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2014年6月1日日曜日

X-MEN : フューチャー&パスト

(X-Men : Days of Future Past)

 マーベル・コミックスの映画化作品の中でも長く続いている『X-MEN』シリーズも、本作で通算七作目です。ヒュー・ジャックマンも皆勤賞ですね。
 正史たる三部作後は、スピンオフや、前日譚が続いておりましたので、ちょっとバラバラな印象も否めませんでしたが、本作に至って前六作を全部統合しようという荒技を繰り出してきました。実にアクロバットな試みですが、これが見事に成功し、何もかも辻褄を合わせ、矛盾するところは「別の時間線のハナシ」と云うことで処理されました。

 この脚本を書いたのはサイモン・キンバーグ。『X-MEN : ファイナル ディシジョン』(2006年)でもシリーズに関わっております。
 そして、ブライアン・シンガー監督が本シリーズに戻ってきて、『X-MEN : ファースト・ジェネレーション』(2011年)のマシュー・ボーン監督が制作に回っております。新旧世代の『X-MEN』を描いた監督がそろっているので、どちらの側の設定も蔑ろにされることなく巧く咬み合っていたのが素晴らしいデス。
 本作では過去と未来の世界が交錯するストーリーになっており、同じ人物の青年期と老年期を、今までのシリーズに出演した俳優がちゃんと演じるので、実に豪華な顔合わせです。
 もはや、この『X-MEN』だけで、ひとり『アベンジャーズ』状態。

 プロフェッサーX役に、パトリック・スチュワート(老)とジェームズ・マカヴォイ(若)。
 マグニートー役に、イアン・マッケラン(老)とマイケル・ファスベンダー(若)。
 そして過去と未来をウルヴァリン役のヒュー・ジャックマンがつなぐと云うわけで、不老不死なので外見が変わらず便利です。アダマンチウム製の爪は、前作『ウルヴァリン : SAMURAI』(2013年)でシルバーサムライにへし折られたままなので、再び改造前の自前の骨が飛びだす仕様になっています。
 七〇年代にタイムトラベルした後は、やっぱり改造前の肉体なので、爪は自前のまま。

 ウルヴァリンを改造したストライカー大佐も、ブライアン・コックス(老)とジョシュ・ヘルマン(若)の二人一役で登場しております。本作ではストライカー大佐(七〇年代当時では少佐)が、何故ウルヴァリンに目を付けたのかとか、色々と辻褄が合うような理屈を匂わせているのが巧いですね。
 したがいまして、本作ではウルヴァリンがアダマンチウムの爪でスパスパ斬りまくる描写だけはないので、そこがちょっと残念ではあります。
 それにしてもストライカーさんの若い頃が結構なイケメンであったのがビックリです。

 その他の登場人物も豪華です。
 未来側では、ストーム役のハル・ベリーが久々に活躍しております。キティ役のエレン・ペイジも、ひょいひょい物質透過していて、説明がありませんので『ファイナル デシジョン』を観ていないと判りづらいでしょうが、よもや本作だけ観る方もあまりおられますまい。
 アイスマン(ショーン・アシュモア)や、コロッサス(ダニエル・クドモア)も変わらずです。
 初登場のミュータントとして、空間をねじ曲げるブリンク役で、ファン・ビンビンが出演しておりますが、この能力の描写がなかなか面白くてSFマインドを感じました。他にも本作で初登場となるミュータントが多数おりましたが、総じて戦闘シーンでの能力紹介くらいなのが残念。

 そし過去側では、ミスティーク役のジェニファー・ローレンスも再び出演しておられます。『アメリカン・ハッスル』(2013年)公開時に、長期休業に入ると報じられておりましたが、まだ休みを取っていないのかしら。頑張ってますねえ。
 ビースト役のニコラス・ホルトも健在です。
 過去側の新キャラとして、クイックシルバー役でエヴァン・ピーターズが登場しており、超高速で走り回る能力を披露しております。このクイックシルバーの見せ場も、本作ハイライトシーンのひとつでしょう。

