この映画を鑑賞するには、ブルース・リー式の鑑賞姿勢が必要です。
即ち、「考えるな。感じろ」と云うヤツ。
物語はとても単純です(多分)。
ある中年男(ショーン・ペン)が回想する少年時代の追憶。厳格な父(ブラッド・ピット)。優しい母(ジェシカ・チャステイン)。若くして死んだ弟。ある一家の記憶。幼児から少年へと成長していく過程で、絶対的だった父親像がゆらぎ、反抗心が芽生えていく。
父と子の相克。
生き方にはふたつある。世俗に生きるか、神に委ねるか。どちらかを選ばなくては──。
世俗に生きる父(立身出世を渇望した)と、神に委ねた母(父の言いなりになっているように見える)の間に身を置いた少年は、父に反発し、父とは異なる道を歩んだのでしょうが、やがて父の望んだとおりに社会的成功を収める。しかしそれで心の平安は得られたのか。
思い返せば、自分の人生は悔恨の連続だったのでは。
父さん、あの頃の僕はあなたが嫌いでした。
──と云う、まぁ、よくある家族の歴史というか、ひとりの男の回想が、実に壮大なタイムスケールの中で語られる。
一体、ある家族のドラマを語るために、地球の誕生とか、生命進化の過程まで描写する必要があるのか。
マリック監督的にはある──みたいです。
神はいずこにおわすか。何気ない自然の中にも、それらがそうある為には何億年という気の遠くなるような年月があって、初めてそれはそこに存在するのである。
これを神の御技とせずに何とするか。
神は細部に宿ったりする──んだろう、きっと。
自分が今ここにいて生きているということは、連綿と繋がる進化の系統の先端にいるということで、それは地球の歴史の一部なのであるということ体験させてくれます。
台詞らしい台詞は少ないデス。
全体的に会話の場面が少なく、モノローグの方が多いくらい。
祈りの言葉も少々あります。
あとはひたすら映像あるのみ。
もうBBC制作のネイチャー・ドキュメンタリーのようでもあり、『ジュラシック・パーク』の一場面のようでもあり、ディスカバリー・チャンネルの科学解説のようでもある。
マクロな映像とミクロな映像が溶け合い混交して、自分が観ているのが果たして「原始星雲の中から星が誕生していく」場面なのか、はたまた「クラゲのポリプが誕生する」場面なのか、判断が付かなくなります。
もうワケ判らん映像の連続ですが、美しい。ただ圧倒されるのみ。
そしていつの間にやら、イメージは遙かな未来へと及んでいく。
遙か遠未来の地球。太陽が膨張して飲み込まれ、星としての寿命も尽きようかというくらいに未来。どこまで未来に跳んでしまうのか。
いずことも知れぬ浜辺に人々が集まっている。男の記憶にある街の人々であったり、子供の頃の家族や友達であったり、老いた人の腕が瞬間的に子供の手に見えたり、もはや年齢も定かではない集団がいる。
そのあちこちで包容しあう人々。
ショーン・ペンもまた、若き日の父母と再会し、抱き合う。とうの昔に亡くなった人々との再会──それを云うなら自分もまた既に臨終を迎えた筈ですが。
世の終わりに際して、再び相見え和解する。
赦しと受容。宗教的なメッセージも感じます。
劇伴には賛美歌やら、クラッシックやらが何曲も選曲されていましたね。
私はSF者なので「終末の浜辺」なんて言葉も連想してしまいました。
これはSF映画だったのか?
あるいはそうかも知れないなあ。
これは地球の記憶を映像化したものなのかも。
極小のスケールから極大のスケールまで網羅した、遙かな過去から未来へと続く地球の物語に、人類代表としてたまたま五〇年代のある米国人一家の様子が入ってしまったという感じです。
あまり細部に囚われると、全体を見失う可能性があります。
上映終了後、劇場内では「すごかった」と云っている人と、「全然、判らない。ナニコレ」と途方に暮れている人が両方いました。
多分、家族の物語を理解しようと務めれば務めるほど、その他の映像が邪魔になってくるのでは……。
だからあまり一家の物語を追いかけようとせずに、流れに身を任せてボーッと観ているのが良いのでしょう(笑)。
まぁ、かなり観る人を選ぶ映画ではありますか。
かつてこれと似たような映画がありましたね。
『2001年宇宙の旅』を思わせるなあ──と思ったら、特撮監修にはダグラス・トランブルまで参加していましたか。凄いな。
しかしナニを云うにしても、この見事な映像美。
カンヌ映画祭でパルムドールを受賞したというのも納得の出来映えです。
哲学的で、宗教的。実に印象に残る映画を堪能いたしました。
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