今回の題材は、アンデルセン童話の『雪の女王』……のハズなのですが、もはやどの辺りがアンデルセン童話なのかよく判らないほど改変されております。まぁ、『塔の上のラプンツェル』も、その前の『プリンセスと魔法のキス』(2009年)も、元がグリム童話だったとは思えぬくらいの仕上がりでしたからね。
ディズニーがアンデルセン童話に手を付けるのは『リトル・マーメイド』(1989年)以来ですか。
あの頃はエンディングの改変が是か非かで賛否両論でしたが、もはやエンディングどころかストーリーそれ自体にまで改変が及ぶようになってしまいました。良いのか悪いのか。
原題も “Frozen” で、 “Snow Queen” ですらないので(『~ラプンツェル』も “Rapunzel” ではなくて “Tangled” でしたし)、アンデルセン童話は原作と云うよりも、単なる原案程度と割り切って観るのがよろしいのでしょう。
できれば3DCGではなく、フツーの2Dアニメにしてもらいたかったですが、もう海外ではアニメは3DCGの方が「普通」なんですかね。
本作はジョン・ラセターが制作に回り、監督はクリス・バックとジェニファー・リーの共同監督作品になっております。クリス・バックは『ターザン』(1999年)の共同監督の一人で、ジェニファー・リーは『シュガー・ラッシュ』(2012年)で脚本家(の一人)を勤めておりました(本作の脚本も共同で担当)。
ジョン・ラセターが制作に入っていて、『シュガー・ラッシュ』の脚本家が監督と脚本に参加しているなら、あまり問題は無いですね。
アンデルセン童話とは随分とかけ離れたものになってしまいましたが、これはこれで大変素晴らしい感動のミュージカル・アニメに仕上がりました。やはりディズニーのアニメはミュージカルがよく似合います。近年、定期的にミュージカル映画を制作してくれるのは、ディズニーくらいなものでしょう(音楽映画なら沢山あるのに)。
特に主題歌「レット・イット・ゴー ありのままで」が大変素晴らしく、さすがは今年(2014年・第86回)のアカデミー歌曲賞を受賞しただけのことはあります。
これを歌っているのはブロードウェイ・ミジュージカル女優イディナ・メンゼルで、エルサ役もこの人ですが、日本語吹替版では同じくエルサ役の松たか子が歌っていて、これまた大変素晴らしい。
本作の各国語吹替バージョンを編集して、様々な言語で歌われる「レット・イット・ゴー」を一本につなぎ直した予告編を劇場ロビーでも見ましたが、やはり日本語の部分が素晴らしいと海外でも評判になっていたそうな。
アンデルセンはデンマークの人ですが、本作の背景はノルウェーぽいです。深いフィヨルドの奥の豊かな自然に囲まれたアレンデール王国が物語の舞台。このあたりの設定は完全オリジナルですね。
アレンデールの国王夫妻には二人の王女がいて、姉がエルサ、妹がアナ。
うーむ。「カイ」とか「ゲルダ」とか、どこかで名前くらい採用されないのかと思っておりましたが、完全スルーです。
本作の登場人物は、他には隣国サザンアイルズの王子が「ハンス王子」であったり、山に住む青年が「クリストフ」とか、トナカイの相棒は「スヴェン」で、魔法で生まれた雪だるまが「オラフ」であったり、北欧系の名前で統一されていますが、カイもゲルダもスルーされました。やはりストーリーを大きく改変したので、使えなくなったのでしょうか。
幼い頃から仲の良い姉妹であったエルサとアナだが、姉エルサには「物を凍らせる」能力が備わっており、国王夫妻はこれを公表することなく隠し続けていた……と云うところで、姉の方が「雪の女王」となるワケですが、そもそも姉にだけこんな超能力が備わっている理由が不明です。全編の尺は一〇二分ですが、ミュージカルなので歌曲以外の展開にそんなに時間を割くわけにはいきませんですね。
エルサの能力は、何やらマーヴェル・コミックスの『X-MEN』に登場するアイスマンの如き能力です。あるいはピクサーの『Mr.インクレディブル』(2004年)のフロゾンと云うべきか。
この辺りは細々と説明せずに、既存のコミックスやアニメの描写に沿った表現で、説明しなくても判るようにしているのが巧いです(ちょっと手抜きぽいけど)。
幼い頃、二人で雪だるまを作って遊んでいる際に、エルサの能力でアナが怪我をする事故が起き、国王夫妻は山奥に棲むトロールの長老に治療を嘆願する。トロールはアナを治療すると同時に、事故の記憶と関連するエルサの能力の記憶までを消してしまう。
エルサの能力を秘密にしておくために、アレンデール国王は王宮の大幅な人員削減を断行し、エルサはアナとは会えない隔離生活を余儀なくされる。
以来、アナは冬になる度に「雪だるまを作ろう」と誘いに来るが、姉に理由も判らず拒絶され続けることになり、寂しい幼少期を送ることに……。
このシークエンスを「雪だるまつくろう」と云う一曲だけで説明してしまう演出が素敵デス。時間の経過と王女達の成長が、ちょっと切ない歌に乗って描かれていく、かなりウルウル度の高いシーンです。
あるとき国王夫妻は洋上で遭難し、姉妹は互いに会えないまま孤児となり、更に数年が経過。遂にエルサが成人し、戴冠式が行われることになる。
王宮を閉ざし続けて秘密めいた国となったアレンデールの王宮が一日だけ開門することになり、戴冠式には近隣の国々から使節がやってくる。中にはアレンデールの秘密を暴こうと企むスパイ紛いの使節まで。
