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2016年6月4日土曜日

デッドプール

(Deadpool)

 マーベル・コミックスの映画化も、とうとうデッドプールを主役に据えた作品が製作されてしまいました。最初は脇役だったのに出世したなデップー。
 二〇世紀フォックスが製作するマーベル・コミックスの映画化作品でありますので、『X-MEN』シリーズのスピンオフ作品になります(そのハズですが……)。
 だから劇中にはX-MEN』シリーズでお馴染みの「恵まれし子らの学園」も描かれ、X-MENのメンバーも二人ばかり登場しております。コロサスとネガソニック・ティーンエイジ・ウォーヘッド(長いッ)の二人だけですが。
 一応、台詞の上では「プロフェッサー」にも言及されてはいるものの、サイクロプス(ジェームズ・マースデン)やウルヴァリン(ヒュー・ジャックマン)は出番なし。なんでや予算の都合か!(このツッコミは劇中にもあります)。

 『X-MEN』シリーズからスピンオフ作品が製作されるのは良いとして、ウルヴァリンの次がデッドプールであることに納得イカンです。何故、ガンビットを主役にした作品が無いのだ。ガンビットを出せ(私はガンビット推しですがナニカ?)。
 一緒に『ウルヴァリン : X-MEN ZERO』(2009年)に登場していながら、ガンビット(テイラー・キッチュ)よりもデッドプール(ライアン・レイノルズ)の方が先か。うがー。

 とは云うものの、本作のデップーは『ウルヴァリン : X-MEN ZERO』とはまるで別人です。演じているのは、ライアン・レイノルズのままなのですが、きっとまた別の時間線のハナシなのでしょう。
 『~ ZERO』では、序盤にチームXのメンバーとして登場し、華麗な二刀流で機関銃の弾もぶった斬る凄腕を披露してくれていました。あの場面のライアンは輝いていた。
 ついでにお喋りなところも描かれ、「無駄口が多い」だの「黙っていれば最高の兵士なのに」だの云われておりました(設定が「お喋りな傭兵」ですから)。
 そして『~ ZERO』のクライマックスでは、ミュータント撲滅を企むストライカー大佐(ダニー・ヒューストン)による大改造を受け、対ミュータント人間兵器ウェポンXI(イレブン)、別名ミュータント・キラーの「デッドプール」として登場し、ウルヴァリンと死闘を繰り広げてくれました。

 これがまた「不死身体質」の上に「両腕からブレード」、「テレポート能力」、果ては「目からビーム」まで出すと云う化け物っぷり。ライアン・レイノルズ頑張りましたね。
 改造手術の所為で、肌が腐ったアボガド風になると云う描写はおとなしめでしたが。
 死闘の果てにウルヴァリンに首を斬られて倒されはしましたが、エンドクレジット後に首なし死体が自分の生首を探り当てると、生首の両目がぱちりと開くというオマケ映像付で、デッドプール/ウェイド・ウィルソンは死んでないよとアピールしてくれました。
 それから七年経って遂にデッドプールが帰ってきたわけですが……。うん、まぁ、全然別人ですね。

 そもそもストライカー大佐に改造されてウルヴァリンと対決すると云う図式が本作にはありませんです。ライアン・レイノルズがウェイド・ウィルソン役であると云う点だけが同じか。他には「よく喋る」ことと「剣の腕は達人クラス」である設定もそのままか。
 しかし今回は主役になった所為で、『~ ZERO』の頃よりもよく喋るようになりました。自分でナレーションまで担当してくれます。
 そしてデップー最大の特徴である「読者に話しかける」と「メタ発言」もブチかましてくれます。本作は映画ですので、カメラ目線で観客に話しかけてきたり、撮影中のカメラのアングルを変えてしまったりする演出になりました。演劇理論で云うところの、いわゆる「第四壁を破る」と云うやつですね。
 その上、自分達が映画の登場人物であると承知した上で、俳優の名前を挙げながらギャグを飛ばしてくれます。本作はやたら映画ネタのギャグが多いです。

 先述の「予算の都合云々」の他にも、プロフェッサーについては「マカヴォイ? スチュワート? 時系列が判んないよー」などと口走ったり、「グリーンのコスチュームは絶対に着ないぞ」などと自虐的な台詞も飛び出します。そんなに『グリーン・ランタン』(2011年)は嫌だったのか(気持ちは判る)。
 他にも『127時間』(2010年)のネタバレや、『96時間』(2008年)のリーアム・ニーソンを揶揄するような台詞も飛び出します。どれも二〇世紀フォックスが配給しているから大丈夫か。
 ネガ(中略)ウォーヘッドを見て、「リプリーじゃないか。『エイリアン3』の!」とも云ったりしますが、ネタのチョイスが古くて、若い女の子には通じないのが哀しい。
 恋人同士が「ルークの背に貼り付くヨーダのように」一緒にいると云うのは……『スター・ウォーズ』はもはや古典だから説明不要かしら。
 贔屓のミュージシャンも「ワム!」ですし(ただの「ワム」ではなく「ワム!」)。

