ベルギー在住のユダヤ人少女の苦難の物語。まぁ、大ヒットはしそうにないから、ミニシアター系公開なんでしょうが。
1942年。ブリュッセルで暮らしていた少女は、ユダヤ人の父親とロシア人の母親を、ユダヤ人狩りの一斉検挙に摘発され、天涯孤独となる。ユダヤ人支援の民間団体に助けられ、里親に預けられたはいいが生活に馴染めずに家出。
多分、両親は収容所で強制労働させられているのだろうという推測だけを頼りに、ただただ東へと向かう旅。
ベルギーからドイツ、遂にはウクライナに至るまでの過酷な「母を訪ねて三千里」的な行程。旅のお供は一匹の白い狼……。
原作者はミーシャ・デフォンスカという女性。主人公の少女と同じ名前で、原作は回想録と出版され、評判になって映画化されたそうですが……。
観終わった後、書店で翻訳された原作を手にとって解説だけ読んだ。
実話かと思ったらフィクションかよ!
回想録の形式で出版され、映画化が決定した後に、原作者がカミングアウトしてしまい、映画製作そのものも頓挫しかけたそうな。
まぁ、「旅のお供は一匹の白い狼」というあたりで、ホントに実話かよと思っちゃうわけですが(爆)。限りなく実話ライクな演出がリアルと云えばリアル。
多分、原作にそれだけのパワーがあったということなのでしょう。フィクションだと判ったからと云って、感動の質が変わる訳ではありませんがね。
ミーシャの衣装が赤いマント──寒さをしのぐ為に赤い防水シートに穴を開けて着ている──なので、オオカミと旅する物語は〈逆・赤ずきんちゃん〉という風情である。
リアルで丁寧な描写が随所に見受けられます。
里親となる一家は、別に人権擁護派でもなく、支援団体からの礼金目当てで少女を預かっているだけなので、かなり邪険に扱われていたり。
里親一家に食料を分けてくれる農場のお爺さんから、犬の扱いをキチンと教えてもらうので、旅の途中で狼がお供になる過程が無理なく納得できたり。
サバイバルの過程で、遂に空腹のあまりミミズを食べて吐いてしまったり。
この「ミミズ食い」のシーンがリアルでエグい。
ミーシャ役の女の子は、これが映画デビューとなるマチルド・ゴファールちゃん(当時9歳)。ほとんど素人同然の子役なのに迫真の演技と申せましょう。
パンフの解説によると、本人はミミズに触るのも大層嫌がった(当たり前か)ので、手のアップは別人(笑)。口に入れるシーンでは、ミミズではなく加工したパスタ(チョコ味)だったので喜んでいたらしいが。
まぁ、いくらドキュメンタリ指向とは云え、女の子に本当にミミズを食わせる監督はいないか。昔はいたのかも知れぬが(笑)。
他にも、オオカミと一緒に野生動物の肉をナマで食する描写が何回か。
うーむ。鴨肉はナマでも食べられそうですが、イノシシの肉は寄生虫とかが危険じゃないかな──と心配になります。極限状態では背に腹は代えられぬか。
リアルと云えば、セリフが最初はフランス語で始まり(ミーシャは全編フランス語を喋る)、旅の途中で出会う人々の言葉がドイツ語、ロシア語と変わっていくのがリアルでした。当然、ドイツ兵はすべてドイツ語である。
ヨーロッパ映画なのだし、当たり前と云えば当たり前なのだが、このあたりハリウッド製とは違うテイストなのがいい感じ。
『ディファイアンス』と比較すると、もう一点。劇中の情景がとても似ている。ドイツ東部の山中で戦災孤児となった子供達と出会ったり、ユダヤ人ゲットーの中で母親に似た女性を見かけたり、ドイツ兵とパルチザンとの戦闘に巻き込まれそうになったり等々の場面が、かなり『ディファイアンス』と重複している。
何となく映画がクロスオーバーしているみたいで、一瞬、ダニエル・クレイグが顔を出してくれそうな気配がしたが気のせいでした(笑)。
そして遂にウクライナに到着。
「ママと同じ言葉」を喋る人が住む国に到着したはいいが、過酷な旅を続けた所為で極端に人間を避ける性格になってしまい、意思の疎通もままならない。自分自身がオオカミ少女化してしまい、両親を捜すよりも人間性を取り戻すことが一苦労だったりするのが涙を誘います。
自分と同じミーシャという名前の赤軍兵と友達になり、そこでやっとドイツがブリュッセルから撤退したことを知る。
実はこの旅は往復の旅なのである。
でも帰還の描写はかなりカット(往路だけでもう充分ですが)。遂に再び、ブリュッセルに帰ってきたとき、最初に家出してから三年が経過していた……。
フィクションなのに、両親と巡り会うことは無い。その消息も遂に不明なまま。多分、ホロコーストの犠牲になったことが察せられます。
最初に世話になった農場のお爺さんが引き取ってくれるのがせめてもの救いではあるが……。あまり救いのない物語だなあ。
ところで邦題の「ホロコースト」にはあまり意味がないような気がする。
ユダヤ人少女の受難の物語ではありますが。
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