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2014年2月1日土曜日

ウルフ・オブ・ウォールストリート

(The Wolf of Wall Street)

 マーティン・スコセッシ監督によるレオナルド・ディカプリオ(以下、デカプー)主演の映画も、本作で五本目になります。ウマが合うのでしょうねえ。
 音楽もまた、いつものハワード・ショアで安定しております。
 今回のタッグは、実在する証券マン(まだ御存命ですね)、ジョーダン・ベルフォートの回顧録『ウォール街狂乱日記/「狼」と呼ばれた私のヤバすぎる人生』(早川書房)を原作とした実録犯罪ドラマです。ハヤカワは後に映画と同じ題名で文庫化しましたが、邦題はこちらの方が似合っていると思います。

 全編がテンション上がりっぱなしのコメディ・タッチ演出ですし、本作は伝記映画ではありますまい。主人公は偉人ではありませんし。
 デカプー演じるジョーダン・ベルフォートは、一代で投資会社を立ち上げ、巨万の富を稼ぎ出し、ドラッグ漬けでボロボロになって、証券詐欺で実刑判決を喰らってムショ送りになると云う、誠に浮き沈みの極端な半生を送った人です(それもまた一種の偉人なのかしら)。
 犯罪者を主人公にした映画なので、本作もアンチヒーローと云うか、一種のピカレスクものなのでしょうか。でも、「ピカレスク・ロマン」と呼ぶほどロマンチックではないです(いや全然)。
 熱に浮かされたように、と云うか映画全体がドラッグでハイになったように進行していくドラマには圧倒されました。

 怒濤の勢いで進行していくドラマは、一度上がったテンションがさっぱり落ちてこないまま、一七九分もの長丁場を突っ走ります。ダレる場面なし。これほどハイ・テンションな映画は久しぶりです(しかも長い)。
 マーティン・スコセッシ監督の力量と、この無茶苦茶な主人公を「憎めない悪党」として演じきったデカプーの演技力に脱帽しました。
 本作は既に今年(2014年・第86回)のアカデミー賞に、作品賞、監督賞、主演男優賞、助演男優賞、脚色賞でノミネートされておりますが、そのいずれもに納得いたします。全部受賞しても私は驚きませんです。

 でもポール・グリーングラス監督の『キャプテン・フィリップス』(2013年)も気に入っているので、作品賞はそちらに獲らせてあげたい。代わりにトム・ハンクスが主演男優賞にノミネートされていないので(何故じゃーッ)、デカプーにはこちらを獲って戴きたい。
 ついでにポール・グリーングラス監督も監督賞にはノミネートされていないので(何故じゃーッ)、『ゼロ・グラビティ』のアルフォンソ・キュアロン監督にすれば、私の好きな作品だけで三方丸く収まります。そんな予想が当たるとは思えませんが(第一、候補作すべて観ているわけではないのに)。
 スコセッシ監督は『ディパーテッド』(2006年)でアカデミー賞監督賞を受賞していますから(そう云えばあれもデカプーとのタッグ作品ですね)、本作でまた監督賞を獲らなくてもいいかしら。いやでも、『ディパーテッド』より本作の方が、より監督賞には相応しいと思えます。
 実際、本作は近年のマーティン・スコセッシ監督作品の中では一番ではなかろうか。『ヒューゴの不思議な発明』(2011年)や、『シャッター アイランド』(2009年)よりも出来が良いと思います。

 その理由のひとつには、脚本がいいこともあるでしょう。脚色賞ノミネートですし。
 本作の脚本はテレンス・ウィンター。あまり馴染みのある名前とは云い難いのですが、TVドラマの『ザ・ソプラノズ 哀愁のマフィア』や、『ボードウォーク・エンパイア 欲望の街』の脚本を書いている方なので、出来がいいのも納得です。
 回顧録が原作なので、劇中ではずっとデカプーのモノローグが語りとなって進行していくドラマになっています。語りのみならず、時々ドラマの途中で、デカプーがカメラ目線になって直接語りかけてくる演出もあります。

 一方、助演男優賞にノミネートされているのは、ジョナ・ヒルです。『マネーボール』(2011年)ではブラッド・ピットの助手役でしたが、本作ではシリアス演技はさておき、元来のコメディ演技が炸裂しております。
 いやもう、本作におけるラリっちゃった演技は相当なものです。デカプーと並んで披露されるグダグダな姿は凄まじいです。なかなかあそこまでは出来ないですよ(相当に下品ですし)。
 ちなみにジョナ・ヒルは『マネー・ボール』でも、アカデミー賞助演男優賞にノミネートされておりますね(受賞は『人生はビギナーズ』のクリストファー・プラマーでしたが)。ジョナ・ヒルにも、本作でオスカーを受賞して戴きたいものです。

 尺が長い上に、登場人物も多いのですが、マシュー・マコノヒー、カイル・チャンドラー、ジャン・デュジャルダンといった方は印象深いです。他にもロブ・ライナーや、ジョン・ファブローも出演しております(出番は少ないですが)。

 まずはマシュー・マコノヒー。ごく普通の証券会社の社員だったデカプーにワルいことを教えまくる、人生の師です。この人に巡り会いさえしなければ、デカプーもうだつの上がらない証券マンでいられたのに(それもなんかイヤですけど)。
 新入社員のデカプーに「株屋が売るのは幻だ」だの、「客に儲けさせるな。客が儲けたら、その金で次の株を買わせろ」だの、「コカインと自慰はブローカーには必須だ」とか、とんでもない新人教育を施していきます。やはり投資なんかするものではないですね(それ以前に投資する資産もありませんけど)。
 マコノヒー師匠にはもっと出番があると嬉しかったのですが、序盤のブラック・マンデー(1987年10月19日)で、電光掲示板を見つめて呆然とするアップを最後に御退場。なんか惜しい。

