思えば星条旗をデザインしたコスチュームに身を包んだヒーローという、イマドキ一番映像化しにくいヒーローですな。これをコメディに逃げずに、真っ正面から取り組み、燃える冒険活劇に仕上げた力業には敬服いたします。今まで何回か映像化されてますが成功したとは云い難い。でも今度は巧くいきました。
やはりコスチュームのリファインが成功の鍵か。リアルな映像で観るなら「タイツを穿かない」方が格好いいですからね。
もっとも、アメコミのヒーローにとって、タイツを穿くことは喜びだそうですが……。
キャップは空を飛べない、怪力無双でもないし、もちろん変身も出来ない。常人よりもちょっとだけ心身壮健であるだけ。しかし正義を愛する心は誰にも負けない。
この「正義を愛する」という部分が四〇年代に誕生したヒーロー的で──元が戦意高揚漫画ですからねえ──、いかにもな愛国者として描写されましたが、戦後は時代錯誤となり長らくコミックスの方もお休みしておりました。
しかしリニューアルされてからは、「国を愛することは、必ずしも政府の為に戦うことではない」と悟って、いまやマーベル・ヒーローの中でも最もリベラルな人になっていますね(笑)。
さて本作はそもそもの発端であるキャップ誕生秘話から描かれます。一般的に映画化の際にヒーロー誕生のエピソードを組み込むと物語のテンポが落ちて詰まらなくなるものですが、ここは脚本が頑張りました。
監督であるジョー・ジョンストンの腕もいい。
『遠い空のかなたに』(1999年)で私のハートを鷲掴みにしてくれて以来、ジョンストン監督作品は無条件で信じることにしています。本作もこれからはジョンストン監督作品のベストの中に入れておこう。
しかもこれは結構な予算を投じた大作ですよ。配役も豪華だ。
主役のスティーブ・ロジャース役にはクリス・エヴァンス。『ファンタスティック・フォー』のジョニーじゃなイカ。これではキャップとFFのクロスオーバー作品を映画化するときはどうすればいいのだ(まぁ、その心配は当分は先だろう)。
宿敵レッドスカル役がヒューゴ・ウィーヴィング。ナチス将校役がサマになっています。
トミー・リー・ジョーンズが超人兵士計画を推進する大佐役。頼れる上司を演じたら一番。
『ラブリーボーン』で殺人鬼役だったスタンリー・トゥッチが、ここでは超人血清の開発者であるアースキン博士の役。ほとんど別人ですね。さすがだ。
私はこの出番の短いアースキン博士が気に入りました。
あの血清はすべてを増幅する。筋肉や反射神経だけでなく、人の心の作用まで増幅する。だから悪党は大悪党に、善人はより善人になる──という博士の言葉が印象深いデス。
どおりでキャップはマーベル・ヒーローの中でも、特に高潔な人物として描かれるワケだ。
撃たれた博士が最後にスティーブの胸をトントンと叩いて息絶える場面が印象的でした。「きみは善人でいつづけろ」という無言のメッセージですね。
愛国心は人一倍だが、徴兵基準に満たないモヤシ青年が、超人兵士化計画に志願し、見事にマッチョに大変身という過程がドラマの中に上手に組み込まれています。
変身前の貧弱な体つきは、かなりの部分がクリス・エヴァンス本人をCG加工した(一部は代役の首をすげ替えた)そうですが、見事です。合成技術も進歩したもんだ。
もう血清投与の前と後では体つきが大違い。一昔前のボディービルの広告のようと云うか、『大改造!! 劇的ビフォーアフター』のようと云うか(何と云うことでしょう!)。
加えて四〇年代を感じさせる色調やレトロな感じもよく出ていたと思います(でも作品的には特に3Dにする必然は感じられませんでしたが)。
随所に他のマーベル作品に通じる設定が散見されて、それはそれで楽しい。
「オーディンの秘宝」とか「新元素ヴィヴラニウム」とか。「超人血清」もそうですね。これらはもはやネタの出所を問うよりも、マーベル内の共有財産とされているのでしょう。
スタン・リー御大のカメオ出演もお馴染み(勲章授与式典の場面でボケかましてくれました)。
他に気に入っているシーンを幾つか挙げると──
「国債を買いましょうキャンペーン」のシーンはちょっとしたミュージカルな場面でイイ感じ。あの劇中で歌われるナンバーが好き。チャチいコスチュームもなかなか味があって捨てがたいデス(まったく戦闘向きではありませんが)。
それから細かい部分ですが、ヒューゴ・ウィーヴィングが殴られ、マスクがずれて顔がちょっとだけ歪むという演出も好きです。細かい部分に気を使っていますね。
少し気になったのは、セリフと字幕ですかね。
セリフ上は「ハイドラ」と発音しているのに字幕では「ヒドラ」。
巨大爆撃機は「ヴァルキリー」と云っているのに「ワルキューレ」。まぁ、ドイツ人の建造した兵器だからという理由は判りますが。
でも「レッドスカル」はそのまんまか。元はナチスの将校なのだからドイツ語にはならないのか。個人名だし、原作が「レッドスカル」なんだからやむを得ぬか。こういうツッ込みは野暮か。
しかし巨大な全翼機〈ワルキューレ〉は、見るからに〈ギガント〉なんですが、最近のアニメファンは『未来少年コナン』なんて知らないのかなぁ。
是非ともキャップには、この翼の上を裸足で走って戴きたかった(笑)。
物語は北極圏で発見される氷漬けの盾から始まり、時間が過去へと遡って本編が始まるので、ラストで再び現代に戻ってきます。
七〇年もの長きに渡って仮死状態だったキャップが甦生したのは、二一世紀。劇中でみたスターク社長の博覧会とは異なる未来ですが(笑)。
しかしトニー・スタークの父親ハワード(ドミニク・クーパー)も登場してくれましたが、『アイアンマン』の時代背景を考えると、そろそろ「親子」という関係にしておくのも、ちょっと辛くなってきましたねえ(もう祖父と孫くらいの年齢差になりつつあるような)。
ここでまたサミュエル・ジャクソンの登場。やっぱり出たか。ほとんど皆勤賞。
とは云うものの、物語としての終わり方にちょっと唐突なものも感じました。結末はもう少し余韻の残る演出で考えてもらいたかったです。
ヒロインであるペギー(ヘイリー・アトウェル)のその後とか知りたかった……。
例によって、長々と続いたエンドクレジットのあとに次回作へのブリッジとなるシーンがオマケで付いてきます。観ている側もちゃんと承知しているのか、ほとんど途中で出ていくお客はいませんでした。しかも今回は『アベンジャーズ』の予告編付。
ここまであからさまだと、本作の方が二時間かけた予告編という感じがしてしまうので如何なものかと思うのですがねえ。
ジョンストン監督には是非とも、もう何本か監督して戴きたい。
パンフレットのインタビュー記事によると、バッキー(セバスチャン・スタン)の行く末に興味がある旨の発言をしておられました。
劇中でも走る列車から振り落とされ、谷底へ落下していくシーンが最後でしたが、死亡は確認されていませんから(あれで助かるというのもすごい話ですが)。
原作でも「死んだはずのバッキーが生きていた」というエピソードが翻訳されていますし、是非ジョンストン監督には『キャプテン・アメリカ : ウィンター・ソルジャー』も撮って戴きたい。
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