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2014年6月25日水曜日

300  〈スリーハンドレッド〉 /帝国の進撃

(300 : Rise of an Empire)

 フランク・ミラー作のグラフィックノベルの映画化『300 <スリーハンドレッド>』(2007年)の続編です。前作ではペルシア戦争の中でも「テルモピュライの戦い」が描かれておりましたが、本作はその続編なので「プラテアの戦い」になるのか……と思っておりましたが、ちょっと方向が違いました。
 続編ではありますが、時間軸的には前作と同時並行しているように描かれておりまして、本作では時代を少し遡った「マラトンの戦い」に始まり、そしてテルモピュライの戦い」とほぼ同時期に行われていた「アルテミシオンの海戦」と、その後の「サラミスの海戦」が主たる戦場として描かれております。
 一応、歴史の流れには沿った展開と云うべきなのでしょうが、例によって「細かい時代考証なんぞ知ったことか」なデザインがカッコ良くて素晴らしいデス。
 CG全開な大海戦が迫力ありまして、「前作が陸戦だったので今回は海戦だ」と云う方針が実に判り易い。

 そして前作ではスパルタが主役でしたが、本作ではアテナイが大活躍します。
 あれ。「スパルタ以外の都市国家は全部ヘタレ」だと云われていたような気がしましたが、それはスパルタ側の偏見であったようです。本作に於けるアテナイ軍は実に勇猛果敢です。と云うか、アテナイ兵士もほぼ無敵。
 今回、テルモピュライとは別のところで戦いが行われておりますので、ジェラルド・バトラー演じるレオニダス一世はチラリと顔見せ程度しか登場しません。代わって主役を張っているのは、サリヴァン・ステイプルトン演じるアテナイの司令官、テミストクレスです。

 テミストクレスも歴史上に実在した人物でありますが、その描かれ方はレオニダス一世と同じくらい眉唾物であります。
 いやそもそも「古代ギリシア人はパンツとサンダルとマントしか着ない」と云う描写からしてアヤしいです。スタイリッシュですが。
 しかも格好がスパルタとお揃いな上に、マントの色だけが違う。スパルタは赤マントでしたが、アテナイは青マント。なんだその2Pカラーは。さすがグラフィックノベルが原作だけあって、見た目の判りやすさが最優先にされております。
 デロス同盟とペロポネソス同盟で色違いなのかしら。

 でも、ジェラルド・バトラーのようなメジャーな俳優は起用できなかったのか、サリヴァン・ステイプルトンと云われましてもピンと来ませんでした。『アニマル・キングダム』(2010年)や『L.A. ギャングストーリー』(2013年)に出演していたそうですが、憶えがありませんデス(汗)。
 しかしなかなかのイケメンであり、「古代ギリシア人は全員マッチョ」と云う暗黙のルールに則って、見事な胸板と腹筋を披露してくれております。
 ギリシア側のサリヴァン・ステイプルトンに対して、攻めてくるペルシア軍の司令官アルテミシア役がエヴァ・グリーンです。ティム・バートン監督の『ダーク・シャドウ』(2012年)ではジョニー・デップを苦しめる魔女の役でしたが、本作では更にドSの女王様っぷりがエスカレートしております。もっと知的な美人だと思っていたのに、ヘンな役が多いのは気の所為かしら……。

 エヴァ・グリーン演じるアルテミシアは、実はクセルクセスの姉──ダレイオスの養女であり、血縁は無い──であったと云う設定になっており、ペルシア帝国側の背景設定が色々と追加されています。かなりフィクション入ってますが。
 その為、本作では「テルモピュライの戦い」に先立つ一〇年前の、「マラトンの戦い」から再度語られます。当然、主役はアテナイ軍。
 ペルシア帝国もまだクセルクセス王の代ではなく、その父親ダレイオス一世が指揮を執っております。息子クセルクセスも随行しておりますが、前作で見せた圧倒的なカリスマ性は全然見られず、ごくフツーの若者として登場しているので、奇妙な印象を受けます。と云うか、この若者がクセルクセスであるとは最初は判りません。

