風貌の疲れたオヤジを演じておられる。
 これに同行することになる三人の大学生、トマス、ハンナ、カッレ。
 他に、野生動物委員やら、TSSのメンバーである獣医さんといった人物が登場しますが、主役以外はあまり出番はありません。
 それにノルウェーの俳優さんには誰一人として馴染みが無いので、名前を云われてもさっぱり判りません(汗)。

 大体、ノルウェー映画と云うもの自体、本作が初めてだったりします(多分)。
 昨年、見逃してしまったヴィンセント・ギャロ主演の『エッセンシャル・キリング』(2010年)もノルウェー映画でしたか(正確にはポーランド等数カ国との合作か)。
 北欧諸国の中ではノルウェーの映画史は浅い方であると、ノルウェー大使館の公式サイトにありましたが、なかなかどうして立派なエンタテインメント性のある長編作品が製作できるじゃありませんか。ちなみにノルウェー大使館公式サイトにも、本作についての紹介記事が載っています。大使館の公式サイトが宣伝に協力してくれるとは、素晴らしいデスね。
 がんばれノルウェー映画。『孤島の王』も観に行きます。

 さて、本作の筋書きは至って簡単。
 ノルウェーの田舎町で問題になっている熊の密猟事件を取材しにやってきた大学生三人組は、密猟者とおぼしき怪しい男ハンス(オットー・イェスパーセン)を尾行する。だが密猟の実態を暴くつもりが、森の中で彼らは伝説の怪物トロールに遭遇してしまう。
 命からがら逃げ出した三人はハンスから事情を聞き出し、その後もトロール・ハンターの取材を続けることに。初めてカメラの前で明らかにされるトロールの生態の数々──。

 冒頭、表示される「これから上映される映像は、匿名で届けられたビデオを編集したものであるが、映像には一切、手を加えていません」等の字幕からして嘘くさい。これは『クローバーフィールド』でも使われたお約束デスね。
 ついでにエンディングでは「本作の制作中、トロールには一切の虐待を行っておりません」旨のお断りが表示されるのも人を食っています。実にユーモアある監督です(たまにかなりブラックなユーモアも発揮されますが)。

 トンデモな嘘ドキュメンタリではありますが、劇中で紹介されるノルウェーの美しい風景がなかなか素晴らしく、一種の観光映画の趣もあります。さすが北欧。
 フィヨルドが多く、緑溢れる美しい渓谷の中に色鮮やかな集落が点在している。車で移動する際には、特に説明はありませんが、何回もフェリーを乗り継いで行くという描写もあります(フィヨルドを渡っていくワケやね)。
 更に海辺から高原地帯へと進んでいくと、いかにも北極圏な荒涼とした大地が広がっており、巨大な高圧送電線が異様な迫力で迫ってきます。風景だけでも一見の価値ありです。
 しかも、この送電線にもちゃんとした役割が与えられているのが楽しい。
 やっぱりねえ、怪獣映画には送電線が出てこないとイカンですよねえ(笑)。

 このあたりの、低予算ながら「実景に別の意味を持たせる」と云うセンスが光っているので、結構壮大な設定が伺い知れるという演出が巧いです。『モンスターズ/地球外生命体』(2010年)でも感じましたが、低予算怪獣映画は監督のセンスがすべてですなあ。
 映像もところどころ夜間撮影に切り替わる為、暗視装置特有のグリーン一色の映像になったり、レンズが割れても撮影を続ける為に、一部ピンボケになったり、手を変え品を変え飽きさせない映像作りは流石デス。

 本作では大きなものから小さなものまで、合わせて四種類のトロールが登場します。
 伝承に登場する妖精のイメージから、顔面は老人のように皺が多く、鼻や耳が肥大した醜い生物として描かれる。リアル・ムーミンはあまり可愛くないです。
 一番、小型種であるリングルフィンチ──それでも体長三メートル近くある──から、血液サンプルを採取しようという場面がなかなか楽しいです。トロールに喰われないように、お手製の装甲服を用意して挑むのですが、『プロジェクト・グリズリー』(1996年)を思い出してしまいました(あっちは正真正銘のドキュメンタリ映画ですけど)。

 そして最大級のトロール、ヨットナールがまた大迫力。体長六〇メートルというゴジラ並みの大怪獣ですが、トロール・ハンターはこれにも雄々しく立ち向かっていく。
 主演であるオットー・イェスパーセンの、どのトロールにも怖じけること無く対処しようとする姿勢に、プロフェッショナルなハンターの姿を見ました。
 大物ヨットナールに向かって、まったく動じずにノコノコ近寄っていく姿が素晴らしい。ゲームの『モンスターハンター』でも、こうはいかんか(その割に最初に遭遇したトッサーラッドから逃げ出す際には血相変えて走っていましたけどね)。

 エンディングのあとに挿入される映像がまた巧い。なんと本物のノルウェー王国首相イェンス・ストルテンベルグ氏が、トロールに言及するというオマケ映像。まったくの偶然で記者会見中にトロール発言が飛び出したそうですが、よくこんな映像を見つけてきたものです。
 おかげで嘘ドキュメンタリーにますます信憑性が付与されました。お見事でした。

● 余談
 日本でも『トロール・ハンター』に匹敵する映画は出来ないものですかねえ。
 あのキモカワユイと評判になった絵本『こびとづかん』を映像化した『こびと劇場』を、もうちょっと長編化すれば……無理か(汗)。


駐日ノルウェー王国大使館 公式サイト



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