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2009年11月14日土曜日

笑う警官

 

先日、友人から『笑う警官』の前売りチケットをタダで戴きました。

(観賞前) ありがとう。戴いたからには、初日から観に行ってあげないとね。

(鑑賞後) よくもこんな券、押しつけやがったな。


大槻ケンヂが、かつて書いたエッセーの中でこんなことを云ってます。

──作家として、自分の小説が映画化されると聞けば、そりゃ嬉しいであろう。でももし、「監督はエド・ウッドです」と云われた場合はどうすべきであろうか。

これもまた似たようなケースであろう。

「製作・監督・脚本、すべて角川春樹が引き受けますから!」

そう聞いたときの佐々木譲の心中や、如何ばかりであったろうか。
激しく後悔したであろうか。断り切れなかったのかなあ。

前置きが長くなりましたが、とにかく、文句なく、断トツ、ぶっちぎりで今年一番のダメ映画! こんなに詰まらない邦画は久しぶりだ。

レインフォール/雨の牙』よりも!
『アマルフィ/女神の報酬』よりも!
『二〇世紀少年』よりも!
『火天の城』よりも!
ダメダメダメの駄目ッ!
とにかくもう、突っ込む気力すら起こらない。

何となく、原作小説は面白いのだろうなあと云う気配だけは微かに残っていました。
警察組織内の腐敗を暴こうと、敢えて第三者機関の委員会で証言しようという勇気ある警官に、同僚の婦人警官殺害の容疑が掛かる。
その警官の潔白を証明し、委員会で証言させようと、組織の中からはみ出した刑事達の一夜の捜査のゆくえを描くサスペンス・ミステリ。
委員会が開かれる明朝までに真犯人を見つけ出さなければならない……。

──と、こう書くとウイリアム・アイリッシュの『暁の死線』みたいですねえ。
タイムリミット付のミステリは大好きだし、面白くなるものなのですが……。

監督・脚本のセンスが悪いと、こうまでひどくなるのかという暗澹たる気持ちにさせられます。
何でもかんでも言葉にして、セリフで説明してしまう緊迫感の欠片もない演出。動きのないカメラワーク。どの辺がサスペンスなのか。
この動きのまるで無い演出は、映画ではなく、舞台劇でも観ているようでした。
だったら最初から舞台で演ればいいのに。
とにかく、やたらと役者のアップばかり。しかも行動を全部、セリフで説明するので動く必要がないのである。

刑事達の友情を描く際に……
「あの潜入捜査以来、俺とあいつとは固い絆で結ばれた」とか説明するな!
男の友情は行動で示せ!

あまりに詰まらないので、もう寝てしまいそうでした。
瞼がだんだん降りてきて……数分間、本当に私はスクリーンを観るのを止めていた。
でも、すべてセリフで説明してくれるので、物語の進行を把握する妨げにはなりませんでした(爆)。見なくても判るミステリ! ラジオ番組か、これは!

超が付くほどの駄作のくせに、妙に立派な装丁のパンフレット。
その中で、角川春樹が自画自賛しているコメントに、ムカつきました。
ワンカット11分の長回しのカメラワークがそんなに自慢か。
演出の欠片もなく、ただ役者がディスカッションしているだけの場面ではないか。ドキュメンタリじゃあるまいし。退屈なだけだったぞ。

角川春樹の趣味が炸裂している、という意味では、やりたい放題だったのでしょう。なんか勘違いしているようですが。
雑居ビルの地下の、穴蔵のようなバーで、洒落たジャズが演奏されて──楽器はサックスでないと駄目らしい──、男達がタバコを燻らせ、ブランデーグラスを傾け、無言で演奏に耳を傾ける。
どうもこれが角川春樹にとってのダンディズムらしい。

こののんびり、まったりした余裕の雰囲気。
タイムリミットが迫る緊迫したサスペンスとは水と油である。バカか。

こんな映画の宣伝を任された角川映画の担当者が本当に可哀想である。
角川春樹自身が製作・監督・脚本まで務めた作品が大コケではシャレになるまい。ヘタをすれば宣伝担当者の責任問題であろう。
真の責任は角川春樹にあるのに、それは責められない。
こうなったらもう、会社の自腹を切ってでも無料鑑賞券をバラ撒き、興行成績を底上げしなければ。
多分、私の友人が大量に無料鑑賞券をもらってきたのには、このような事情があるのでは無かろうか。

でも私が観に行った劇場では、初日からガラガラでしたよ。
本当に十人もいなかったような……(一人、途中で出ていって戻ってこなかった)。


とりあえず鹿賀丈史の演技だけが救いでした。
腐敗した警察組織内の黒幕である幹部の役ね(バラしてもいいよな)。

自らが計画した悪巧みが図にあたり、独りでそっとほくそ笑む場面。
と、堪えきれずに笑みは高笑に。
実に悪党らしい怪演技。

──これが「笑う警官」か。猿にも判るような演出だなあ。
でも鹿賀丈史が笑うシーンでは、つい私も釣られて笑ってしまいました。
これは失笑というやつかな。


●余談
『笑う警官』はスウェーデンの警察小説〈マルティンベック・シリーズ〉の第四作目とまったく同名ですが、特に関係はありません。
当然、その映画化作品『マシンガン・パニック』とも、ウォルター・マッソーとも無関係です(笑)。

でも『笑う警官』を翻訳して出版したのは角川文庫なのに……。


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