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2011年8月17日水曜日

モンスターズ/地球外生命体

(Monsters)

 ギャレス・エドワーズという新人監督による低予算B級SF映画です。特撮担当出身の監督が自身で撮影と脚本も務めています。いかにも低予算ですね。
 なんせ主演俳優二人とスタッフ五名、あとは現地調達のエキストラのみで撮ったそうですから。
 しかしこの初監督作品一作で、ハリウッド版『ゴジラ』のリメイク企画に監督として抜擢されたというから、どんなものかと非常に興味がありました。上映劇場が限られますが、何とか観に行けて良かったです。
 低予算と云いながらも、なかなかどうして立派なものですわ。本当に低予算なのかと疑うくらいの出来です。

 近未来、NASAは地球外に生命の存在を発見したと発表(ありそうなハナシですね)。
 しかし探査機がサンプルを回収して地球に帰還する際に事故が発生。大気圏上空でサンプルを入れたカプセルが大破。中南米上空に破片が飛散した。
 数年後、中南米を中心に正体不明の巨大生物が大発生。
 米国は国境を封鎖し、メキシコの半分は危険地帯として隔離されてしまう。

 なかなかリアルな展開と申せましょう。しかし米国は責任を取らないのかね。因果関係は明らかでしょうに(笑)。

 異星生物災害発生から六年後。報道カメラマンのコールダー(スクート・マクネイリー)は、旅行中にメキシコで足止めされて立ち往生している社長令嬢サマンサ(ホイットニー・エイブル)を「米国へ送還させろ」という命令を受ける。
 異星生物が繁殖期を迎える期間中は、国境が完全に封鎖されてしまうのである。猶予はあと二日しかない。何とか異星生物の襲撃を避けながら海岸に向かうが、パスポートを盗まれ、最後のフェリー便に乗り損ねてしまう。
 やむを得ず二人は陸路で国境に向かう。果たして危険地帯を無事に通過できるのか。

 怪獣映画の基本として、なかなか姿を見せないという演出は巧いです。
 兵士の暗視スコープ映像とか、故意にカメラがブレたり、画質が荒かったり、触手の一部しか見えなかったりで、なかなかはっきり見せてくれない。
 チラ見せは怪獣映画の基本ですから(笑)。
 異星生物の咆哮だけが聞こえるとか、川底に潜んでいるらしいが姿を見せないなんて演出も巧い。

 しかし小出しに出てくる情報をまとめてみると、なんと地球外生命体はタコ型なのであった。
 古典に忠実……なのか?
 巨大なタコが蜘蛛のような脚を生やしてノシノシと陸上を闊歩しているのである。
 大きさはおよそ数メートルから十数メートル。トラックを持ち上げたり、家屋の向こうからぬっと現れたりできる大きさ。
 怪物としては、お手頃なサイズというか。
 決してゴジラのようにビルより大きくなることはない。まぁ、最近では建物が高層化して、ゴジラですらビルによじ登ったりしますがね。
 劇中では「百メートルを越える大物」についても言及されましたが、それは登場しなかった。目撃証言だけか。

 生物としては、色々と設定が考えられています。
 卵から孵化して、川を下り、海で成長した後に故郷の川に戻ってくるという生態とか。タコのくせにシャケかよ!
 ちゃんと雄雌があるらしく、求愛ダンスまで披露してくれます。
 個体数も沢山いるらしく、駆逐しても駆逐しても大発生するあたり、数で勝負するタイプか。
 しかし却ってそれらの設定ががリアルすぎて「怪獣」と呼ぶのは如何なものか。
 あくまで「地球外生命体」であり、しかも地球上の生物とあまり変わらないように見受けられる。その上、本来はおとなしいが人間が攻撃するから凶暴になるのだという証言まである。
 これでは、ちょっとデカい野生動物であって、飛躍した非現実的描写にはならない。

 火も吹かず、なんの怪光線も発しない。
 むしろ夜間、深海生物のように怪しく発光したりする。非常にリアルな生物的描写は、それはそれで見事なのですが……。やはり個人的には物足りない。
 少々の銃撃ではひるまないあたりはさすがですが、それでも軍隊の火力の前には屈してしまうのである。
 空爆後の廃墟の上にぐちゃぐちゃになって垂れ下がっていたりする。
 せめてタコらしく、何か液体を発射するくらいの芸がほしい。
 あるいは未知の病原菌をバラまくとかの副次的な驚異があるとか……。一種類だけじゃなく、数種類の生物相が描かれるとか……。
 低予算映画にそこまで求めるのは酷と云うものか。

 でもやっぱり「怪獣」が見たかった。怪獣が好きなんです。
 通常兵器などモノともしないやつ。やはり欧米の「モンスター」と日本の「怪獣」は似て異なる概念なのだと再確認しました。

 とは云え、低予算にしては見事な出来映えです。
 特に廃墟の描写がいい。いかにも「ここで軍隊と怪物が戦いました」という惨状がリアル。どうやって撮ったのか。すべてをCG合成にはできないだろうし。セットを組むほどの予算があったとも思えない。
 何らかの災害による被災地でロケしたのだろうか(そんなことしていいのか?)。実に雰囲気のある、臨場感あふれる背景の描写が見事です。

 リアルな描写としては、他にも「メキシコの人達がガスマスクを常備している」という描写があります。特に陸路を国境まで行くキャラバンには、必須の備品らしい。
 しかし異星生物がガスを吐くというワケではない。むしろ軍隊が──ぶっちゃけ米軍が──地上に民間人がいてもお構いなしに毒ガスを散布するらしいというのが暗示されている。ひどいハナシだが、いかにも米軍ならやりかねん。
 ガスマスクを被って遊ぶ子供達の図が、妙にリアルでした。

 CGもなかなかセンスある合成になっていて、ラスト近くで登場する巨大な防疫壁がすごい。ダムのような壁が延々と万里の長城のように続いている。メキシコ国境に沿って米国が建設したらしい。
 これに比べればベルリンの壁なんて可愛いもんです。
 なり振り構わぬ大国のエゴが見事に映像化されておりました。
 まぁ、それにしてはやすやすと突破されたようでしたが(笑)。

 結局、無事に帰国はしたものの、なかなか安全になったとは云えず、この先もっと大変なことになるのでは……という予感を残しつつ、とりあえず軍隊に保護される場面でおしまい。
 エンディングも実にB級らしくて、あっさりしています。

 怪獣映画の体裁を取りながら、米国の中南米諸国に対する態度を風刺しているような演出が印象的でした。
 特撮ファンなら観て損なしでしょう。
 この監督による『ゴジラ』のリメイクが実に楽しみです。でもやはり『GODZILLA』になってしまうのかなあ。ちょっと心配。


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