 おまけに劇中では、アニメネタも炸裂しております。
 ライアン・レイノルズが自宅で宝物にしているのが、ゲームセンターでゲットしてきた景品であるのはいいとして、それが「五体のライオン型のロボが合体する巨大ロボ」のグッズです。
 劇中では盛んに、ボルトロン、ボルトロンと連呼されておりましたが、そこはちゃんと『百獣王ゴライオン』として戴きたかった。『機甲艦隊ダイラガーXV』でもいいけど。
 まぁ、『ボルトロン』は米国ではオリジナルのシリーズにも発展しているそうですが。
 そんなアニメネタが入ってくるのは、監督の趣味なのか。それともライアン・レイノルズの趣味か。
「俺たちもライオンロボみたいに合体しようか」なんて台詞もありましたし(出来ません)。

 原作コミックスでは他にも、一人ボケツッコミとでも云うべき自問自答の癖があるのですが、本作ではその部分は控えめでしたね。
 原作では吹き出しの色を変えてまで、頭の中でボケとツッコミを繰り返すので、二重人格のようにも見受けられるのですが、本作ではそこまで病的な描写にはなりませんでした。
 もしやっていたら、きっと『ロード・オブ・ザ・リング』三部作のゴラムのように、声色を変えながらライアン・レイノルズ独演会の様相を呈していたことでしょう。

 実は私は諸般の都合により、本作を日本語吹替版で鑑賞しておりまして、ポンポン飛び出すデップーのメタ発言は吹替版の方が楽しめるような気がしました。
 本作でライアン・レイノルズの吹替を担当しているのは加瀬康之です。これも『~ ZERO』と同じですね。
 しかし加瀬康之は『アベンジャーズ』シリーズではポール・ベタニーの吹替を担当しておりますので、将来デップーが『アベンジャーズ』に出張すると、ヴィジョンとの掛け合いで吹替が加瀬康之の一人二役に……などと云うのは杞憂か。

 『アベンジャーズ』と『X-MEN』は製作会社が異なるので、いかに同じマーベル・コミックスの映画化作品と云えどクロスオーバーは出来ませんからね……と今まで思っていたのですが、本作を観ているとそうでもないかと云う気になってきました。
 実は本作の背景にはマーベル・コミックスではお馴染みのものが登場しております。クライマックスで悪党共がアジトにしている場所がそれでして、特に何の説明も無く、悪党達は廃棄された巨大な空母のスクラップを根城にしております。
 この空母、よく見ると巨大なタービンが付いていて、SHIELDの飛行母艦ヘリキャリアだと判るのですが……。
 何故、ヘリキャリアがこんなところでスクラップになっているのか。ファンであれば直ちに『キャプテン・アメリカ/ウィンター・ソルジャー』(2014年)の事件が想起されることでしょう。

 でもそれは別の会社の映画のハナシなのに、いいのか。デップーは第四の壁どころか、別会社の作品の壁も越えてしまえるのか。
 この調子だと本当にライアン・レイノルズの演じるデッドプールが『アベンジャーズ』シリーズに登場できる日が来るような気がしてきました。
 劇中ではサミュエル・L・ジャクソンのことにまで言及しておりますからね。本当に眼帯をしたサミュエル・L・ジャクソンがチラリとでも顔見せしてくれたら良かったのにィ。
 いや、そうなると今度はブラックウィドウ(スカーレット・ヨハンソン)と共演になってしまって、ちょっと気まずいかも知れません(離婚した元妻ですから)。

 さて、本作では改めてウェイド・ウィルソンは如何にしてデッドプールになったのかと云うヒーロー誕生時のエピソードが語られます。大抵の場合、それを長々と説明し始めるとドラマのテンポが悪くなって、一向に本筋が始まらないまま終わってしまう羽目になることもしばしばあります(そして失敗作の烙印を押されるのだ)。
 が、本作の場合はアクション場面の合間に、回想が挿入される形式になって、時系列が前後しますが判り易い演出になっています。
 オープニング・クレジットからして、何だかよく判らない壮絶なカーチェイス場面をスローで描きつつ、どうしてこうなった的に時間を巻き戻しながら展開していく趣向ですし。

 監督のティム・ミラーは本作が初長編作品となる方だそうですが、腕は確かなようです。
 本作以外だと、エドガー・ライト監督の『スコット・ピルグリム VS. 邪悪な元カレ軍団』(2010年)の視覚効果に名前が挙がっています。あとはCGアニメの短編作品が二本ばかり。
 その所為か、デッドプールの微妙な表情にはアニメ的な演出が伺えます(マスクの目が細くなったり見開かれたりする)。
 派手なCGエフェクトだけでなく、細かい部分にも手を入れていますね。

