岩原裕二が月刊コミックビーム(エンターブレイン)に連載していたSFコミックスが原作ですが未読です。連載中、何度か書店で手に取りましたが立ち読みできない上に、どこまで続くのか判らなかったのでスルーしておった次第。
『彼岸島』みたいに、三〇巻を越えてまだ継続中なシリーズに手を出したら悲惨ですし。
でも、いつの間にやら全六巻で完結していたとは、割とコンパクトに収まりましたな。
それをTVシリーズではなく、一本の劇場版にしたのがコレ。ストーリーはかなりアレンジされているようです。パンフにも、監督が原作からのネタの取捨選択に悩んだ旨のインタビューが載っていた。やはり全六巻とは云え、一本の映画にはチト長いようです。
でもそれで正解でした。まとめきれずに尻切れトンボになったりせず、きちんと完結している点を評価したい。
しかも俺好みのB級ムービーではないか。
丁寧に作られている大作アニメぽい──エンターブレインの他にサンライズや角川なんかの共同製作ですからね──のに、全体的にBテイストに溢れている。気に入りました(笑)。
原作者は「B級映画にして」とリクエストしたそうですが、実に正しい。
設定上は「全世界が滅亡の瀬戸際にある」とスケールでかく風呂敷を広げているのに、ほとんど限定的な空間でのみ物語が進行していくのがいい。
正体不明の伝染病が世界中に蔓延し、多国籍医療企業が感染者たちを冷凍睡眠で未来に送り込む。いつか治療法が確立されるまで……。
どれほどの時間が経過したのか、冷凍睡眠から目覚めてみると、施設の様子がおかしい。見たこともない巨大植物が繁茂し、凶暴な怪物が徘徊している。一体、世界はどうなってしまったのか。
冒頭の世界情勢の説明や、冷凍睡眠に入るまでのプロセス描写がなかなかいい感じです。『ミクロの決死圏』とか『アンドロメダ…』のようなメディカルSFを連想しました。幾つか伏線も張っています。
でも実は物語は、ほとんどが「施設からの脱出」に費やされる。
雰囲気としては『CUBE』とか『ポセイドン・アドベンチャー』に近い感じです。少人数のグループが限定された空間から脱出を図る、という意味では。
だから外の様子とか、本当に世界がどうなってしまったのかという情報は断片的にしか開示されず、観ている側もジリジリします。
作品全体を覆うモチーフにグリム童話『いばら姫』──または『眠れる森の美女』──が引用されますが、これは映画オリジナルの演出だそうな。これが巧い。
原作の題名が『いばらの王』なのに、『いばら姫』の引用は原作にはないのか。ちょっと意外でした。
百年の眠りについたお姫様の塔をいばらが覆い尽くす、というシチュエーションが登場人物の置かれた状況と重ねられるのが実にぴったり。しかしそこから『胡蝶の夢』に転調するとは思わなかった。
本当にお姫様は目覚めたかったのか。いばらは「姫を世界から隔絶させる」が、逆に「世界から姫を守っている」とも云える。眠っている姫は何を夢見ていたのか。
ひょっとしてこの状況は全部、夢に過ぎず、自分たちはまだ冷凍睡眠し続けているのではないか。それどころか誰かの夢の中にいるのでは……。
おいおい。怪獣と戦いながら施設の地下から地上を目指す脱出行だと思っていたら、イキナリ哲学的なことを云い出すなよ(笑)。
アクションに次ぐアクションでグイグイ押していくと思わせて、不意に不条理SFな側面が顔を出したりして、意表を突かれました。
でもちゃんと理屈の通った結末が用意されていたので、ひと安心。
まぁ、この種明かし的説明がちょっと駆け足ぽく感じられたのは尺の都合ですかね。
アクションゲーム的展開を主体にしながら、世界の謎解きを絡め、更に主人公達にも各々隠れた秘密があるというミステリアスな構成が、並のB級とはひと味違うところか。
特にヒロインには双子の姉がいるというのが冒頭に説明されますが、そこにも秘密がある。うーむ。これ以上はネタバレになるので云えぬ。
監督は片山一良。TVシリーズでは『ビッグオー』や『アルジェントソーマ』等の俺好みSFアニメの監督さんですが、劇場用作品ではこれが初監督だとか。
洋画ライクな(しかもB級的)画面構成や展開がいいですね。銃器の描写も監督自身がガンマニアなので凝りまくっています。
でもハリウッドならフツーに実写化してしまうのだろうなあ(笑)。
洋画吹替もこなすベテラン声優を多数、起用しているのもいい感じ。
でも主演の花澤香菜はよく知らない方でした。結構、巧いので憶えておこう。
えーと。それできちんと一件落着したのはいいけれど……。
結局、世界はどうなっちゃったのかって……。
あれえ?
なんかソレ、とってもまずいことになっているのでは。
B級だからいいのか(爆)。
ランキングに参加中です。お気に召されたならひとつ、応援クリックをお願いいたします。
にほんブログ村