昔、『ポンペイ最後の日』(1935年)と云うモノクロ映画がありましたが、本作はそのリメイク……と云う訳ではないようです。
ロマン・ポランスキー監督の傑作サスペンス映画『ゴーストライター』(2010年)の原作者ロバート・ハリスによる歴史小説『ポンペイの四日間』が原作……と云う訳でもないのか。随分と以前に『ポンペイの四日間』が映画化されると聞いた憶えがあったのですが、立ち消えになってしまったのでしょうか。
本作はポール・W・S・アンダーソン監督オリジナルの「ポンペイ最後の日」のようです。
まぁ、リメイクだろうとオリジナルだろうと、原作付だろうと無かろうと、ローマ帝国時代のポンペイを舞台にしたストーリーは、様々な人間模様を描きつつも、最後はヴェスビオ火山が大噴火して、すべてをウヤムヤの内に消し去ってしまうと云う大筋になってしまうのは同じでしょう。
何と云いましてもポンペイとは、火山噴火による火砕流で一昼夜にして滅亡した悲劇の都市ですからね。ユネスコの世界遺産にも登録されておりますし。
いや、「ポンペイ」と銘打ちながら、火山を噴火させないわけにはイカンでしょう。噴火しないのは詐欺です。
本作では最新のCG特撮で、巨大火山の大噴火とその後の大災害の様子がこれでもかと描写されておりまして、その意味では期待どおりの出来映えです。大自然の怒りの前には、人間の営みとは些細なものでありますので、何となく人間ドラマの方が定番のお約束展開すぎて先が読めてしまうのは御愛敬でしょう。
クライマックスのスペクタクル描写を前に、難解な人間ドラマを持ってこられても困りますし。
非常に単純な、「剣闘士とお嬢様の身分違いの恋」をアクション満載で描こうという竹を割ったようなストーリーであるのが清々しいです。難しい事なんて一切、考えないで済みます。
しかし、ポール・W・S・アンダーソン監督と云えば、自分の嫁さん──別名ミラ・ジョヴォヴィッチ(以下、ミラ姐さん)──を主演にした『バイオハザード』シリーズはどうしたのか。まだ完結編が残っていた筈ですが。
どうも『バイオハザードIV/アフターライフ』(2010年)のあとに『三銃士/首飾りとダ・ヴィンチの飛行船』(2011年)を撮ったように、『バイオハザードV/リトリビューション』(2012年)のあとには本作と、『バイオハザード』と歴史劇が交互に来るパターンが確立されているように見受けられます。その合間に『デス・レース』シリーズの制作もしているようですが。
早いところ『バイオハザード』の完結編を撮ってくれませんかねえ。待ってますから。
ところで『三銃士』の方には、ミラ姐さんが出演しておりましたが、本作には出演していないのですね。見たところ、ヒロインの母親役あたりなんかがミラ姐さん的なポジションとして用意できそうでしたが、本作ではキャリー=アン・モスが配役されておりました。お久しぶりです。
本作のキャリー=アン・モスはごく普通のローマ市民で、豪商の奥方と云う役です。前作『サイレントヒル : リベレーション』(2012年)での狂気の教母にして、ラストでクリーチャーに変身するなんぞと云うトンデモな役ではなく、いたって普通。自分の娘の婚姻に気を揉む母親の役。
だからミラ姐さんは配役されていないのか。もし、この母親役がミラ姐さんだったなら、お母様が直々に剣闘士共をバッタバッタと薙ぎ倒しそうですからね(笑)。
ともあれ、本作の主演はキット・ハリントンとエミリー・ブラウニングです。
キットは今回、ケルト民族の血を引く凄腕の剣闘士マイロ役ですが、彼もまた『サイレントヒル : リベレーション』に出演しておりましたね。しかもキャリー=アン・モスの息子の役で。なんか繋がりがあるんでしょうか。
エミリーが豪商の娘カッシア役で、『エンジェル ウォーズ』(2011年)以来、あまりお見かけしておりませんでした。今回はアクション抜きの、フツーのお嬢様役です。剣闘士キットと恋に落ちながら、いけ好かないローマの元老院議員から意に染まぬ婚礼を無理強いされております。
そして三角関係のもう一方の頂点にして、いけ好かない元老院議員コルヴスを憎々しげに(ちょっと楽しそうに)演じているのがキーファー・サザーランドです。もはやジャック・バウワーがローマ人のコスプレをしているようにしか見えません。
本作はキーファの久々の悪役ですし、ローマ帝国時代ですから、チャリオットを駆ったチェイス・シーンもあったりします。何やら『ベン・ハー』もどきの場面になっているのも、狙った上でのことでしょうか。
エミリー・ブラウニングの父親で、キャリー=アン・モスの夫となる豪商セヴェルス役を演じているのがジャレッド・ハリスです。英国人俳優が歴史劇に出演すると、さまになりますねえ。最近は貫禄もついてきたので、あまり出番は無くともなかなか印象深い。
また、主人公に対立するライバル剣闘士として登場するのが、アドウェール・アキノエ=アグバエです。シルヴェスター・スタローン主演の『バレット』(2013年)では悪の黒幕を演じておりましたが、本作では主人公を喰ってしまうようなライバル役。
開巻早々、古代都市ポンペイから発掘されたとおぼしき、おびただしい遺体が映ります。長い年月を灰に埋もれ、半ば石像と化した遺体の数々。様々なポーズで横たわる古代の遺体には、どのようなドラマがあったのか──と、云うところで時間が巻き戻りローマ時代へ。
まずは、ローマ帝国領ブリタニアに於けるケルト騎馬民族の叛乱シーンから。主人公の少年時代であり、叛乱はあっさり鎮圧されますが、ここで両親は一族諸共に皆殺しにされてしまいます。生き残った少年が一人、何とか逃げ延びるものの人買いに掠われ、奴隷として売り飛ばされる。
