2011年8月1日月曜日

復讐捜査線

(Edge of Darkness)

 その昔(1985年)、NHKで放送された海外ドラマ『刑事ロニー・クレイブン』(全六話)は実に忘れがたいドラマでした。渋い上に骨太なドラマで、単なる刑事ものと思って観始め、その異様な展開に唖然としたことを今でも思い出します。
 そのドラマが四半世紀の時を経て、マーテイン・キャンベル監督本人の手によりセルフ・リメイク。これはもう期待するなという方が無理。
 キャンベル監督と云えば、『マスク・オブ・ゾロ』だとか『007/カジノロワイヤル』の監督だと云った方が通りがいいくらい出世しましたねえ。

 あー。でも主演がメル・ギブソンだと知ったあたりから、何やらイヤな予感が漂い始め……。
 しかも邦題が『復讐捜査線』。
 なんですか、そのチャック・ノリスの映画の如き題名はッ。
 まぁ、最初から “Edge of Darkness” を『刑事ロニー・クレイブン』にしてしまうくらいだから、大差ないと云えなくも無いか。
 題名がどうあれ、中身さえ同じなら文句は云うまい。でもメルギブだしなあ……。

 結果、非常に残念な出来になってしまいました。かつてのTV版の雰囲気を期待していたファンは──そんなに沢山はいないでしょうけど──ガッカリでしょう。
 逆に、久しぶりのメルギブ主演映画で、タフな一匹狼刑事の活躍を期待していた方は……こちらもビミョーかなあ。
 どちらの期待にも半ば応え、半ば裏切るような出来映えですからな。どっちつかずと云うか、中途半端。

 かつてのTV版では、クレイブン刑事役はボブ・ペック。『ジュラシック・パーク』でヴェロキラプトルにやられちゃう恐竜監視員だった、あの人です。もはやお亡くなりになられていたとは残念。御存命ならもう一度、クレイブン刑事を演じていただきたかった。
 神経質そうな痩せ型の刑事だったクレイブンが、タフでマッチョになっちゃったよう(泣)。

 とは云え、55歳のメルギブの老け具合には意表を突かれました。最近、スクリーンでお見かけしませんでしたからねえ。『サイン』(2002年)以来か。
 あのメルギブが、もはや初老の刑事か。これはこれで意外な配役と云えなくも無い。
 舞台をイギリスからアメリカに変更し、名前もロナルド(ロニー)・クレイブンから、トーマス(トム)・クレイブンに変更した時点で、もう別人か。

 加えて、全六話のシリーズを二時間弱の尺に縮めるという荒技も駆使せねばならぬので、相当に展開が早い。TV版の印象が薄れてしまうのは、やむを得ぬか。オリジナルの脚本はトロイ・ケネディ・マーティンですが、本作の完成を待つことなく他界されていますね。完成品を観なくて済んで良かったのか……。
 代わって『ディパーテッド』のウィリアム・モナハンが脚本に参加しています。

 ボストン在住のクレイブン刑事は、妻に先立たれた独身刑事である。そこに久しぶりに一人娘エマが帰省する。何やら様子のおかしい娘は何かを打ち明けようとしていた。ところが帰宅早々、玄関先でエマは射殺されてしまう。
 当初、刑事である自分を狙った犯行の巻き添えになったと思われた事件であったが、エマの遺品を整理するうちに、拳銃やらガイガーカウンタやらを発見して驚くクレイブン。
 標的は本当に自分だったのか。それとも最初から娘が狙われていたのか。
 単独で調査を開始するクレイブン。去来する追憶に苦しみつつも、次々に明らかになっていく事実。

 エマの就職先であるノースモア社の怪しい事業。政府から委託されて核物質を保管していると云うが、果たしてそれだけなのか。
 過激な環境保護団体ナイトフラワーが暴こうとしている、ノースモア社の秘密とは何か。
 実はノースモア社は保管する核物質から核兵器を密造していたのである。しかもそれは上院議員まで絡んだ陰謀だった。
 エマはその事実を内部告発しようとして謀殺されたのだった。果たしてクレイブン刑事は陰謀を暴き、娘の仇を討てるのか。

 うーむ。展開が早い。TV版のじわじわと忍び寄ってくるような恐怖がバッサリである。仕方ないとは云え、TV版から相当カットされています。
 登場人物の設定も色々変更されていますが、変更著しいのはジェドバーグ。
 クレイブンに接近してくる謎の男ジェドバーグは、TV版ではCIAのエージェントでした。イギリスが舞台の物語にCIAが絡んでくるから謎めいてくるのに、舞台をアメリカにした為、よく判らないキャラになってしまった。
 本作ではレイ・ウィンストンがジェドバーグ役で頑張っているのですが……。

 物語も、前半はまだオリジナルに忠実ですが、後半はもう省略が激しい。
 クレイブンとジェドバーグが、ノースモア社の核物質貯蔵庫である廃鉱に侵入し、企みの全貌を目の当たりにする場面が……無い。
 だから廃鉱の中を逃げ回る緊迫した場面も……無い。
 従ってジェドバーグが、ナマのプルトニウム塊を持ち逃げすることも……無い。
 当然、あの凄まじいクライマッマス──狂気に冒され、核開発企業が集まる会議に乱入したジェドバーグが、左右の素手に持つ二個のプルトニウム塊を「これが臨界だァッ」と叫んで打ち合わす──場面も……無い。
 ここがTV版の白眉とも云える場面なのにッ!

 TV版の暗ぁい陰鬱な、やりきれなさが映画には不足している。
 その代わりに、ものすごーく判りやすい銃撃戦が入ります。そりゃメルギブだもの。
 悪党共は問答無用で射殺っスよ。
 刑事だけど悪党を逮捕するなんて、一切考えない。まさに『復讐捜査線』なのです。ああ、その意味では邦題は正しいワケですね。
 こんな物語では無かった筈なのになぁ。

 悪党退治だとか、仇討ちとかよりも、救いのない世の中──政府が隠そうと決めたら、一般市民がどんなにあがこうが隠蔽されてしまうのだ──に絶望するクレイブンの図というのが無い。ジェドバーグは勿論、クレイブンも被曝して余命幾ばくもないという救いのないエンディングだったのに。
 それでも悪党共にも致死量の放射線を浴びせてやったぜ。自分も死ぬけど奴らも長くは保つまい。「存在しないプルトニウム」による被曝なのだから、あからさまに放射線障害の治療も出来ないだろう。自業自得だ──という、僅かに溜飲の下がる展開が印象的だったのに。

 銃に頼りすぎた安直な結末と云わざるを得ません。少なくとも私の観たかった物語はコレジャナ~イッ(泣)。
 他にも、人間が地球環境を破壊するだとか、保全できるだとか云う考えこそが傲慢なのだという主張も無い。アフガニスタン山岳地帯に咲くという「黒い花」のエピソードが……まるごと消えてしまっている。うーむ。

 ところで、東日本大震災によって映画公開にも、ワケ判らん自粛が横行しましたが、この映画はスルーなんですね。
 放射性物質に内部被曝して死相の出ているメルギブの演技は、ヤバくないのですかねえ。『復讐捜査線』だからいいのか。



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