美しい娘に成長したアナは滅多にないイベントにはしゃぎまくり、一方で引き籠もりのエルサは今日一日だけは能力を押さえておこうと悲壮な決意を固める。
二人の姉妹が互いに心情を歌に乗せる「生まれてはじめて」もイイ感じでした。ポジティブな歌詞のアナと、ネガティブな歌詞のエルサが交互に歌いながらシンクロしていく、実にミュージカルらしいナンバーです。
そして戴冠式を前に、港でアナとハンス王子の、実にベタでパターンに則った出会いがあり、二人が恋に落ちて戴冠式の後の舞踏会で、これまた「とびら開けて」をデュエットしながらプロポーズにまで雪崩れ込んでいく展開が、往年のハリウッド映画を思わせる超テッパン演出なので笑ってしまいました。
ハンス王子が自国では「十三人兄弟の末弟」であると云う設定が、何だか別のアンデルセン童話を想起させてくれます。十二人のお兄さんは白鳥に姿を変えられたりはしないのかしら。そのうち『白鳥の王子』もディズニーでアニメ化しようと云う布石なんですかね(考えすぎか)。
アナとハンス王子の恋愛展開は、往年の『シンデレラ』(1950年)なんかも思わせてくれるのですが、イマドキは「出逢ったその日に恋に落ちて結婚の約束をする」男女は、軽率の誹りを免れないのでしょうか。でもディズニー・アニメなんだし、いいじゃなイカ(笑)。
パターンなラブストーリーを良しとする古典的なストーリーに思えたのですが、なんかそれではイカンようです。どうにも後半になるとパターンをひっくり返そうとする意図があからさまで、意外性があると云えばいいのですが、小さな子供も観ているのにそれでいいのかなぁと思わないでもありませんデス。
このあとエルサに結婚を反対され、姉妹が仲違いし、感情のもつれからエルサの能力が暴走して超能力者であることが露見してしまうわけで、魔女扱いされたエルサは居たたまれずに逃げ出してしまう。
ひっそりと山奥まで逃げてきた(そこまで山奥でもないか。アレンデールの城下が見える程度には近いです)エルサは、そこで初めて気兼ねすることなく能力を振るい、「ありのままで」いることに喜びを見出すわけで、ここで歌われる「レット・イット・ゴー」が本作歌曲の白眉ですね。
CGの効果も遺憾なく発揮されております。
名実共に「雪の女王」と化すエルサですが、悪役にはなりません。エルサは徹頭徹尾、人に迷惑をかけないように振る舞っています。クールな態度も思いやりの表れなのです(萌える)。
しかしエルサが調子に乗って氷の城まで建ててしまったお陰で、アレンデールは夏の最中に国中が雪と氷に閉ざされてしまう(これは「知らなかったの」で済まされる問題なんですかね)。
一方、エルサが追われる原因を作ってしまったことに責任を感じたアナは、ハンス王子に後を任せて、姉の行方を追って雪山に入っていく。
雪山に分け入ってから出会うのが、山男のクリストフと相棒のトナカイ。第一印象の悪い出会い方がハンス王子の時とは対照的です。雪山のガイドとして、強引にクリストフの橇をチャーターしてエルサを追うアナですが、このあたりでキャラクターの配置にビミョーに違和感を覚え始めました。
どう見てもアナとクリストフは、角突き合いながらも親しくなっていく関係ですが、それではハンス王子の立つ瀬が無い。このままハンス王子が失恋して帰国なんて展開はイカンでしょう。
本作はディズニー・アニメ初となる、ヒロインが二人いるストーリーです。
ひょっとしてカップルも二つ誕生するのでは……なんてことを途中まで考えておりました。
その場合は、クリストフがエルサに惚れて、一緒に山奥で暮らすことになり、国はアナに譲ってハンス王子と二人で治めていく……なんてハッピーな展開にはなりませんでしたね。全然。
そもそも男女のラブストーリーにはなりません。
本作で描かれるのは、「女性が自分を偽ることなく生きていくこと」と「麗しい姉妹愛」です。はっきり云って、野郎はお呼びでは無かったのだ。これはこれで斬新デスわ。ディズニー・アニメも思い切ったことをするものです。
ハンス王子の、まさかの悪党宣言にビックリです。掟破りだなぁ。
しかし大人が観るドラマとしては面白いデスが、小さな子供が人間不信に陥るような演出は如何なものか。「運命の出会い」も全否定しておりますし。
ディズニーなのに、子供の夢を奪っているのではッ。
紆余曲折の末、エルサとアナは和解し、アレンデールの危機は去り、王国乗っ取りを企んだ悪党は捕らえられて一件落着。
氷の呪いを解く「真実の愛」──ディズニー作品の共通設定ですね──も、今回ばかりは男女の愛ではなく、姉妹愛の方でした。我が身を省みない自己犠牲こそが「真実の愛」である。それは恋愛に限ったことではなく、家族や友人同士の中にもあると云う描写がイマドキですね。
結局、クリストフとアナも友人以上の関係にはならず、冒険の途中で派手に破壊されたクリストフの橇も、約束通り王宮が弁償して問題なし。
しかし姉妹の愛情と、女性が「ありのままで」生きていくことを歌い上げた主題歌のお陰で、本作を「同性愛を肯定するアニメ」だと勘違いする人もいるとか。どうにもアメリカって、男同士が連んでいるだけでゲイ疑惑を持たれたり、考え過ぎな人が多いような気がします。近親間でレズビアンって、それじゃあ日本のアニメ並みにヘンタイだ。そんなけしからんネタの薄い本があるなら是非読んでみた(げふんげふん)。
フツーに観れば仲の良い姉妹以上には描かれていないのですが、解釈の仕方は人それぞれか。
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