一七年後、少年は逞しく成長し、ロンディニウム(ロンドンの原型ですね)の闘技場で無敵の剣闘士として名を馳せていた。ケルト人最後の生き残りなので、そのまま「ケルト」と呼ばれておりますが、辺境の闘技場に埋もれさせておくのは勿体ないと、ローマに近い大都市ポンペイに連れてこられる。
CG背景がテンコ盛りの雄大な景観が素晴らしいです。雨に煙るロンディニウムの市街の様子も良かったですが、大都会ポンペイと背後にそびえるヴェスヴィオ山が印象的です。実際のヴェスヴィオ山よりも、ちょっとオーバーなくらい巨大に見えるのですが、噴火前はもっと大きな山だったと云うことなのでしょう。このあたりは正確な考証よりもイメージ優先ですね。
上空からの空撮ショットで、噴火口の中に不穏に溶岩が光っている様子が不気味です。
そして奴隷剣闘士たちのポンペイ到着と時を同じくして、ローマから豪商セヴェルスの一人娘カッシアが帰省する。馬車のトラブルに見舞われたお嬢様一行を、通りすがりの奴隷剣闘士が手助けする場面で、キットとエミリーの出会いが描かれます。ケルト人は騎馬民族で、その末裔だから主人公は馬の扱いに長けている、と云う設定ですが、ちょっと安易な感じがします。
また同時に、ローマから船を仕立てた元老院議員御一行様が港に到着します。巨大なガレー船が行き交う、賑やかなポンペイの港が活気を呈しております。この手の歴史映画には付きものな景観です。もうCGだと判っていても素晴らしい。
云うまでもないことですが、この元老院議員がかつてブリタニアでケルトの叛乱鎮圧を指揮した御本人であり、主人公にとっては一族と両親の仇になると云う設定です。
併せて、この元老院議員はカッシアに懸想しており、言い寄られたカッシアがたまりかねて故郷に逃げ帰ったのを、わざわざ船を仕立ててローマから追ってきたのであるという粘着ぶりも明らかにされます。
親の仇と恋仇が一致するという素晴らしい設定です。実に判り易い。
しかも本作は余計なところで尺を割いたり、時間経過を無駄にするようなことをいたしません。
主要な登場人物達がポンペイに到着してから、ヴェスヴィオ火山が噴火するまで、たったの一日。本作はほぼ「ポンペイの二日間」であると云っても差し支えなし。
出会ったばかりの男女が身分の差を超えて運命の恋に落ちる。たった一晩で。
あのディズニー・アニメでさえ、「出会ったばかりで結婚するなんて」と運命の恋を全否定している御時世に──『アナと雪の女王』(2013年)はそうでしたものね──、臆面も無く古典的ラブストーリーを展開しております。
クライマックスの邪魔になるような複雑な筋書きは不要であると云わんがばかり。
逆に、ほぼ前触れなしの大噴火となるので、この手のディザスター・ムービーにありがちな、「不吉な前兆」とか「災害を警告する学者を無視する政治家」等の定番演出が本作には欠けております。
とりあえず、最近は地震が頻発してポンペイの街のあちこちが壊れて修復が必要だとか語られたり、街の郊外に巨大な地割れが生じて不運な犠牲者が飲み込まれるといった場面もありますが、地割れから噴火までは半日もありません。
とは云え、前振りが足りなくても、アクション場面で補っているので不都合はなし。やはりローマ時代を描くアクション映画として、闘技場での死闘は欠かせません。
キーファ元老院議員は、エミリーが剣闘士キットに想いを寄せていると知るや、闘技場で邪魔者を合法的に抹殺しようと企んだり、逆にエミリーが愛しい剣闘士の助命嘆願を願い出て、意に沿わぬ婚礼を承諾するといったお約束の展開になります。
だからと云って、本当に命を助けるはずも無く、婚礼を承諾させたらあとは用無しとばかりに殺そうとするあたり、キーファの悪党ぶりが安定しております。改心とか、躊躇とか、一切しない悪役一直線。
そして土壇場でヴェスヴィオ火山の大噴火。パニックに陥る群衆と、混乱に乗じて闘技場を脱出し、ヒロインを救うべく駆けつける主人公。元老院議員との因縁に決着をつけるべく、火山灰が降りしきる中でチャンバラしまくり。
ポール・W・S・アンダーソン監督のアクション演出が冴えまくっておりますが、次から次へ襲ってくるスペクタクルは一見の価値ありでしょう。出来れば大画面での鑑賞をお奨めします。
地震、地割れ、地崩れ、倒壊、火山弾、そして津波。特に津波が凄い。ちょっと前の日本じゃ上映できなかったでしょう。
悪を倒し、ヒロインを救い出したところで、最後に巨大な火砕流が発生。物凄い規模で山腹を下ってきます。もはや逃げ場なし。
実は主要登場人物は誰一人助かりません。そんな生半可な災害ではないのです。
覚悟を決め、愛する者との口づけを交わしたところで、火砕流はすべてを飲み込んでいく。
かくしてポンペイは全滅し、人々は石化した遺体になり果てるわけですが……。冒頭に登場した石化した遺体と同じポーズをとって劇中で死ぬ者がいたりして、「この人、ああなっちゃうんだ」と種明かしがあったりします。
そして最後に、口づけを交わしたまま石化した恋人同士の遺体が発見される。いたわしい最期ではありましたが、愛は永遠に残るのであった──と、それなりに感動的なフィナーレでありました。
歴史ドラマとしては巧くまとまったと思います。『三銃士』みたいに続編を匂わせないところも潔しですね(続けようもありませんが)。
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