では自分は一体何者なのか。本当に自分が記憶しているとおりの人間なのか。
身元を証明できるものは一切無く、ただ記憶だけが頼りなのに、その記憶さえ不確かであやふやである。
設定からして引き込まれる良くできたサスペンス映画です。ヒッチコック的な雰囲気もある。
リーアム・ニーソン主演ですが、アクションもたっぷり入っています。『96時間』以降、この手のアクションものに出演することに抵抗が無くなったのか。
リーアム・ニーソンが格闘も、カーチェイスもこなしますからね。
最初に予告編で知ったときには、リチャード・マシスン的な不条理ドラマかとも思いました。自分の信じていたもの、記憶していたものが否定されるという……。
そんなことが起こりえるのか。
起こりえるとすれば、どうして。
この手のシチュエーションで思い出してしまうのは(思い出したくないのに)、ジュリアン・ムーア主演の『フォーガットン』(2004年)ですかね。
ある日、我が子の写真がアルバムから消える。夫は夫婦の間に子供なんかいなかったと言い張る。子供がいた痕跡も消えていく。誰に訊いても子供なんかいないと云う。次に、夫の記憶から自分が消える。存在の記憶、証拠が次々と消滅していく恐怖。
ナニか巨大な陰謀が進行しているのか──と思いきや、あのあまりにトンデモな結末。速やかに忘却してしまいたいと思っていた映画なのに、また思い出してしまった(汗)。
しかし『アンノウン』は違うぞ。
邦題がカタカナ表記なので、ちょっとSF映画ぽい印象を感じてしまいますが、しっかりと地に足の付いたサスペンス映画です。超自然な出来事など一切無く、すべて現実。良かったぁ。
そうとも、宇宙人なんていやしないんだ。
でもフランク・ランジェラが共演すると聞いてちょっと不安でしたけどね。『運命のボタン』(2009年)とかありましたから。また宇宙人の手先だったらどうしようかと……(そう云えばアレはリチャード・マシスン原作だったか)。
突如として見知らぬ街で身元不明になってしまう主人公の悪戦苦闘がいいですね。
この「見知らぬ街で」というのが巧い。ヒッチコック的な雰囲気を感じます。
主人公はアメリカ人の学者先生で、国際的な学会に出席する為にベルリンを訪れたのだという設定。したがって知っている人と云えるのは、奥さん以外にない。学会に招いてくれたドイツ人の教授も、電話やメールでの親交はあったが、直接顔を合わせるのはこれが初めて。
ホテルの支配人も、ドイツの警察も、身分証明書が無ければ信じてくれない。特に自分の名を名乗る偽物の方がしっかりとパスポート等を提示するので、尚のこと不利な立場に置かれる。
旅先での異邦人という設定に拍車が掛かる。
背景となるベルリンのロケもいい感じです。ブランデンブルグ門をはじめとして、市内観光スポットから、地下鉄、路地裏に至るまでを転々としてくれます。ちょっとしたベルリン観光気分。
主人公が旅行者なのだから、まあ当然か。
自分の気が違ってしまったのか──と思い始めた頃、命を狙われ始める。もはや行き交う通行人がすべて怪しく思われる疑心暗鬼状態。
数少ない自分の味方だった看護師の女性も殺されてしまい、八方ふさがり。
しかし逆に、命を狙われ始めて、やっと確信が持てる。やはり自分は自分の信じたとおりの人間なのだと。
どうやら自分の存在を抹消し、偽物とすり替えたいという陰謀が進行中らしい。
愛する妻は人質なのか。
ここからニーソンの反撃が始まりますが、確かに知っている人と云えば、最初の交通事故でタクシーの運転手だったダイアン・クルーガーのみ。タクシーの車両番号が偶然、語呂の良い数字だったので憶えていたというのが巧いですね。
しかしダイアンはボスニアからの不法移民なので、あまり協力的ではない。
このあたりの設定もベルリンという背景を巧く使っています。
もうひとりの協力者がブルーノ・ガンツ。看護士の女性から紹介された老探偵。実は元は旧東ドイツの秘密警察出身だったという設定も巧い。結構、裏の世界に通じていたりして、色々と調べてくれる。
それにしてもベルリンを舞台にして、ブルーノ・ガンツか。また別の映画を思い出してしまいます。今回はチョビ髭は無しですか。
そしてフランク・ランジェラの登場。老探偵がアメリカから呼び寄せてくれたニーソンの友人で、身元証明の最も有力な味方になってくれる……筈の人物でした。うーむ。そうだったか。黒幕かよ。
このブルーノ・ガンツとフランク・ランジェラが対峙するという短い場面が印象的です。渋いオヤジが二人で向き合っているだけなんですけどね。やはり名優同士ともなると、迫力ありますなあ。特にランジェラの方は押し出しも立派なので、ガンツの方が小さく見える。
職業柄、あっという間に陰謀の存在と黒幕の正体まで見抜いてしまう老探偵の眼力は大したものデス。さすがは元秘密警察。
でも、残念ながらそこまでか。ブルーノ・ガンツにはもう少し活躍してもらいたかった……。
それにしても途中から、妙だと思う部分が伏線でしたか。
リーアム・ニーソンは、学会に出席する為にベルリンを訪れた学者なのである。博士である。
それなのに襲ってくる暗殺者を倒し(かなりギリギリでしたが)、車を運転して夜のベルリンの街でカーチェイスを演じたりする。この見事な運転技術。
とても博士とは思えない。
そこは映画だし、大目に見てあげないとイカンのか……と思ったら、違いましたね。
自分が記憶していたとおりの人間ではなかった、というのはかなり衝撃的か。何やら〈ジェイソン・ボーン〉シリーズにも通じるような設定ですが。アーノルド・シュワルツェエネッガー主演の『トータル・リコール』(1990年)もそうか。
しかし完全に記憶を取り戻した後も、人格だけは戻らないと云うのは、いいのですかね。自分がどうであったかより、これからどう行動するかが大事なのだ、と云うのは判りますがね。
陰謀の内容も、もう一ひねりしてあるので、最後まで二転三転する物語は巧いし、なかなか良くできています。ハッピーエンドなのもお約束。
しかしそれでいいのか。
ブルーノ・ガンツの推理が確かなら、敵はもっと巨大な組織のような気がするが、追っ手が掛かったりしないのだろうか。まぁ、幾ら刺客が差し向けられても、完全復活したリーアム・ニーソンの敵では無かろうが(笑)。
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