有望な新人選手獲得を目指す各チームのGM(ゼネラルマネージャー)が互いに虚々実々の駆け引きを行う心理戦が見どころのストーリーです。こういうのはアメフトでも野球でもあまり変わらないように見受けられます。
ただ、本作で描かれるのはNFL(ナショナル・フットボール・リーグ)というアメリカ最上位のプロフットボールリーグです。NFLのドラフト会議には色々とルールがあり、それが駆け引きを面白くする要素となっています。
このあたり、日本人には馴染みが薄いと思われたのか、本編上映前にわざわざ解説が付けられておりました。大まかに三つのルールがあるそうな。
一つ目は、指名は順番に行われること。前シーズンの成績下位球団から順番に選手を指名する完全ウェーバー方式。また、同時に複数球団が一人の選手を指名することは出来ない。したがって、欲しい選手を他の球団に先に指名されてしまったら獲得できないことになる。
二つ目は、指名権は球団間でトレード出来ること。他の球団も狙っている目当ての選手を獲得するには、相手球団よりも先に指名してしまえばいい。そこで指名順位が相手球団よりも上位の球団と交渉して、順番を交換することが出来る。但し、交渉によっては足下を見られて大損することもある。
三つ目は、指名は制限時間一〇分であること。その制限時間内に指名選手の名前を発表すればいいのだが、この一〇分の間でもトレード交渉は可能である。但し、制限時間内に指名を発表できないと、順番はとばされてしまう。
かくして全三二球団が七巡するまで、ドラフト会議は続けられるのだそうな。七巡し終えるまで三日間かかるそうですが、スター選手は最初の一巡目でほぼ指名されてしまうので開催直後が一番熱い展開になると云うのはよく判ります。
本作では、このドラフト会議の初日の様子が描かれます。もう何でもお祭り騒ぎにしてしまうアメリカらしいと云うか、完全にショーアップされた会場の様子が実にきらびやかです。
アカデミー賞の授賞式典のようなドラフト会議でした。日本ではお目にかかれないイベントですね。日本のドラフト会議も見倣えば楽しくなるのに。
アイヴァン・ライトマン監督と云うと、いまだに私は『ゴーストバスターズ』(1984年)の監督ねと云ってしまうのですが、近年は製作に回ることが多くてあまり監督作品にはお目にかかれませんです(既に息子のジェイソン・ライトマンも映画監督ですし)。
一番最近の監督作品はアシュトン・カッチャーとナタリー・ポートマン主演の『抱きたいカンケイ』(2011年)か。その前はユマ・サーマン主演の『Gガール/破壊的な彼女』(2006年)。やはり御自身が監督するとコメディが主体になってしまうのでしょうか。
でも珍しく本作ではコメディ要素はほとんどなく、男同士の熱い駆け引きがスリリングに描かれる作品になりました。ある種のミステリ映画のようでもあります。
本作の主演はケヴィン・コスナーです。実在する〈クリーブランド・ブラウンズ〉のGM役です。
『マン・オブ・スティール』(2013年)ではクラーク・ケントの父親役として存在感を放っておりました。『エージェント : ライアン』(2014年)、『ラストミッション』(同年)ではスパイ役が続きましたが、今度はがらりと変わってビジネスマンの役です。非常なエージェント役よりもこちらの方が似合っていますかね。
ゼネラルマネージャーが主役の映画と云うと、近年ではブラッド・ピット主演の『マネーボール』(2011年)が思い出されます。あっちは野球でしたが、こっちはアメフト。
しかしGMの仕事は変わらないようで、チームの編成や方針の決定、選手のトレード等に権限を持つ重要な役職として描かれております。日本ではあまり馴染みのない役職で、チームの監督の方が重要視されていますが、本作を観ると監督は単なる中間管理職であり、GMこそがチームの行く末を左右しているのだと描かれております。
でも、チームのオーナーには頭が上がらない。だからGMは、現場を理解しないオーナーと、云うことを聞かない監督の突き上げに挟まれて難儀する役職であるとも描かれています。
GMと監督の意見が対立するのは『マネーボール』と同じような構図ですね。
ケヴィンの恋人役がジェニファー・ガーナー、球団オーナー役がフランク・ランジェラ、監督役はデニス・リアリーといった面々。出番は少ないながら、ケヴィンの母親役がエレン・バースティン、ケヴィンの元妻役にロザンナ・アークエットが登場しておりました。
つい最近も、ジェニファー・ガーナーは『ダラス・バイヤーズクラブ』(2013年)で、フランク・ランジェラは『グレース・オブ・モナコ/公妃の切り札』(同年)でお見かけしております。エレン・バースティンも『インターステラー』(同年)に出演しておられましたね。
デニス・リアリーはどこかで見た顔だと思っておりましたが、『アメイジング・スパイダーマン』のシリーズでステイシー警部の役だった方か。
指名を受ける側の新人選手役の中に、チャドウィック・ボーズマンがいました。『42 世界を変えた男』(2013年)で、黒人初のメジャーリーガー、ジャッキー・ロビンソンを演じていましたね。
大した出番はありませぬが、ライバル球団〈カンザスシティ・チーフス〉のGMとして、『CSI : 科学捜査班』のウォレス・ランガムもおりました。ホッジス、何やってんの。
元アメフト選手で俳優に転身したテリー・クルーズも出演しております。
テリー・クルーズは俳優として役名と台詞がありましたが、本作には「本人役」としてNFLの関係者もズラズラ登場しております。エンドクレジットを見ていると、配役のところで「As Himself」と表示される人がなんと多いことか。ちょっと笑ってしまいました。
ドラフト会議の開催を宣言するNFLのコミッショナーは御本人です。他、実名の選手とか、スポーツ関係のニュースキャスターも皆さん御本人役だそうな。知っている人が見るとかなりリアルなドラマになっているのでしょうか。
