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2011年10月20日木曜日

ブリッツ

(BLITZ)

 今やジェイソン・ステイサム主演というだけで、「これはB級映画だ」というある種の品質保証が約束されるまでになった感があり、喜ばしく思います(笑)。
 しかもジャンルは刑事アクションもの。紛う方なき鉄板B級だよね──と、あまり深く考えることなく、予備知識なしに観に行ったのですが……。

 冒頭、車上荒らしに及ぼうとするチンピラ共を見かけて、こてんぱんにブチのめすシーンから、お約束なのはいいけれど。
 妙なことにステイサムの獲物はハーリングのスティック。「ハーリング」とはケルト起源の一種のホッケー競技。なんかマニアックだ。
 対するチンピラの武装もカッターナイフ。銃はないのか。
 チンピラが銃を抜いたらどうするのだ。銃なしで大丈夫なのかステイサム。
 妙だな、と思ったら、これは舞台がロンドンでした。イギリス映画か!

 最初からハリウッド製だと勘違いしておりました(汗)。
 したがいましてちょっと地味な刑事アクションになってしまうのは仕方ないか。イギリスが舞台だと銃撃戦はあまり期待できませんからね。案の定、銃をバンバン撃ちまくる場面はありません。
 しかし「はみ出し者の刑事」という人種はどこの国にもいるのですな。
 ぶっちゃけ本作は、ステイサム版『ダーティハリー』と申せましょう。マグナム抜きの。

 その分、ハリー・キャラハン刑事より性格がワイルドで──粗野とも云う──大雑把です。あまり頭を使わないし、もちろんコンピュータも使えません。
 大体、この手の映画でハイテクに通じているのは、相棒の方だったり、署内の婦人警官だったりするワケで、このお約束に則り、ステイサムはキーボードを前にすると手も足も出ない。
 「刑事? 天職だよ」と云ってる割に、「俺が持つのはペンじゃねェ」とデスクワークは勿論、聞き込みの際のメモすら拒否するという徹底ぶり(笑)。

 相棒となる刑事がゲイである、という設定も珍しいか。ハリウッドではあまり見かけない設定ですね。
 相棒がゲイなので、ステイサムも必要以上に接近しない。あまり仲がいいとあらぬ誤解を招きますからな。しかし口ではゲイをバカにしつつも、頼りにしているのが伺える。
 この相棒役がパディ・コンシダイン。英国の役者さんには馴染みがありませんが、実力派であることは判ります。
 このことは犯人役の役者にも云える。
 アイダン・ギレンも一見すると普通の人ですが、次第に異常性が際立つようになっていきます。最初は小物ぽいが、次第に大胆不敵になっていく。

 面白いのは、刑事ものと云えば定番の「コーヒーにドーナツ」が出てこないことですね。これが定番なのはアメリカでの話。この映画の中では誰もコーヒーを飲みません。
 刑事たちは当然のように紅茶をすすっているっ。紅茶にスコーン!
 こんなところにお国柄が現れるとは。さすがイギリス。
 まぁ、ステイサムの方は紅茶よりも、ウィスキーを一杯引っかける方がお好みですが(職務中ですけど!)。

 相棒がゲイな上に、上司の警部は奥さんを亡くし、火葬にしたら、骨壺を盗まれたりする。ドラマの本筋にはまったく関係ありませんけど。
 他にも、売春婦だった過去がある黒人の婦人警官が昇進試験に落ちたりするエピソードもあって、社会派ドラマであることが強調されています。
 うーむ。私が期待していたようなバカB級アクション映画ではないのか。もっとハイテンションなアクションものかと思っていました。オフビートな感覚が漂うのもイギリス映画らしいと云えますが。

 この映画には原作があり、〈酔いどれ探偵ジャック・テイラー〉シリーズで有名なケン・ブルーウンの小説だという。こっちもシリーズもので、本作は〈刑事トム・ブラント〉シリーズの四作目だそうな。
 映画化以前から原作者自らが「ブラント刑事のイメージはジェイソン・ステイサムだ」と明言していたそうですから、本作はほぼ原作通りの映画化なのでしょう。
 でも、ステイサムに「記憶障害の持病がある」という設定は、似合わないと思うのデスがねえ。しかも似合わない上に、本筋にまったく関係ないと云うのが辛い(原作小説のシリーズ上は意味があるのでしょうが)。

 そもそもステイサムが演じるのが「ブラント刑事」というキャラクターで、映画の題名である「ブリッツ」ではないというのも意外でした。大抵、この手の映画では主役の刑事の名前がタイトルになるのでは。スティーブ・マックィーン主演の刑事ものに『ブリット』というのがあったから、発音も似てるしてっきり「ブリッツ」と云うのはジェイソン・ステイサムの演じる刑事の異名だろうと思っていたら違いました。
 雷撃とか稲妻とか云う意味ですが、これは犯人の名前の方か。うーむ。

 連続警官殺しの愉快犯が名乗る名前が「ブリッツ」。『ダーティハリー』に登場した殺人鬼スコルピオのようなものですね。新聞社に自ら電話して犯行声明を出したりして劇場型犯罪を狙うのもお約束。
 しかも英国産のサスペンス映画として、ヒッチコック風でもある。
 犯人捜しのミステリではなく、早い段階でブリッツの正体を明かしてしまうあたりがヒッチコック的。中盤以降は、警察と犯人の双方を描きながらドラマが進行していきます。

 したがってブリッツの方も、割と人間的に描こうとするワケで。
 劇場型犯罪を狙う異常者ではありますが、元はそんな大胆なヤツではなく、軽犯罪で検挙されるばかりの小物だったという設定。あるとき一念発起して、今まで自分を検挙した警官たちに復讐を開始するというのが動機でした。
 だから容疑者として本名が判ってしまうと、割と簡単に正体がバレてしまう。検挙された履歴と、そのときの担当警官をリストアップするだけで、連続警官殺人の被害者と一致したりする。
 他にも、殺人犯とは云え人間である以上、ミスも犯すし、失敗もするという描写もあります。証拠をうまく隠したつもりでも、他人に見つかり、正体がバレそうになる危険も生じる。
 おかげでステイサムお抱えの情報屋に正体がバレてしまうが、マスコミに正体を暴露される前に間一髪で口を封じたりするサスペンス的展開にもなるのですが……。

 〈電撃〉と名乗る割には、派手なところがないのが辛いか。
 取り調べ中のステイサムの云うとおり「ブリッツ? なんだそりゃ。ヘッ」と云われても仕方ない。
 狂気に冒された刹那的な殺人犯のようでいて、確固とした物証は決して残さない知能犯のようにも振る舞う。どうにもブリッツの行動は、周到なようで偶発的出来事にも助けられていたりするのが観ていて釈然としません。
 一度逮捕されながら、証拠不十分で釈放されるあたりも『ダーティハリー』ぽいのですが、全体的に社会派ハードボイルドを目指しているらしいので、なかなか派手な展開になりません。
 まぁ、最後には法で裁けないなら、俺が天誅喰らわすまでだ、となるのですが……。

 渋いと云うよりも、華がない。地味なハードボイルドという印象でした。
 もっとステイサムが大暴れしてくれるのかと期待したのですが。残念でした。



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