 カイル・チャンドラーはFBI捜査官の役です。いつもながら太い眉毛に見覚えある人です。
 キャスリン・ビグロー監督の『ゼロ・ダーク・サーティ』(2012年)で、ジェシカ・チャステインの上司の役でした。ベン・アフレック監督・主演の『アルゴ』(同年)には大統領補佐官の役で登場しておりました。どうも役人の役が似合っている人ですね。
 今回は割と出番があって、証券詐欺で大儲けしているデカプーに対して、目の上のたんこぶのように目障りにプレッシャーをかけてきます。本当はカイルの方が正義だし、賄賂になびかない清廉な人なのですが、妙に悪役めいて描かれております。

 ジャン・デュジャルダンはスイス銀行の頭取役。デカプーの巨額の資産隠しの片棒を手伝っております。フランス語混じりの英語で、信用出来るのか判らない怪しい銀行家です。
 『アーティスト』(2011年)でアカデミー主演男優賞を受賞して以来でしたので──『プレイヤー』(2012年)は見逃してしまった──久しぶりです。今後もハリウッド作品への出演が続くようで嬉しいです。

 ブラック・マンデーのお陰で一旦は失職し、別の人生を歩むことを考えるデカプーですが、奥さんの励ましで再び証券マンとしての再起を図ります。ここまでなら麗しい美談でしたが、再起するに当たってマコノヒー師匠の教えを忠実に実践し、それが図に当たるのでどんどん人生を踏み外していきます。
 弁舌さわやかに貧乏人を食い物にし、クズを売りつけて儲けていくデカプー。更にジョナ・ヒルと知り合い、自分の証券会社を立ち上げます。賃貸のガレージから始めて、次第に会社を大きくしていく様は、サクセス街道驀進なアメリカン・ドリームを体現しております(やってることは誉められたものではありませんが)。
 こいつらが成功すればするほど、陰で泣いている人が増えているはずなので、まったくもってけしからんのですが、これが憎めない。

 常にテンション高く、立ち止まらず、後ろも振り返らず、金儲けに邁進するデカプーとジョナ。
 異常なまでに高揚し、巧みな話術で部下達を鼓舞する姿は、見事と云うほかはありません。計算して喋っているのではなく、口から勝手に言葉が飛びだしてくるようです。人をノセる神業的テクニックは称賛に値するでしょう。
 あまりにも破天荒なので、本当に実話なのかと疑いたくなりますが、事実は小説よりも奇なりですね。週給一億円て、なにそれ。
 銭ゲバぶりを雑誌に叩かれ、「ウォール街の狼」とまで呼ばれるも──これが題名の由来ですね──、悪名もまた宣伝となって、デカプーのサクセス街道は揺るがない。
 これぞまさに天職。

 「天職を得てしまった男の物語」としては、アンドリュー・ニコル監督の『ロード・オブ・ウォー』(2005年)に並ぶものを感じました。しかしニコラス・ケイジの方はまだ多少なりとも良心が残っているようでしたが、本作におけるデカプーは身も心も株屋の神様に売り渡しております(悪魔かな)。
 天職を得てしまうと、止めるに止められなくなるものか。デカプーの場合は、ドラッグよりも金銭に中毒しているようです。

 そしてテンション維持のためにはバカ騒ぎあるのみ。
 騒々しい音楽と、ドラッグと、ナイスバディなストリッパーのお姉さん達で、社員のモチベーションを常にトップギアに入れっぱなし。こんな会社があっていいのか(ちょっと羨ましいかも)。
 営業会議で出席者全員がドラッグをキメまくっている図と云うのもスゲーです。
 本作ではやたらとコカインを吸引する場面や、女体の全裸が登場する場面がありまして(デカプーも堂々と尻を晒してくれます)、R指定も当然ですね。台詞にも「ファック!」が連発されていますし。

 しかし狂乱の日々も永遠には続かない。FBIから目を付けられて、資産隠しに奔走するデカプーのあの手この手も笑えます。
 まぁ、最後には御用となって、何もかもを失ってしまうのですが。
 司法取引で減刑を持ちかけられ、一度は仲間を売ることに躊躇いを見せるデカプーに一抹の良心を感じますが、結局は抗いきれずに仲間を売ってしまう。ジョナ・ヒルを始め、会社の主要メンバーも軒並み逮捕。
 祭りの日々も終わりを告げるところでドラマも終わるのですが……。

 数年後に出所するデカプーの姿がエピローグ的に入ります。
 どこぞの投資家セミナーらしいところで講演するデカプー。まだ懲りていないようです。人々が金儲けしたいと望む限り、デカプーは不滅なのか。
 決してブレない不屈の姿には、感動するよりも呆れてしまいますが。
 マコノヒー師匠直伝の、胸を叩くビートのメロディが力強いです(つまり死ぬまで止める気ナシか)。

 ところで、ジョーダン・ベルフォート御本人も、この回顧録の映画化によってまた人生が上向きになってきたりしているのでしょうか。
 エンドクレジットあたりに御本人の写真でも一枚、欲しかったところです。

● 追記
 ……と思っておりましたら、ジョーダン・ベルフォート氏は本作にカメオ出演しておられたとか。ラストの講演会の場面で、壇上からデカプーを紹介する司会役の方がベルフォート氏だそうな。
 素人とは思えぬほど堂に入った演技でした。流石デス。




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