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2011年10月21日金曜日

カンパニー・メン

(The Company Men)

 不況の煽りを喰らって解雇された会社人間たちの再起を描くヒューマン・ドラマです。
 製作・監督・脚本はジョン・ウェルズ。長年TVの方で活躍されてきたクリエイターだそうですが、これが長編映画初監督作品であるとか。でも見事なものデス。
 アカデミー賞級の男優四人の豪華アンサンブル・キャスト……なのですが、華やかと云うよりも渋いですね。
 ベン・アフレック、クリス・クーパー、ケヴィン・コスナー、そしてトミー・リー・ジョーンズ。かろうじて若手と云えるのはベンだけか。あとは渋いオヤジばっかり(それがイイんじゃ)。

 大企業に勤める若き営業部長がベン・アフレック。クリス・クーパーがその上司で、トミー・リー・ジョーンズが副社長。
 実はケヴィン・コスナーだけは会社勤めではありません。ベンの義兄という設定で、最初から個人経営の工務店を営んでいる。
 解雇されたサラリーマンの悲哀と共に、ベンとコスナーの対比も描かれるという趣向。

 海運業から出発したその会社も、次第に重工業から他の業種へと多角経営を展開し、今や出発点であった海運部門も経営のお荷物でしかない。そこで部門統合を行い、バッサリとリストラを敢行しようと人事が大ナタを振るいます。
 ある朝、出勤すると突然云い渡される解雇通知。寝耳に水ですが、そんなこと許されるのか。アメリカでは許される(雇用当初からそういう契約になっている)。実に厳しい。

 トミー・リー・ジョーンズだけは解雇には反対する立場。創業時から海運部門の責任者なのだから当然ですね。やはり頼れる上司はあなただけです。
 一定期間の再雇用支援制度もあるにはあるが、これは雇用を保証するものではなく、あくまで支援するだけ。支援センターではベンよりも古株の失業者が職探しを続けているが何ヶ月経っても見つからないと云う有様。
 当初は「自分だけは違う。すぐに職は見つかる」と高を括っていたベンも次第に厳しい現実に直面せざるを得なくなっていく(その根拠のない自信はどこから来るのだ)。

 最初のうち、あまりにも贅沢で高望みしているので、ベンにはあまり同情出来ません。
 「以前は年収十二万ドルでしたが、十一万ドルでいいです」なんてアホか。雇用面接で「年収六万五千ドル」という条件を提示されて、自分から辞退してしまう。
 自分を安売りしたくないという気持ちは判るが、この御時世になんと贅沢な。チャンスをみすみす逃すベンには同情の余地なしです。
 そもそもベンはエグゼクティブなのです。家は庭付き一戸建、車も二台持ち。一台は自分専用ポルシェ。失業中でもゴルフに興じて、努めてライフスタイルを変えないように無理している。
 要するに現実逃避しているのだ。

 これに比べればベンの奥さん(ローズマリー・デウィット)の方が遙かに現実的。いろいろと手を打ち、自分も専業主婦からパートに出ようと申し出るのに、ベンはこれを拒否。生活が苦しくなるのは当たり前ですね。
 生活費に困窮し始め、奥さんに「あなたは無職なのよッ!」と一喝されてやっと目が覚める。
 キツい一言ですが、ベンには愛の鞭です。
 物語にはベンを支える家族の愛が随所に垣間見えます。しかしパパとしては、買ってあげたばかりのゲーム機を売り払う息子の姿に忸怩たるものを禁じ得ない。
 そこで折り合いの悪かった義兄コスナーに頭を下げて工務店に雇ってもらう。家も車も売り払い、両親の家に同居させてもらう。

 ……なんだよ、何とかなるじゃなイカ。
 そりゃ、年収十二万ドルのエクゼクティブな生活とは雲泥でしょうが、贅沢言うな。これを屈辱的と感じるベンの心理にいまいち共感できませんでした。
 ホントの貧乏とは、こんなもんじゃないだろうに。

 一方、会社の方はリストラ断行のおかげで株価が持ち直し、自社株を持っている取締役たちにはボーナスが。社員を解雇したことで収入が増えてしまうジョーンズ副社長の複雑な面持ちがいいです。副社長以外の取締役は皆、ニコニコするばかり。貴様等、恥を知れっ。
 こうして格差は広がっていくのだという現実を目の当たりにしました。
 そして会社は更なるリストラを断行。もう自分の為に社員を犠牲にすることも厭わぬ企業の姿に唖然とします。劇中では社長が「社員よりも株主に対して責任がある」と発言していますが、自分でも自社株を持っているワケだから、そりゃ自分の為だと白状しているようなものでしょう。
 昔は日本の方が「エコノミック・アニマル」とか云われて蔑まれていたのにねえ。

 このときの人事担当者たちの会話がエゲツない。
 若い社員ばかり大量に解雇し、あとで訴えられないように、何人か古株も解雇して、見た目のバランスを取ろうという考え。
 二回目のリストラで、遂にクリス・クーパーとジョーンズ副社長まで解雇されてしまう。

 ベンはまだ若いし、何とかなっている。
 副社長の方は早期リタイアでも大丈夫なくらいの資産家である。
 一番、哀れなのはクリス・クーパー。六〇間際で解雇された者に再雇用の道があるのだろうか。支援期間が終われば、もう後がないのである。
 加えて一人娘はまだ大学生、奥さんは病弱。八方塞がりとはこっちの方です。
 絶望して自殺という選択を下すクーパーの姿が悲しい。
 葬儀の後で、クーパーを偲びながらベンに昔を語るジョーンズ副社長。海運業で起業した頃は、自分たちは船を造っていた筈だ。目で見て、手で触れるものを扱っていたのに、いつから書類と数字しか見なくなったのか。

 勤労の意義は金儲けだけではない、というジョーンズ副社長の言葉は、工務店を経営するケヴィン・コスナーにも通じますね。低賃金に甘んじながらも、家を建てるという職業に誇りを感じている姿勢がいいです。
 コスナーは無骨な大工という役ですが、頭を下げてきたベンを雇う為に赤字覚悟の仕事を請け負ったりしていることがあとで判明したりする。
 口は悪いがいい人だ。

 ケヴィン・コスナーの姿を最後にスクリーンで見たのは『守護神』(2006年)でしたか。その後も『ネスト』とかB級ホラーにも出演していましたが、久々にスクリーンで元気そうな姿を拝見しました。でも頭髪の方もかなり寂しくなっているように見受けられましたが……。
 コスナーが採算度外視の請負をしたことを知ったベンは感謝を述べるが、コスナーはぶっきらぼうに応えるのみ。

 「なに、いい時もあれば、悪い時もある。結果が出るのは最後だ」

 渋い漢だなあ。
 ラストは再び起業したジョーンズに誘われ──その前にコスナーから「お前に大工は向いてない」とダメ出しされる(笑)──ベンはかつてと同じポストに復帰。新しい職場には同時に失職した同僚の顔がぞろぞろ。
 人生、そんなに捨てたものじゃないということか。
 就職支援センターで呪いのように繰り返されるスローガンが、最初はアホらしかったが、意味のある言葉になってくるのがいいです。

 「私は必ず勝つ!」
 「何故かっ?」
 「私には信念と勇気と熱意があるからッ!」

 このフレーズを何度も繰り返すベンの姿にくじけない男の姿を見ました。
 しかしそれもこれも、トミー・リー・ジョーンズがいてくれたからこそなんですけどね。


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