なんかもうNFL全面協力の下に製作されたという感じがしますが、その分、NFLを美化しすぎだとの批判もあるそうな。私はアメフトには門外漢なのでよく判りませんデス。
華やかなドラフト会議にスポットを当てておりますが、業界の裏には色々とあるのでしょう。
さて、本作では題名のとおり、ドラフト会議の日が描かれております。まずは会場設営が進むニューヨークからのレポートに始まり、開催まであと一二時間であると報じられます。既に会場周辺には熱心なファンやサポーターが集結しているらしい。画面上にもタイマーが表示され、時々刻々とゼロアワーに向かってカウントダウンが進行していきます。
クリーブランドではケヴィン・コスナーが朝の出勤支度をしております。本作はそのまま、この「運命の日」の出来事をケヴィン視点で追いかけていく趣向になっています。朝に始まり、たった半日の出来事ですが、多くの人の人生が決まる一日だと思うと緊張します。
実はケヴィンはプライベートでも問題を抱えております。自分は〈クリーブランド・ブラウンズ〉のGMだが、つい最近まで自分の父がチームの監督を務めていたこと、その父が先日他界したこと、離婚してバツイチであるが新しい恋人が妊娠したこと等々。その上、実は父を解任したのは自分であり、新しい監督とはイマイチそりが合わないことなども追い打ちを掛けています。
自分が責任を持つチームの来シーズンの成績がこの日の出来事に掛かっているというのに、ドラフト指名だけに集中できない。
公私にわたって煮詰まる男は、大勝負の一日を乗り切ることが出来るのか。
もう朝からケヴィンのケータイには電話が掛かりまくり。その所為で恋人の妊娠告知にもうまく対応出来ず、朝から機嫌を損ねてしまう。仕事に追われまくっております。
オーナーからは話題作りに有名選手を獲得しろと迫られ、監督からは自分もドラフト指名選手の選考に参加させてくれと要求されている。黙ってGMに全てを任せると云う人は誰もいないようです。
おまけに選手の側からの売り込みも激しい。もうドラフト会議当日になっているのに、まだ最後の希望を託して「自分を指名して下さい」とアピールしてくる者もいる。
あるいは、かつてチームに在籍していた選手がコネを頼って「自分の息子を指名してくれないか」と頼み込んでくる。
本作は電話によるディスカッションが劇中でのかなりの部分を占めております。そりゃ、ライバル球団のGMはそれぞれの根拠地にいるわけなので、ドラフト指名権のトレード交渉は電話による他はない。必然的にケヴィン・コスナーはほぼ全編、誰かに電話しまくり状態です。
通常、ある人物が電話すると、画面が分割され、自分と通話相手が画面の左右にアップになるのが定番演出ですが、本作ではあまりに多い通話シーンの為に画面の分割もちょっとヒネった演出になっています。
画面の分割線がダイナミックに動き回り、通話している相手も分割線を越えてケヴィン・コスナーと重なったり、またケヴィンの方でも分割線を越えて通話相手の前を横切ったりしております。まるで漫画のキャラクターがコマ割を無視して動き始めたような感じです。
その所為で遠く離れた場所にいる通話相手が、すぐ目の前にいて会話しているような錯覚を覚えたりします。これはなかなか楽しい演出でした。
また、ケヴィン・コスナーが他球団のGMに電話すると、まず相手球団の所在地とそのスタジアムが映り、大きく地名とチーム名がスクリーン上にドーンと表示されるのも、コミック的な演出でした。
全米各地の都市と、そのスタジアムが大きくアピールされるので、NFLファンには堪らないのでしょう。どこにどんなチームがあるのか門外漢の私にはサッパリですが、それなりに有名な都市の名前と、その街を代表するスタジアムが次々に紹介されるので、ある種の観光カタログを見ているような気分になれます。
色々と駆け引きやら交渉が続く本作ですが、基本的な主題はひとつです。
その年のドラフト会議で、どの球団も欲しがる花形選手がいる。大学リーグでハイズマン賞を獲得した(最優秀選手と云うことらしい)若者で、オーナーからもその選手を獲得しろと厳命されてもいる。
だが果たしてその選手は本当に有望なのか。他に獲得すべき選手がいるのではないか。
ケヴィンの〈クリーブランド・ブラウンズ〉は指名順では七位。順位を守っていては他球団に先に指名されてしまう。上位の球団からはかなり不利な取引条件で「順位をトレードしてもいい」と持ちかけられている。
この申し出に飛びつくべきか否か。ドラフト会議開催まで猶予はほとんどない。
ある種のミステリ映画を観ているようでもあります。その選手には一見、何の問題もないように見えるが、本当にそうなのか。大学在籍中の公式な記録にも汚点はひとつもない。
しかし状況証拠を積み重ね、幾つかの証言を元に推理を重ねていくと、見えていなかったものが見えてくると云うのが興味深い。ちょっと『十二人の怒れる男たち』(1954年)を彷彿するところもあります。
また本作では、ドラフト会議の三番目のルール「指名制限時間内でも交渉は可能」が効果を挙げていて、一〇分間の間でも他球団とのギリギリの交渉が続けられていたりして、手に汗握る展開となっています。
まぁ、のるかそるかの大勝負にケヴィン・コスナーが負けるはずないでしょと云われてしまえばそのとおりなのですが。かなり不利な条件を飲まされ、チームの来シーズンどころか自分が解雇される寸前まで追い詰められた男の一発大逆転劇としては痛快でした。
あまりシリアスにならずライトな感覚で楽しめるドラマでしょう。
でも「これだからGMは辞められん」てのはホントですかね。ストレスで胃が幾つあっても足りないように見受けられましたが(笑)。
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