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2007年8月25日土曜日

インランド・エンパイア

(INLAND EMPIRE)

 ……ワケ判らん。

 しかし「判らない? それがリンチを理解したってことなんだぜ」──とも云われているので特に腹も立ちません(笑)。
 無理に判ろうとせずに流されるまま観ているだけでも充分、満足は出来ます。恐るべしリンチの脳内帝国。
 多分、そこが前衛的な他の監督とリンチの違いなのでしょう。
 ホントにワケの判らぬ映像の羅列なら客は怒るが、リンチの場合はビミョーに「判りそうで判らない」ラインを維持しているので、逆に惹きつけられるのですね。狙って出来る芸当ではなく、天性の資質なんですかね。

 私も最初のうちはついて行けました(笑)。
 これも『マルホランド・ドライブ』と同じで、「映画製作にまつわる物語」である、と。役者が演技と実生活の境目が判らなくなっていく、というのも「よくあるパターン」だしね。
 但し、そこから先になるとお手上げで、いきなりポーランドに話が飛んだりしていくうちに、手に負えなくなってくる。謎のウサちゃんワールドとか、すべてをTVに映して泣いている女性とか(また〈泣き女〉だよ!)。

 『マルホランド・ドライブ』を未見の方は、先にそっちを観てから『インランド・エンパイア』に挑戦することを強くお薦めします。
 全体的に『マルホランド・ドライブ』上級編という感じなので。
 虚構と現実が交錯するという構造に於いては、『マルホランド・ドライブ』はまだ判りやすい。描かれているのは、ひとつの虚構とひとつの現実。二重構造(多分)。
 しかし『インランド・エンパイア』はこれが更に発展している。
 リンチ・ファンの友人の解説によると、これは四重構造なのだ……そうだ。よく判らん。

 えーと。
 まず映画出演を依頼された女優ローラ・ダーンの物語でしょ。
 その出演作品である『暗い明日の空の上で』という作品内世界でしょ。
 更に『暗い明日の空の上で』は、ポーランド映画『47』のリメイク作品であるので、オリジナルである『47』の世界と……。
 『47』撮影中に亡くなった俳優さん達の物語と……。
 アレ? ウサちゃん一家のエピソードはどこに入るのだ。あれはカウントしなくて良いのか?

 多分、これも二回以上観ると理解できてくるのではなかろうか。三時間ある大作なのに「もう一度観よう」という気を起こさせるという点が、監督の手腕の証明にはなる。
 リピーターが続出するワケやね。

 とりあえずパンフレットにある解説を読んだので、ある程度の補完は出来たが、釈然としない部分もあるし(口に電球をくわえるという意味が判らん)、DVD化されたらリピートして観る他あるまい。劇場に通い詰めるほどのマニアではないし。
 でも三時間かあ……。

 ああもう、だんだん判らなくてもいいかという投げ遣りな気持ちになってきたヨ(爆)。

 しかしあの「怒濤のハッピーエンド・ダンスシーン」には有無を云わせぬ力がありますな。
 たとえ中盤以降の展開について行けなくても、「とにかくこれで皆ハッピーなんぢゃーいッ!」と主張する力がみなぎっている。
 有無を云わせず納得させるという強引さ。

 でも、あのラストには虚構と現実、現在と過去の人間が入り交じって登場しているので、なおさらワケ判らん。
 理解したと思っていても、何が虚構だったのか、どこまでが現実に起こった出来事で、どこまでが映画の撮影だったのか、あるいは役者の妄想だったのか。
 それともローラ・ダーンもホントは実在しない存在だったのか?

 考えれば考えるほど「もう一回観なくては」という気になるのが麻薬的ですわ。

 せめて、あのウサちゃんがホントにナオミ・ワッツだったのかどうかだけでも確認したい(笑)。

 監督の自己満足作品がエンターテイメントたり得る、という希有の例です。
 製作期間も二年半。ほぼ自主製作に近い撮影だったとか。
 自分が撮りたくなったときに俳優を呼びつけて撮影し、またしばらく充電に入る。よくそんな作り方で完成に漕ぎ着けられたものだと驚きを禁じ得ません(笑)。
 俳優の方もよくそんな気まぐれに最後まで付き合ったものだ。監督の人望というやつなのだろうか。
 リンチ自身も、作品がどうなるのかよく判っていなかったとインタビューに答えていたし。

 まさに芸術作品ですな。制作、監督、脚本、編集、音楽、デヴィッド・リンチ。
 うーむ。音楽もか。
 個人的にはリンチ作品には、アンジェロ・バダラメンティの音楽が似合うと信じているので、この作品にも付けてもらいたかったが……。スケジュールの調整の点で無理だったか(笑)。



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