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2011年5月4日水曜日

100,000年後の安全

(INTO ETERNITY)

 実に興味深いドキュメンタリ映画でした。デンマーク映画とは珍しい。
 監督・脚本はマイケル・マドセン。
 へえ。『レザボア・ドッグス』とか『キル・ビル』に出演していたアノ人ですか。役者だけでなく、ドキュメンタリ映画の監督も務めるのか。才人だなあ。
 ──などと大ボケかましました。同姓同名の別人ではないか!

 放射性廃棄物の処理に関するドキュメンタリです。
 現在、全世界に存在する放射性廃棄物は推定二五万トン超。しかしその最終処分方法については、どこの国も未定のまま。
 これは北欧のフィンランドが世界に先駆けて建設する人類初の高レベル廃棄物最終保管施設「オンカロ」に取材した記録映像です。なんか凄い。

 全長五〇〇〇メートル以上の傾斜路が続く地下五〇〇メートルの核の埋葬地オンカロ。
 フィンランド語で「隠し場所」の意味らしい。寒冷な森林の中に現れるコンクリート製の進入口から、カメラは進んでいく。もう冥界への途という趣き。
 今でも建設中なので掘削の為の工事車両が出入りしている。ここは二〇世紀中に計画され、今世紀中に操業を開始し、来世紀に満杯になり次第、完全閉鎖する予定だという。気の長い話ですね。
 データでは二〇〇四年掘削開始、二〇二〇年頃操業許可申請、二一〇〇年代に閉鎖予定だとか。

 放射性廃棄物が無害になるまで、およそ十万年。この施設はその時が来るまで、廃棄物を安全に保管することが目的である。
 しかし人類史上、いまだかつて十万年の歳月に耐えた建築物なんて無いのですが。本当に大丈夫なのか。スケールがでかいと云うか、もうSFの世界ですよ。
 十万年。一〇万年。一〇〇,〇〇〇年。

 うーむ。ピンと来ないなあ。
 十万年前と云うと、人類の御先祖様がアフリカにいた頃か。ヨーロッパにはネアンデルタール人が闊歩して、槍でマンモス狩っていた頃なんですね。
 それほどの歳月を経ないと無害にならない物質とはやっかいなものを見つけてしまったものだ。監督自身のナレーションでも云ってましたね。

 「人類は新しい火を発見した。だがそれは消すことの出来ない火だった」

 完全無味無臭。しかし確実に人体を破壊するもの。ただただ半減期に半減期を重ねて無害になってくれる日を待つより他にない。怖ろしい。

 映画は、関係者へのインタビューを通して、この核の埋葬地の必要性を説いていきます。
 まず地上での保管は論外である。地上の環境は不安定。過去百年の間だけでも世界大戦が二度。それに地震や津波もある。だめ押しでチェルノブイリからの放射性物質の拡散図まで見せてくれます。
 海洋投棄も論外。宇宙への投棄にも技術的な問題が。もはや地底に埋葬する他は無い。
 そこで埋葬地の候補として挙げられたのが、フィンランドのオルキルオト島。バルト海側にある島なんですけど、いいのかしら。フィンランドの地盤は一八億年前のものなので安定しているから、大丈夫とは云うものの……。

 しかしよく考えると、オンカロは「フィンランドの放射性廃棄物保管施設」なのであって、全世界二五万トンの廃棄物すべてを引き受けてくれるわけではないのである。他の国々もオンカロを作らなくてはならないのだろうが……。
 一体、日本のどこにそんな施設を作ればいいのか。そもそもフィンランドみたいに安定した地盤なんて無いし。国全体が活断層の上に乗っかっているようなものなんですが……。
 そうなると地下五〇〇メートルと云うのも「たった五〇〇メートル下かよ」と云う感じがしないではない。そこまで掘るのは大変でしょうけど。

 映像の中では、オンカロ建設の為に掘削に邁進するドリルジャンボの勇姿が拝めました。ええ、あの『ロックドリルの世界』で紹介された、地底世界の超機械巨神、特殊岩盤破砕鑿孔装置ドリルジャンボですよ。本当に古河ロックドリル社製かな。
 ドリル好きな人にもお勧めの映画と云えなくもない。

 さて、映画の後半はますますSFじみた内容になっていきます。
 このオンカロは廃棄物が満杯になり次第、すべての坑道を埋め戻し、完全閉鎖する予定なのだそうである。将来、誰もここから放射性廃棄物を持ち出せないように。
 でも「ここに放射性廃棄物が埋まっている」ことを後世に伝えることは良いことなのか。

 情報が完全に伝わらない場合、必ず掘り返そうとする人間が現れるのではないか。人間は好奇心の塊ですし、好奇心をもった人間を押し止めることは出来ない。
 では、完全に忘れてしまうのが一番か。
 一部分でも伝説として残ってしまった場合はどうすればいいのか。

 「危険。近づくな。決して掘り起こしてはいけません」という警告は逆に人を呼び寄せてしまうのでは。そもそも十万年というスケールで見た場合、文明がどうなるのか予測は不可能である。そのうち氷河期だって来るだろう。
 どんな言語での警告も、読んでくれるかどうか。きっと現代の人間がピラミッドについてよく判らないのと同様のことが起きてしまうでしょう。
 では警告には、言語を使用しないシンボルだけを、碑文に刻んで残すのか。

 「恒久的な情報伝達」とは如何にあるべきかという、放射性廃棄物の保管問題とは別な次元で問題が生じている。
 関係者の間でも、完全忘却こそが一番であるという意見があるらしい。やはりそうなのか。でもこれはフィンランド政府の国家事業なので、どうしたって記録は残ってしまうのである。
 フィンランド語で。
 もうますます未来人への情報伝達が不確実になっていきそうで、非常に不安デス。
 マドセン監督が、未来の「きみ」に語りかけるナレーションが効果的でした。

 「忘れることを忘れてはならない」

 関係者も、数十年先までなら大丈夫と太鼓判を押す。きっと百年先でも大丈夫だろう(かなり楽観的か)。でも千年先となると……。一万年先ともなるともはや……。
 いや、「グッド・ラック」とか云われても困るんですけど。

● 余談
 マイナーな映画なのでフィルム上映ではなく、ブルーレイ・ディスクを再生して上映していました。別に映像的には遜色ないので問題はありませぬ。
 でもスクリーンに「トレイ・オープン」とか「プレイ」とか表示されると、ちょっとなあ(笑)。

 しかもこの映画、今年の二月にNHKの衛星放送で放映されたらしい。
 BS世界のドキュメンタリの、シリーズ「放射性廃棄物はどこへ」の中の一編として。『地下深く 永遠(とわ)に ~核廃棄物 10万年の危険~』という題名でした。でも原題は “Into Eternity” だし、二〇一〇年デンマーク製作だから同じ作品だよなあ。

 シリーズ「放射性廃棄物はどこへ」は、この5月中旬にも再放送予定だと云う。しっかりこの作品も再放送予定の中に入っているぞ。
http://www.nhk.or.jp/wdoc/index.html

 わざわざ劇場にまで足を運んだのに…… orz

● 余談2
 後日、再放送された『地下深く 永遠(とわ)に』を観ました。やはり本作と同じでしたが、五〇分に編集された短縮版でした。
 劇場公開されたものがロングバージョンと云うか、完全版なのか。
 でも日本語のナレーションが付いていたので、これはこれで判り易かったですけど。


● 引用
 オンカロについての詳細な情報はここで得られます。

フィンランドにおける地下岩盤特性調査施設(ONKALO)建設の近況
企画小委員会委員 高橋美昭(原子力発電環境整備機構 技術部)




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