恋愛ものとしても、見所に乏しい。
大体、演出のセンスを疑う。例えば──
村の祭りの場面で、キツネの面をかぶった蒼井優と、愛しい人を探す岡田将生が見つめあうシーンがある。面をかぶっていても、岡田将生にはそれと判るのである。それはいい。
当然、祭りのシーンであるから、周囲は笛や太鼓が鳴り響き、にぎやかに村人たちが踊っている。
でも見つめあう二人の世界では、祭りの喧噪は急速に消え失せ──ここまでは良しとしよう。
でも何故、ここで洋楽が流れ始めるのか。
ピアノの伴奏で英語歌詞のラブソングを流すのである。時代劇だろ、これ。
結局、身分の差を乗り越えられず、悲恋になる結末ではあるが……。
中盤で二人は駆け落ちすることを口にする。
「あの山を越えて、海まで行こう。そしてその海を渡って……」
決して叶うことのない自由を夢想する哀しいセリフではある。案の定、駆け落ちなど実現することなく、恋人達の仲は引き裂かれる。
そのまま引き裂かれ、遂に二人が再開することはなかった……で、お終い。
これではイカンと思ったのか、最後にファンタジーな場面が追加されている。
岡田将生と蒼井優が二人で馬に乗って海岸に佇むという場面。
叶うことの無かった夢を具現化した美しい場面……なのだろうが、海が蒼くて透明で……誰がどう見ても「沖縄の砂浜」丸出しなのである(笑)。
一体、どこまで駆け落ちしたのか。
あまりにもアホらしい場面なので失笑してしまいました。これがラストシーンかよ。
蒼井優は『REDLINE』の声優演技は良かったのになあ。もう実写で女優しているより声優を本業にした方がいいのではないか。
が、見所皆無と云う訳でもない。
この映画を救っているのは、ひとえに柄本明である。主役の二人は……どうでもいいか。
柄本明は若様に幼少の頃から仕えている御側用人の重鎮。そして身辺警護としても相当の腕前である。
とりあえず時代劇であるからチャンバラがありますが、曲者に囲まれた若様の元へ風のように馳せ参じ、曲者の親玉を斬り伏せる。
この映画の中で数少ない合格点な場面である。
ちなみに時任三郎も出演していますが、物語の進行上、ここでは曲者に斬られてしまう役であった。もうちょっと見せ場が欲しかった。
そして柄本明のもう一つの見せ場が、切腹シーン。恋に見境がなくなってしまった若様を、一命を賭して諫める演技が圧巻です。
このときの鬼気迫る柄本明の表情が素晴らしい。
柄本明が一人で「殺陣と切腹」という時代劇の看板をこなしてくれたおかげで、なんとかなりました。柄本明がいなければ、この映画はどうなっていたことか。きっと私は途中で眠ってしまったであろう。
題名にもなっている〈雷桜〉はなかなか面白い樹木でした。
本来は銀杏の大木だったが、落雷で裂けた部分にあとから生えてきた桜の木が融合し、銀杏とも桜ともつかない木になったというもの。
春には花見ができて、秋には紅葉が鑑賞できる。
なんとなく「引き裂かれても花は咲く」というあたりにテーマらしいものを感じますが……。あんまり物語には関係なかったねえ。
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