 それはそれとして、本筋はと云うと──
 元・特殊部隊の傭兵、今は単なるゴロツキであるウェイド・ウィルソン(ライアン・レイノルズ)にも春が来た。しかし恋人ヴァレンタイン(モリーナ・バッカリン)との幸せな生活の中、突如として末期癌を宣告され余命幾ばくも無い。
 ワラをもすがる気持ちで怪しげな治療に応じてみると、それは人間のミュータント因子を活性化させた上で、仕立てた超人を兵器として転売しようとする悪党達の陰謀だった。
 活性化したミュータント因子のお陰で不死身体質を獲得し、癌が完治したのは良いが、皮膚はただれて腐ったアボガド状態。こんな醜い面相では恋人のところには戻れない。
 自分をこんな目に遭わせた悪党を捕まえ、何としても顔を元に戻させねばならない。
 ──と云う事情が、壮絶アクションの合間に語られていく趣向です。

 ここでライアン・レイノルズに改造手術を施すのが、エド・スクライン演じる武装組織のボスです。自身もまたミュータント因子が活性化しており、絶大な身体能力の上に痛みを感じない特異体質を獲得しております。
 特にストライカー大佐やウェポンX計画などとは関係ないように描かれておりました。ウルヴァリンの存在も語られなかったし、見方によっては「デッドプールは自力で不死身体質になった」と云えなくもないです。
 きっと怪しげな注射の成分がウルヴァリン由来のものだったのでしょう(多分)。

 名前の由来も、原作コミックスとはシチュエーションが異なりますが判り易く説明されていました。荒くれ共が集う行きつけのバーの店主と常連客が、「次に誰が死ぬか」で不謹慎な賭けをしている。バーの店主は親友のくせに自分が死ぬことに賭けていて、それを元に「死の賭け(デッドプール)」と名乗るようになる。
 この店主を演じているのはコメディアンのT・J・ミラー。とぼけた表情で親友にも容赦の無い毒舌を吐きまくっています。如何に親友とはいえ、面と向かって「『エルム街の悪夢』のフレディみたいだ」とはなかなか云えませんですね。

 そして「死んだと思われているならマスクで正体を隠せ」との親友のアドバイスに従い、次第にデッドプールのスタイルが確立されていきます。真紅のコスチュームを選んだ真相が、クリーニング代を節約したいからと云うのが切ない。
 そんなおちゃらけた雰囲気を漂わせているデップーですが、醜い素顔で恋人の元に戻ることが出来ないというナーバスな一面も垣間見せてくれるのが興味深い。
 ギャグ一辺倒ではなく、シリアスな場面も挟みながら緩急つける演出が巧いです。本人も云うとおり、「これは愛の物語」でもありますので(ついでにR15+でもありますが)。

 色々あって、悪党共の本拠地を突き止め、X-MENにも加勢を頼み、アジトに(タクシーで)乗り込んでいくデップー達ですが、クライマックスでも笑いを取ることは止められません。
 皆がやりたがる(でも膝には悪い)「スーパーヒーロー着地」もネタにされておりました。あれはやはり日本のアニメが起源なんですかね。『攻殻機動隊』かしら。
 洋画では『マトリックス』(1999年)や『エンジェル ウォーズ』(2011年)でもやってますし、アイアンマンの決めポーズとして有名ですね。最近じゃ、スーパーマンもやってるし。

 死闘の末、武装組織を壊滅させるものの、元の姿に戻ることは出来ないと知らされ、絶望するデッドプールですが、愛は外見的な美醜には左右されたりしないのだという展開に、ちょっと感動的なものも覚えます。デップーのくせに。
 ワム!の「ケアレス・ウィスパー」が流れる実にロマンチックなエンディングでありました。
 しかしそこで終わらず、ちゃんとマーベル映画恒例、エンドクレジット後のオマケ映像も忘れません。

 カメラ目線で「あれ、まだいたの。もう終わったよ」などと『フェリスはある朝突然に』(1986年)のマシュー・ブロデリックばりに語りかけてくるデップー。
 『デッドプール2』の予告は無いと云いながらも、次はケーブルも登場するとバラしてくれます(信じるからな)。しかしケーブル役はメル・ギブソンかドルフ・ラングレンあたりと云うところ、やっぱりネタのチョイスが古いわ。
 そうそう、恒例と云えばもう一つ。スタン・リー御大のカメオ出演も健在でした。
 本作では恋人ヴァレンタインが勤めるクラブのDJ役。ケバい照明の店内でノリノリで音楽をかけていました。いつにも増して楽しそうなスタン・リー御大のお姿でしたね。




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