 あれ。でも原作コミックスでは、クイックシルバーはマグニートーの息子の筈ですが、本作ではその設定はスルーされたようです。双子のお姉さんもいる筈なのに。
 本作ではマイケル・ファスベンダーはまだ独身設定ですからね(実は密かに子供を作っていたのか)。
 ただ、先日の『キャプテン・アメリカ/ウィンターソルジャー』(2014年)ではエンドクレジット後のオマケとして、次回作への布石が打たれ、クイックシルバーとスカーレット・ウィッチがチラリと登場していておりましたが、本作とは時代と年齢が合わないのでは。
 さすがに同じマーベル・コミックスの映画化作品でも、異なる制作会社間での辻褄合わせまでは無理か(ディズニー・スタジオと二〇世紀フォックスですしね)。
 将来的に、二社が協同でクロスオーバー作品を制作してくれないものか。

 主なストーリーが七〇年代で進行するので、最初の『X-MEN』(2000年)で登場したトードが、まだ若くてベトナムに従軍したりしておりました。ハヴォックもいたね。
 でもトードは、まだレイ・パークの華麗な身のこなしを習得していなかったようで、舌が伸びるところだけ。出来ればトードの華麗な棒術も見たかったです。

 さて、まずは未来においてX-MEN達は絶望的な戦いを繰り広げております。ウルヴァリンが日本で私用を片付けている間に、いつの間にやら大変なことが起こっていたようです。
 どの程度、時間が経過しているのか定かではありませぬが、『ウルヴァリン : SAMURAI』から更に数年は経過しているようです(少なくともプロフェッサーの車イスが磁力で浮遊できる程度になるくらいは未来らしい)。
 ミュータント殲滅をプログラムされた自律ロボット「センチネル」の大軍団が地上を席巻しております。当初はミュータントだけを標的にしていたのに、ある時点で「ミュータントを生み出す人類」もまた抹殺対象に認識されたと説明されます。
 都市は廃墟と化し、荒廃した世界で、圧倒的なロボット軍団に人類が細々と抵抗を続けていると云う、何やら『ターミネーター』(1984年)もどきの暗黒未来。

 設定が『ターミネーター』なので、解決策もまた『ターミネーター』方式です。即ち、過去に戻ってセンチネル計画そのものを止めさせようと云う趣向。
 但し、本作でのタイムトラベルは精神だけを時間遡行させる方式です。だが、何十年も前の肉体に精神が憑依して無事でいられるものはいない。只一人、不老不死のウルヴァリンを除いては(再生能力は精神の損傷まで復元するらしい)。
 と云う訳で、ウルヴァリンがセンチネル計画の発案者の行動を阻止するべく、七〇年代に送り込まれるのですが、時を同じくしてX-MEN達の潜伏場所もセンチネル軍団に察知され、仲間達が必死に時間を稼ぐ中、猶予はほとんど無い。

 ここで、X-MEN達がアジトにしているのが、中国辺境のどこぞの寺院であると描写されます。寒風吹きすさぶ高山にある寺院なので、チベットかどこかでしょうか。
 まぁ、センチネルの監視を逃れて潜伏しているので、秘境ぽい場所ならどこでもいいのでしょうが、何となく言外にハリウッドが中国市場に配慮しているような気配を感じました。
 だってチベットぽいのに、堂々と「中国」と字幕で表示しますからね。そこ、ホントに中国なんですか。

 七〇年代に戻ると、TVで『宇宙大作戦』を放映していると云う、楽屋落ちの場面があります。これが元ネタだと判るのはSF者だけでしょう。ウィリアム・シャトナーが若いです(笑)。
 センチネル計画の発案者トラスク博士役で、ピーター・ディンクレイジが出演しておりました。小人症の俳優なので、よくファンタジー映画に出ていたりしますが、ケイト・ハドソン主演の『私だけのハッピー・エンディング』(2011年)なんかでもお見かけしました。でもやっぱり有名なのはTVシリーズ『ゲーム・オブ・スローンズ』のティリオン・ラニスター役でしょう。

