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2014年1月15日水曜日

大脱出

(Escape Plan)

 シルヴェスター・スタローンとアーノルド・シュワルツェネッガーが共演するアクション映画と云う、八〇年代から熱望されながら、今までありそうで無かった作品がようやく実現しました。まさか本当に制作される日が来ようとは。
 今度はもう『エクスペンダブルズ』(2010年)のような片方がチラ見せゲスト出演するだけではない。がっぷり四つに組んだ本格共演。
 監督はスウェーデン出身のミカエル・ハフストロームです。ジョン・キューザック主演の『1408号室』(2007年)や、アンソニー・ホプキンス主演の『ザ・ライト/エクソシストの真実』(2011年)なんかの監督さんですね。この方の監督作品はホラー映画しか観ておりませんでした。

 しかしこの手の「豪華二大スター、夢の共演!」な大作映画は、夢ではありますが実現するとイマイチなものになりがちである、と云うのも苦い教訓として叩き込まれております。
 例えば、クリント・イーストウッドとバート・レイノルズが共演した『シティヒート』(1984年)とか、アル・パチーノとロバート・デ・ニーロが共演した『ヒート』(1995年)とか(他にも色々……)。
 俳優でなくても、『フレディ VS ジェイソン』(2003年)やら、『エイリアン VS プレデター』(2004年)なんてのもありましたねえ。
 いずれも両雄並び立たずと云うか、どちらにも見せ場を作ろうとして失敗したり、片方ばかりが目立って、もう片方が脇役になってしまったりと、イマイチなものが多いです。期待しては失望することの繰り返し。

 それにスタローンもシュワルツェネッガーも、二人とも既に還暦を過ぎてますよ。双方とも年齢を感じさせずにドシンバタンと大立ち回りを演じてくれるのは嬉しいのですが、こういうのはもっと早く観たかった。
 さすがにもう「ランボー対ターミネーター」だとか、「ロッキー対コマンドー」と云う図にはならんか。企画が遅すぎたのかしら。

 どちらか一方をシリアスにしてしまうと、もう片方が妙にコメディに走ってしまったりする……と云うのもまた、やむを得ないのでしょうか。まぁ、『シティヒート』ほど酷くはありませんでしたが、本作にもそのスタイルは通じているように思われます。
 本作ではスタローンがシリアス・タッチで、シュワルツェネッガーがユーモア・タッチ。観ていて昔の教訓が甦ってしまい、中盤で既に諦めムードが漂ってしまいました。
 まぁ、アーノルド・シュワルツェネッガー大先生が『ラストスタンド』(2013年)で銀幕復帰し、その後も順調に仕事が続いているのは嬉しい限りデスが。
 どちらかと云うと、本作はスタローン主演の映画です。

 ストーリーは言わずもがなですが、脱獄不可能な監獄で二人が出遭うまでの序盤の展開は、スタローン側からの描写のみです。
 まずは冒頭、とある刑務所に収監されているスタローンが、鮮やかに脱獄してみせる場面から始まります。しかしせっかく脱獄できたのに、わざわざ警官の目に止まるように行動し、再逮捕されて連れ戻される。
 実はスタローンは犯罪者ではなく、セキュリティ企業のコンサルタントであり、刑務所の監視の盲点を突いては脱獄を実演してみせるのが仕事であったのだ。

 序盤の展開から、スタローンが観察眼の鋭い頭の切れる男であると描かれます。刑務所長の前で種明かしをして見せるあたりが、計画的な犯罪映画ぽい演出です。
 スタローンは秘密の小道具など使用せず、その場にあるものを活用して脱獄してみせる、創意工夫に富んだ男であると描かれます。『冒険野郎マクガイバー』なんてのも連想しました。
 スタローンのナレーションにより、刑務所内での監視体制や、脱獄の段取りが説明されるというのが、本作のパターンとなり、このスタイルは本筋に突入してからも踏襲されます。
 まぁ、ちょっと御都合主義的な説明も無きにしも非ずなのは御愛敬か(四つの数字のパスワードも総当たりで試すと時間を食いそうな気がするのですが……)。

 そんな脱獄の天才スタローンの前に政府のエージェントと名乗る女性が現れる。新たに作られた施設からの脱獄が不可能であることを証明したい、と云うのだが……。
 依頼内容に何やら胡散臭いものを感じつつも引き受けるスタローン。そして拉致同然に連れ去られ、いずことも知れぬ監獄の中で目が覚める。
 そこはかつて自分が刑務所の監視体制について著した自著の内容を忠実に守って作られ、運用される刑務所だった。
 まさに自分が書いたとおりのことが実現しているわけで、ここからの脱獄は自分への挑戦に等しい。

 しかも如何なる手違いからか、本当に囚人として扱われてしまい、身分を明かしても解放されない。何者かが自分を罠に嵌めたのだと判ったときには、既に手遅れ。
 ここで出遭う、牢名主のような囚人達のボスがシュワルツェネッガーです。登場するまでにちょっと時間が掛かりました。それに、そもそも敵として登場しません。
 初っ端に手荒い歓迎でスタローンを迎えた後は、互いに一目おきあって、脱獄の為に協力しあうことになると云う展開。思ったほど二人がドツキ合う場面が長く続かないのが残念ではあります。
 一応、脱獄計画の一環として、わざと騒ぎを起こす場面もあるのですが、ドツキ合いもお芝居だと判って観ているので、あまり興奮するようなものではないです。

