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2012年2月20日月曜日

痛み

(통증 PAIN)

 主演はクォン・サンウとチョン・リョウォン。韓流ドラマに疎い私としては「天国の階段」も「私の名前はキム・サムスン」も観たこと無いので存じませんでした(汗)。
 でもクォン・サンウは『火山高』(2001年)以来、映画にも出演しておりますし、チョン・リョウォンも『B型の彼氏』(2004年)などの出演作があります。観てない私が悪いだけ。
 監督は『友へ チング』(2001年)などのクァク・キョンテク。これまた私には馴染みの無い監督です(実はポン・ジュノとパク・チャヌクくらいしか知らない)。
 イカン。もう少し韓国映画も観ろ俺。食わず嫌いはいけません。

 家族を喪った交通事故以来、その精神的ショックからきた後遺症によって痛みを感じる感覚を失った男と、血友病患者の女性の恋愛を描く恋愛モノです。
 男女ともに厄介な病気を抱えたカップルと云うワケですが、本作を難病ものと呼ぶのはちょっと違うか。血友病も直ちに命に関わるワケではないし(と思う)。ピュアなラブストーリーです。
 どっちかと云うと血友病より無痛症の方がやっかいか。

 劇中では「無痛症」は、痛覚を喪失する症状であると説明されております(先天的なものと後天的なものがある)。
 話題のスウェーデン製ミステリ『ミレニアム』三部作にも、主人公リスベットに関係する重要な役で「無痛症の男」が登場しておりますな(第二部「火と戯れる女」以降)。その所為か、「無敵のタフガイ」であるような印象があります。
 本作の主人公クォンも、かなりのタフガイ。

 でも実際にはどうなんでしょね。
 痛みを感じない人間は、怪我に対する防御反応が欠如する──学習できない──為、骨折や脱臼を繰り返し、その状態で動く為に、更にその症状を悪化させていく傾向にある、なんてハナシを聞きますと、タフガイとして描写されることに違和感を覚えてしまいます。怪我に気付かず放置するので破傷風とかにも罹りやすいそうですし。なんか逆に凄く病弱な感じがします。
 あまり深く考えない方がいいのか。
 それから血友病はX染色体の異常により発症するので、圧倒的に男性患者の割合の方が高く、女性患者は非常に稀である(XXだと片方のX染色体が正常なら補完される)そうな。
 でもまったく存在しないわけではないから、いいのか。
 そんなつまらんことばかり考えていると物語を楽しめませんッ。

 まぁ、そんな雑学はドラマには関係ないのですが、主人公の商売が「殴られ屋」であると云う設定が妙に気になってしまって、そもそもの導入部に違和感を覚えてしまいました。
 大抵の人間は、目の前で人が血を流すとビビります。主人公は、そんな反応を逆手に取った借金取り立てのビジネスをしている。
 「無いものは返せない。返済できない」と開き直る債務者の前で、相方が「お客様が返済できないのはお前が悪い」とばかりにドツキ倒す。そのあまりの剣幕と流血沙汰に、見ている債務者の方がビビってしまい、有り金払ってお引き取り願う、と云う筋書き。
 コツはいかにダメージ少なく流血させるかというテクニックで、主人公の相方──少年院で知り合って以来の腐れ縁である兄貴分──は、そのへんの呼吸が巧い。
 ユーモラスではありますが、ヤクザな商売であることに違いは無い。

 常に生傷が絶えない仏頂面の男をクォン・サンウが演じています。パンフレットに載っている写真を見ると、なかなかイケメンで髪も長いのに、劇中ではかなり短く刈り込んだヘアスタイル。短い方がワイルドで、私はこちらの方が好きデスが(『TIME/タイム』のジャスティン・ティンバーレイクもそうだし)。

 一方、恋人になる女の方も厄介な病気を抱えている上に、こちらも家族を喪っている。しかも親の作った借金返済に追われる多重債務者。日々露天でアクセサリや雑貨を売って生計を立てる超貧乏な娘さん。
 貧乏だからか、劇中の季節が冬だからか、やたらと重ね着して着膨れしていますが、チョン・リョウォンが美人なので、それすらもコーディネイトされたファッションであるように見えます。美人は得だなあ。