 このトラスク博士をミスティークが暗殺したのが歴史の転回点だったと云う訳で、ウルヴァリンは七〇年代の若きプロフェッサーXやマグニートー達と協力し、ミスティークの凶行を止めさせようとします。
 あの人格者プロフェッサーXも、七〇年代はやさぐれていたと云う描写が笑いを誘っております。六〇年代はあれほどX-MENのチーム結成に燃えていたというのに、キューバ危機の後でマグニートやミスティークに去られてしまい、抜け殻になってしまったようです。
 私邸をミュータント達の施設として解放していたのに、それも閉鎖して引き籠もり状態。只一人、ビースト(ニコラス・ホルト)がかいがいしく世話を焼いております。なんかBL臭が漂ってますよ。

 やさぐれたプロフェッサーに活を入れつつ、再度マグニートーとの和解も促し、未来に於ける破局を回避させようと、柄にもなく頑張るウルヴァリンです。
 結局、ミスティークを廻る三角関係を清算せねばならないのですが、ミスティークの方はもはやどちらの男の元にも戻らない。自立した女性として我が道を歩み始めているわけで、野郎共が二人そろってフラレている図はなかなかに切ないものがあります。
 それどころか、ビーストの初恋までも破れてしまって、大の男が三人もそろって情けない。既に悪女ミスティークの生き方が確立されているようです。

 まぁ、ミスティークの考えも判らないではないです。何しろ、トラスク博士という奴は捕らえたミュータントの人権なんぞ歯牙にも掛けずに解剖したり生体実験したりして、センチネルを開発しているわけで、暗殺されても文句は云えない人です。
 ところが、逆に暗殺してしまったことで、博士の研究が政府の目に止まり、博士の死後もセンチネル計画は継続されて、半世紀後には世界が滅亡の瀬戸際にまで追い詰められる事態になっている。
 何とか博士を殺さずに、センチネル計画自体を断念させる方向に持っていかねばならない。

 同胞の復讐に燃えるミスティークを阻止し、その上で人類とミュータントの共存を確立せねばならない。しかし、マグニートーはプロフェッサーへの協力を装いながら、ミスティークとはまた別のやり方で、ミュータントへの迫害を止めさせようと企んでいたりします。
 時代を超えて登場する巨大ロボット、センチネルのデザインがなかなか面白いです。七〇年代の無骨なメカと、二一世紀の洗練されたデザインの対比が効いています。
 クライマックスでは、世紀を超えて過去と未来で、センチネル軍団との対決が同時進行していく演出になっていて、派手な映像で盛り上げてくれます。タイムトラベルの理屈からすれば、ウルヴァリンが過去に戻った時点で勝敗は決した筈なのですが、それではツマランですからね。

 人は自分と異なるものを怖れる。差別と迫害は、無知から来る恐怖によるものである、と云う『X-MEN』の基本的なテーマが再び描かれ、ニクソン大統領の前でギリギリの決断を迫られたミスティークの行為が歴史を決します。一人の行いがガラリと未来を変えてしまう描写がいいですね。
 しかしマグニートーも、ミスティークも、プロフェッサーと同じ道を歩むことを潔しとせず、再び袂を分かつことになる。いずれまた仲間になる日が来るのか。
 かくして、クライマックスではいいとこなしだったウルヴァリンが目覚めてみると(見せ場は全部、プロフェッサーとマグニートーとミスティークに持って行かれましたからね)、改変された歴史の流れの中にいるわけで、これがまたどこでどうしてこうなったのか、八方丸く収まるハッピーな時間線の中におります。
 ジーン(ファムケ・ヤンセン)も、サイクロプス(ジェームズ・マーズデン)も変わりないとは素晴らしすぎる。

 さて、こうなるとウルヴァリンの爪はどう処理されるのか気になるところですが、次回までには何とか解決できているでしょう。ストライカー大佐まで改心したとは思えませんし。
 大団円を迎えて、そのまま終わってしまってもいいのですが、やはりエンドクレジット後には次回作への布石が打たれております。大昔のエジプトらしい砂漠で、ピラミッドを建設する謎のミュータントの登場。
 次は『X-MEN : アポカリプス』の映画化かあ。楽しみデスねえ。
 今度は八〇年代メインのX-MEN達のストーリーになるそうで、今度こそプロフェッサーの頭髪量がどこでゼロになるのか、明かされるのでしょうか(そこだけは今回も不明でしたしね)。




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