 ここでダレイオス一世に致命傷を与え、ペルシア帝国を撤退させた立役者が、アテナイ軍の指揮官テミストクレス。本作ではテミストクレスが主役ですので、アテナイ側の他の将軍たちに出番はありませんです。
 ダレイオスは瀕死の重傷を負い、帝都ペルセポリスに帰還後、息絶える。
 そこで姉アルテミシアの策謀により、後継者としてクセルクセスは精神から肉体に至るまでの大改造を受け、生まれ変わるのであった。
 ここで初めて馴染み深い、「あのクセルクセス」が登場します。ロドリゴ・サントロの怪演が見物です。もう、『大改造!! 劇的ビフォーアフター』並みの変身ぶりには笑ってしまいました。なんということでしょう。

 あの人間離れした容貌や尊大な態度には、アルテミシアの陰謀が絡んでいたという説明で、弟に狂気を植え付け、〈神王〉とまで呼ばれる怪人に改造しつつ、姉に依存した性格にして、裏で帝国を操る黒幕になろうというのがエヴァ・グリーンの陰謀です。悪女ですねえ。
 フランク・ミラーのひねり出した後付け設定がなかなか興味深いです。
 また、CG全開で帝都ペルセポリスの壮大な景観がドーンと披露されたりするのも壮観デス。でもきっと、時代考証は二の次なのでありましょう。

 前作では、クセルクセスの描き方が冒涜的であるとして、イラン政府からクレームが付いたそうですが、今回もまたそうなんでしょうか。まぁ、あの描き方では仕方ないとは思いますが、最初からムチャな設定を「歴史歪曲だ」と難癖付けるのも野暮な気がします。
 と云うか、イラン政府と同じくらいギリシア政府もクレーム付けないのでしょうか。あのギリシア人の描写も大概だと思うのデスガ。
 ここは一発、アッバス・キアロスタミ監督あたりに、アケネメス朝ペルシアを舞台にした、ハシャヤーラシャー王が主役のイラン的歴史大作映画でも制作してもらって、見比べるてみるというのはどうでしょう(古代ペルシア語ではクシャヤールシャンだそうですが)。
 まぁ、「ハシャヤーラシャー」を「クセルクセス(“XERXES”)」にして、それをまた英語発音で「じぇるじぇす」とか「ぜるぜす」とか発声しているのも、イランの人には気に入らないのでしょう(もう別人と云うことにしておけばいいのでは)。

 ロドリゴ・サントロ以外の配役ですと、レナ・ヘディ演じるゴルゴ王妃もお変わりなし。本作ではジェラルド・バトラーがチラ見せ登場しかしてくれませぬが、レオニダス王不在の間はゴルゴ王妃が大活躍。レナ・ヘディが男勝りにチャンバラに参加してくれたのが意外でした。もうスパルタ人は男でも女でも一騎当千か。
 後半になるとテルモピュライでの敗戦が伝えられ、唯一の生存者であるディリオス(デビッド・ウェナム)も登場してくれます。デビッド・ウェナムは『ロード・オブ・ザ・リング』シリーズではファラミア卿役でよく存じております。
 また、あの裏切り者エフィアルテス(アンドリュー・ティアナン)も再登場いたします。怪異な風貌にも更にCG的に磨きが掛かっているように思えました。

 前作の監督ザック・スナイダーは今回は制作に回って、本作の監督はノーム・ムーロなるイスラエル出身の監督になりました。ラブコメ映画『賢く生きる恋のレシピ』(2008年)の監督と云われましてもピンと来ませんデス(ビデオスルーされておりますし)。
 しかしCM監督でもあったそうなので、映像表現の腕については問題なしですね。本作の映像は驚くほど前作のイメージそのままなので、実はザック・スナイダーが監督しているのではないかと疑ってしまったほどです。
 しかしペルシア(イラン)を冒涜的に描いた映画の監督がイスラエル人であると云うのも問題であるそうな(一部ではシオニストだとか何だとか云われておるようで)。