 どちらも不幸な設定を背負わされておりますが、双方共に打ちひしがれたりはしません。男の方は精神的にも無感覚であるらしく、自分の境遇には無頓着。女の方は気が強くて弁が立つので、貧乏にも借金取りにもへこたれない。
 このあたりの悲惨さを感じさせない演出がなかなか巧いです。
 そして借金が縁でこの二人が出会う。家賃が払えない上に、借金取りが騒ぎを起こすので、賃貸アパートから追い出された女性の方を、「返済し終えるまで逃がさない」ことを理由にして、男が自宅への同居を承認する。
 かくして無愛想な男とお節介な女の、奇妙な共同生活が始まるという次第。

 なんかコミックス的な展開だと思ったら、原作がありました。コミックスはコミックスでも、Webコミックスだそうで、登場人物のファッションは割と忠実に再現されているみたいです。作者のカン・プルは、『グエムル2』の脚本も書いたそうな(そっちの方が楽しみなんですけど)。

 韓国映画にイマイチ馴染みがないと云うか、そもそも韓国人の名前を聞いても性別が判らないので、劇中のギャグが判り辛かったです。
 本作では、男がナムスン、女がドンヒョンと呼ばれています。
 劇中、警察で取り調べを受けている際に、警官が二人の名前を取り違えるという場面がありました。一般的に「ナムスン」とは女性の名前で、「ドンヒョン」は男性の名前だそうな。
 男の本名は「ナムジン」といい、これが男性名なのに、事故で亡くした姉の名前「ナムスン」を名乗っている(気持ちは判るが、それってちょっと気色悪いぞ)。
 一方、「ドンヒョン」の方は女性名でも通らないことはない──日本で云うと、女の子に「アキラ」とか「マコト」とか付けるようなものらしい──そうですが。

 現代ソウルの世相も巧みに取り入れられているそうで、ドンヒョンが日々、商売にいそしむ露天はソウルの観光名所にもなっているとか。
 また、近代化が進むソウル市街では、再開発の為の立ち退きが原因となって、トラブルが発生することもあるそうで、これが物語にも取り入れられています。劇中では取り壊しが決まったビルを占拠した住民がヘルメットを被って角材やら鉄パイプやらで武装し、抵抗するという場面があり、首都の真ん中で成田闘争紛いのことが行われているという描写がありました。
 それから、今まで私が観てきた韓国映画には無かった、地下鉄の描写があったのも興味深いです(少なくとも『渇き』とか『グエムル』には地下鉄は出てこなかった……)。

 そうかー。韓国には旅行したこと無いのですが、今のソウルってあんな感じなのかぁ。
 アパートを追い出されて一時的に宿無しになったドンヒョンが、全財産をコインロッカーにブチ込んで終夜営業のサウナか銭湯のような場所で夜明かしするという場面もありました。
 ネットカフェ難民にならなかったところを見ると、それはまだソウルに普及してはいないのか。いや、あるけど映ってないだけでしょう。無いと云うことはあるまい。それともネットカフェは日本独特の文化なのですか?

 肝心のラブストーリーの方は割とオーソドックスでした。二人とも孤独で、やっかいな病を抱えこみ、互いの距離を測りかねて衝突しつつ、心を通わせていくという過程が丁寧に描かれています。
 キスをしても何も感じない男だったナムスンが、次第にドンヒョンの為に行動するようになっていく。
 病院を極度に恐れ──家族を喪ったことで「入院したら死ぬ」と信じている──ドンヒョンの為に高額な治療費を捻出するべく危険な仕事も請け負うナムスン。
 それを知って心にも無い別れ話を切り出すドンヒョン。
 互いに相手の身を気遣い、相手に健康であって欲しいと願うあまりの行動が切ない。

 クライマックスは再開発の闘争現場。ヤクザに雇われ、世間の同情を引く為に「再開発に抵抗する住民にわざと殴られてビルから突き落とされる仕事」を請け負ってしまったナムスン。いくら痛みを感じないからと云って、「だから死なない」ということにはならないと思うのデスが。
 一応、兄貴分の立てた救済策があり、必死に助けようとするものの、ヤクザの計略によって無情にも間に合わない。
 ドンヒョンが駆けつけたときには時既に遅く……。
 ラブストーリーの王道を行く悲劇的結末。女性客が見たら高確率で泣けると思いマス。
 まぁ、私はちょっとそのへん鈍いらしいですが。


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