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2011年5月19日木曜日

星を追う子ども

(Children who Chase Lost Voices from Deep Below)

 新海誠の二年ぶりの新作劇場用長編アニメですよ。
 『ほしのこえ』、『雲のむこう、約束の場所』とか大好きでした。『秒速5センチメートル』はちょっとアレでしたが。
 とりあえず観に行かずばなるまい。なんだかんだ云って好きなんだし……。

 うーむ。でも何と云っていいものやら。
 正直に云うと、どこかで観たことのあるイメージが多すぎて、イマイチな感じがしました。物語としては実にオーソドックスなジュブナイルSF、ジュブナイル・ファンタジーなのですがねえ。

 歳を食いすぎたコアなアニメ野郎が観てはイカンのだろうか。
 ぶっちゃけ、これは新海誠の作った『天空の城ラピュタ』である。そこへチラホラと『風の谷のナウシカ』とか『もののけ姫』とか『シュナの旅』のイメージが垣間見える。それから『新世紀エヴァンゲリオン』とか『宇宙ショーへようこそ』とかも。

 全体的にジブリ作品のコピー、と云うと云いすぎだろうか。宮崎駿へのオマージュに溢れかえっている──ように感じられてなりません。
 それっていいことなのかねえ?
 リスペクトは大事でしょうが、あまりにもそれが前面に出すぎているように思えます。

 作品の出来としては丁寧に作られた佳作でしょう。基本に忠実というか。
 でも、つくづく宮崎駿って偉大なんだなあ、と全くこの作品とは関係のない感慨を抱いてしまいました。いや、あまり新海誠をケナしたくは無いのですがねえ。

 ともあれ、実に久々に地球空洞説ネタの異世界冒険ファンタジーを観ました。そこんところは却って新鮮でした。

 かつて地上の人間たちに知恵を授け、古代文明の導き手であったケツァルトルと呼ばれた神々が存在した。世界各地に神話として痕跡を残す彼らは、人類が独自に進歩しはじめたことに役目の終わりを感じ、地底世界「アガルタ」へと去っていった……。
SF者なら「ペルシダー」と云いたいところですが(笑)。

 しかし人類の発達した科学文明をもってしても、なお神の如き──と云うか神様なんでしょうが──彼らケツァルトルを追い、優れた文明、科学技術を求めようとする秘密結社が存在した。
 長野県の田舎町に住む少女アスナは、異世界からの訪問者である少年と偶然接触した為、事件に巻き込まれ、やがて地底世界をめぐる冒険の旅に出ることになるのであった。

 この冒険行と、オルフェウスや、イザナギといった神話にある「冥界への旅」というイメージが重ねられるというのは、非常によく判る。

 亡き妻を求めて冥界へ赴くという神話と、「病死した恋人を異世界の科学技術で生き返らせよう」と企むモリサキ先生の行動が重なるのは非常によく判る。
 あまりにも判りすぎて、結末まで予想できてしまうほどだ。
 もう、モリサキ先生のことをムスカと呼んでしまいたい。いやいや、モリサキ先生は「人がゴミのようだ」なんて云ったりはしません。そんな悪党ではないですがね。
 それにしてもなあ。

 背景美術の緻密さは見事です。地底世界アガルタの美しい風景。そこに暮らす少数の人類の末裔たちの文化が、中近東風であったり、中南米風であったり、あるいはチベットやインド風であったりするのもいいでしょう。神様がバビロニアかシュメールぽいのもイイ感じです。生活感溢れる日常的な描写にも手抜かりなし。
 そして新海作品にはおなじみの、天門の美しい旋律。
 悪いところなんてどこにもない。

 どれもこれも、どこかで観た気がするのは、私の気の所為だ。きっとな。

 「光る不思議な石」の争奪戦から事件に巻き込まれる展開とか……。
 主人公の少女に「ネコのようなキツネのような小動物」が付き従っていたり。人の怨念が凝り固まった化け物のような連中が現れたり。村にでっかい風車があったり。
 気の所為だ。忘れろ俺。ナウシ──云うな。

 そのうちアスナちゃんが青い服装で金色の草原に立って、滅びの呪文を口にしたら、石が飛び去って釜の底が抜けるのではないか。いやいやいや。
 ダメだ。雑念を捨てろ。物語に集中しろ俺。

 きっと若年層の観客は楽しめるのだろう。これはジュブナイルなんだし。
 ヒネた野郎が観てはならぬのデス。

 尺の都合からか、色々な設定を説明無しで投げっぱなしになっているのが残念な感じではありますが。
 例えば秘密結社アルカンジェリ。かなり大昔から存在しているらしいが、実態はよく判りませんなあ。幹部は「エウロパの老人達」と呼ばれていましたが……。
 特殊な鉱石クラヴィスの仕組みも今ひとつ。それを所持すると怪力を発揮したり、高所から飛び降りても無事だったり、身の危険に際してバリアのようなものを発生させたりするらしいが。
 「夷族」の正体についても、もうひとつ説明が欲しかった。
 しかし、なにより地底世界アガルタの風景のね……。

 地底世界であるので、星が見えない。当たり前ですね。そんな「星なき世界」で「星を追う」子供がいる。
 ここで云う「星」とは、文字通りの星と云うよりは、追い求めるが決して手の届かないナニか、であるというのは判りますよ。
 えーと。私が気になるのは、星は無いくせに太陽はちゃんとあるという点でして。
 まったくごく自然に「昼と夜」が訪れる。周期も二十四時間らしい。説明はない。何故だ。あの熱源は何なのだ。是非、知りたい。
 ああ、もう。だから枝葉末節に拘るマニアが観ちゃイカンのだ。あれは古代文明の残したナニか不思議なものなんだよ。きっとな。

 辿り着いた「生死の門」の先が、明らかに地球上ではないどこからしい。ケツァルトルの故郷の惑星のようであるが、説明はない。ムツカシイSF的解説は不要か。

 二時間弱の劇場用アニメであるのがイカンのか。この物語がもしNHKあたりで放送されるTVシリーズで、全二十六話とかだったら、きっと素晴らしい作品になったであろうと思わずにおられませぬ。

 人は喪失を抱えても生き続けなければならない。それがヒトに与えられた呪いであり、また祝福でもある。
 失った恋人、幼い頃になくしたお父さん、淡い恋心を抱いたあのひと。もう一度会いたいと思っても、それは叶わないし、叶えられない。それでも自分は生きていこう。
 きちんと前向きなメッセージは伝わるので、そこは評価したい。

 エンドクレジットを流しながら「帰還の旅」までキチンと描かれているのはいいですね。ちゃんと「行って帰ってくる」物語なのがいい。
 それだけにモリサキ先生やシンのその後がどうなったか気になるところですが、アスナちゃんの笑顔ですべて許したい(声優は金元寿子さんですから。イカ娘ですがイイじゃなイカ)。


劇場アニメーション 星を追う子ども Original SoundTrack星を追う子ども コンプリート

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