 ともあれムーロ監督は、映像のテイストは前作を踏襲しつつ、更にバイオレンスな描写をパワーアップさせることに心血注がれたようです。さすがはCM畑出身の監督です。
 本作ではもうヤリスギなくらいに鮮血ほとばしり、ダイナミックに血飛沫が飛びまくっております。敵を剣でぶった斬る瞬間だけ、スローモーションになって、昏い色調の画面に鮮やかな血潮がドバーっと吹き上がる。
 前作もR15+指定でしたが、本作もまたR15+指定です。
 おまけにバイオレンス描写のみならず、エロティックな描写も手抜かりなし。エヴァ・グリーンが惜しげも無く脱いでくれます。躊躇いないなー。
 B級映画では続編の方がエログロ度がアップするのが世の常とは云え、この潔すぎる脱ぎっぷりは天晴れです。アン・ハサウェイや、アマンダ・サイフリッドにも匹敵しますね。

 本作は主に「アルテミシオンの海戦」から「サラミスの海戦」までが描かれますので、実はクセルクセスよりもアルテミシアの方が出番が多いです。と云うか、本作はアルテミシアとテミストクレスの愛憎が交錯するストーリーになっております。
 劇中ではエヴァ・グリーンが、自身の悲惨な幼少時の体験を披露しつつ、サリヴァン・ステイプルトンを色香で惑わそうとする場面もあり、敵ながら多少は同情の余地があるようには描かれております。だからと云って、世の中にはやっていいことと悪いことがあるのですが。
 アルテミシアの色香に惑わされそうで、それに屈しないテミストクレス。アテナイ人も結構、ストイックですね。

 ペルシアの大艦隊を迎え撃つアテナイの艦隊が貧弱で頼りないのですが、そこを知略と技量で何とか乗り切って行きます。「寄せ集めの兵士達だ」と云われつつ、善戦しております。
 と云うか、寄せ集めのくせに一糸乱れぬ艦隊運動を展開し、悪天候の海でもペルシア軍を翻弄するあたり、ギリシア無双ですねー。
 しかし善戦するものの、やはり圧倒的な物量差は如何ともし難く、劣勢に追い込まれるアテナイ軍。テルモピュライでのスパルタ敗北の報も受け、遂にアクロポリスは制圧され、炎上。

 アクロポリスを捨て、サラミスまで退却したアテナイ軍は満身創痍。しかし誰も逃げず、全員ペルシア軍を迎え撃って討ち死にする覚悟。
 一方、ペルシア軍ではテルモピュライから凱旋したクセルクセスが合流し、追撃を企てる姉アルテミシアを諫めようとします。変態ちっくに描かれていた筈のクセルクセスが、妙に常識を備えた人物となり、王としての風格を見せているのが意外でした。
 逆にアルテミシアの方が、自分を拒絶したテミストクレスに固執し、この手で息の根を止めてやると熱くなりすぎています。

 結局、弟の助言を無視して、個人的な感情の赴くままに軍を動かした姉が、サラミスで大敗を喫すると云うのがペルシア海軍の末路となります。決死の覚悟で戦い抜くアテナイ軍の窮地に、遂にスパルタが援軍として駆けつけてくると云う、実にお約束なクライマックス逆転劇。
 レオニダス王と三〇〇人の兵士の復讐に燃えるスパルタ軍の前に、瓦解していくペルシア軍。先陣切ってペルシア兵共を屠りながら進撃してくるゴルゴ王妃が怖いッ。
 そして、姉の暴走を止められず、その最期を遠くから眺めていたクセルクセスが残存兵力をまとめて撤退していくのがラストです。今回、姉の方が目立っていた分、クセルクセスの方が常識的な人という印象です(比較的ですけど)。

 ここにクセルクセスのギリシア遠征は失敗に終わり、翌年の「プラタイアの戦い」で更に敗北し、それ以降はクセルクセスはギリシアに手を出さなくなったというわけですが、史実をなぞっているようでかなりテキトーな解釈が満載になっておりますので、本作と前作でペルシア戦争を理解したつもりになるのはかなり危険でしょう。
 きっと史実は全然、違うと思いマス(当たり前か)。
 それはそれとして、ここまで来たら「プラタイアの戦い」まで描いて、〈スリーハンドレッド〉三部作くらいにまとめて欲しいのですが、フランク・ミラーはそこまで描いては……くれないかな。




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