 真の敵はジェームズ・カヴィーゼル演じる刑務所長。リメイク版の『プリズナーNo.6』で、主役を演じておりましたが、今度は自分が脱走を阻止する側です。
 スタローンの著書を愛読しており、やたらと付箋を貼り付け、アンダーラインを引いて読み込んでおります。ここまでリスペクトしてくれるとスタローンもまんざらではないのでしょうが、その監視体制が自分に適用されるとあっては堪ったものではない。
 この手の脱獄ものでは、刑務所長は酷薄で残忍な性格であるのがお約束ですが、まさにそのとおりの役どころ。しかもそれなりに頭も切れる。

 着々と進行していくスタローンとシュワルツェネッガーの脱獄計画に、カヴィーゼル刑務所長がどこで気がつくのか、ハラハラのサスペンス展開になるのが中盤の見せ場でしょう。
 必要な道具をどうやって入手するのかや、わざと騒いで独房に放り込まれて監視体制を確認するといった脱獄前の下準備が興味深いです。
 総じて、寡黙でストイックなスタローンに対して、ユーモラスによく喋るシュワルツェネッガーと云う描き分けです。劇中ではシュワルツェネッガーが錯乱したフリをして、独房の中でわめき散らすという珍しい場面もありました(実に安定した大根演技)。

 また、スタローンが鋭い観察眼と推理で監獄の全体像をシュワルツェネッガーに説明するあたりが、ミステリ映画のようでもあります。
 本作は謎解きのミステリとしても面白いです。実は意外と頭を使う映画でした。
 いや、もっと脳筋なイキオイだけの映画かと思っておりましたが(失礼)、それなりに理屈を組み立てていくストーリーです。

 とは云え、予告編からしてネタを一部バラしておりますので、監獄の意外な正体なんてのは、観る前から判っているのが興醒めではありますね。劇中では、中盤までスタローン達は自分がどこにいるのかなんて判っていないのに、最初から「監獄は巨大なタンカーだったのだあッ」とバラしてしまう予告編なのは如何なものか。
 一度観てしまえば関係ないとは云え、観客の楽しみを確実に一つ奪っておりますよ(私のブログもあまり人のことは云えませんが)。
 監獄がタンカーだと判ってからも、停泊している位置を突き止め、脱出してからの段取りまで手配しなければならないので、ミステリとしてはまだ先があるにはあります。

 看守サイドで囚人達に割と親身になってくれる人物として、サム・ニール演じるドクターが登場します。やはり医は仁術か。犯罪者だと云われていても、怪我人は放っておけない。
 スタローンに「ヒポクラテスの誓い」を引き合いに出され、人道的に問題のある違法な施設からの脱出に手を貸す羽目になります。
 個人的にはサム・ニールにも、もっと出番が欲しかったところです。

 まあ、理詰めで計画を立てていっても、最後にはアクションだけでガンガン攻めていく展開になるのは当然でしょう。いざ脱獄、となってからは、怒濤の勢いでアクションが進行していきます。
 もう臭いと判っていても、お約束の演出を避けたりはしません。
 囚人仲間の一人が、「ここは俺に任せろ。お前達は行けッ」的に犠牲になるシーンも、ちゃんとあります。むしろそこをきちんと描いてくれたことは評価したいデスね。

 クライマックスは盛大な銃撃戦。今まで好き勝手に振る舞ってくれていた看守のリーダー(ヴィニー・ジョーンズ)とスタローンの壮絶なナイフ格闘もあります。還暦過ぎているとはとても思えないアクションなのはお見事デス。
 しかし、ずーっとスタローンが主役で、スタローン主導のままストーリーが進行していくので、シュワ派のファンには物足りないでしょうか。スライ派は満足でしょうが。
 一応、シュワルツェネッガーが仁王立ちで機関銃をバリバリ撃ってスタローンを援護する場面もあります。ここでは機関銃に手をかけた瞬間、わざわざシュワルツェネッガーのアップがワンカット入ります。まるで歌舞伎役者が見得を切るのにも似ております(笑)。
 数少ないシュワルツェネッガーの見せ場ではありますが、やはり相対的に見せ場が少ないと云わざるを得ませぬ。

 スタローンがカヴィーゼル所長に怒りの天誅を喰らわす、盛大な爆発シーンもお約束。
 ラストは、無事に脱獄した後にシュワルツェネッガーの隠された身分が明かされ(いや、判ってましたけどね)、男同士で健闘をたたえ合い、爽やかに笑って別れます。あまりにも爽やかすぎて、何やらスポーツ映画のようでもありました。
 スタローンを罠に嵌めた裏切り者にも、エピローグできっちり報いを受けさせて、八方丸く収まるエンディング。

 ところで本作は字幕版で公開されておりますが、日本語吹替版はどうなるのでしょう。
 昔、スタローンとシュワルツェネッガーとスティーブン・セガールが共演するアクション映画があったら、日本語吹替版は全部、玄田哲章が演じるのか、なんてアホな話を知人としていたことを思い出しますが、やはりスタローンはささきいさおで、玄田哲章がシュワルツェネッガーなんですかね(『エクスペンダブルズ』もそうですし)。
 玄田哲章の独演会的吹替バージョンは……ありませんか。




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