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2013年9月14日土曜日

ウルヴァリン : SAMURAI (3D)

(The Wolverine)

 「ドーモ、ウルヴァリン=サン。シルバーサムライです」
 「ドーモ、シルバーサムライ=サン。ウルヴァリンです」
 「イヤーッ」「グワーッ」「イヤーッ」「グワーッ」「イヤーッ」「グワーッ」
 ……と云う展開を、鑑賞前には半ば本気で期待していたのですが、そのような場面はありませんでした(まぁそうね)。でもきっとヒュー・ジャックマンと真田広之が戦う場面の前には、双方が互いに挨拶し合うシーンがあるに違いないと思っていたのにッ(そりゃワルいものの読み過ぎだ)。

 本作はマーベル・コミックスのヒーロー集団「X-メン」の中でも一、二を争う人気のキャラクター、ウルヴァリンを主役にしたスピンオフ企画の二本目です。今度は日本が舞台となると云うので予告編を見たときから非常に期待しておりました。
 結果、予想以上に正確な日本が描かれていて驚きました(もっと奇妙な日本で良いのに)。
 場面によっては、地理的に不可解なワープが描かれるのは御愛敬でしょう(増上寺から秋葉原経由で上野駅まで走って逃げるとかね)。

 それにしてもX-メンの映画はマーベル・コミックスの映画化作品の中でも多いですねえ。最初の三部作──『X-メン』(2000年)、『X-MEN2』(2003年)、『X-MEN : ファイナル ディシジョン』(2006年)──だけでなく、スピンオフとして『ウルヴァリン : X-MEN ZERO』(2009年)と『X-MEN : ファースト・ジェネレーション』(2011年)があって、本作で六作目。
 更に次回作として『X-MEN : デイズ・オブ・フューチャー・パスト』(2014年公開予定)も控えているとか。本作には『デイズ・オブ・フューチャー・パスト』へ繋がる場面もあったりします。
 まぁ、マーベル・コミックスの映画化作品は大抵、エンドクレジットが続いた後にオマケが付いて来ますからね。本作も最後まで席をお立ちにならないことを強くお薦めします。
 でもスタン・リー御大のカメオ出演は本作では見受けられませんでした(見落としたかな)。

 監督はジェームズ・マンゴールド。この方の監督作品は『ナイト&デイ』(2010年)も、『3時10分、決断のとき』(2007年)も好きです。いや、『“アイデンティティー”』(2003年)以外は皆、いいんじゃないかな(でもアレだけはちょっと許せぬ)。
 ヒュー・ジャックマンとは『ニューヨークの恋人』(2001年)以来の顔合わせです。

 一応、本作には原作の──と云うか、原案になった──アメコミのエピソードがありまして、映画の公開に合わせて翻訳されて出版されております(読んでしまいました)。
 クリス・クレアモント(作)とフランク・ミラー(画)によるエピソードですが、一九八二年の作品なのでちょっと古臭い感じが漂っているのは否めません。しかし日本に対する勘違い度はコミックの方が上でしょう。いや、八〇年代のニッポンとは不思議なところです。
 どうせなら、これをそのまま映像化してくれても良かったのに(笑)。

 映画化に当たってはトンデモな描写は改めようとマンゴールド監督は腐心されたようですが、それでも原作を完全に無視することは出来ないので、やっぱり現代日本にニンジャが暗躍しております。あくまでも「忍者」ではなく、「ニンジャ」ね。
 さすがに「スモウトリ」は削りましたね。そのままなら、ヒュー・ジャックマンが力士を投げ飛ばす場面が拝めた筈なのですが。

 コミック版から一番忠実に映像化されているのは、冒頭のカナディアンロッキー山中でのグリズリーとハンター絡みの場面でしょう(そこ日本ジャナイ)。しかし動物愛護の観点からか、ウルヴァリンもむやみに殺戮するのではなく、手負いのグリズリーを苦しませぬよう止めを刺してやると云う演出になりました。
 時代によっては描写も変えていかねばならないのか(昔の作品は結構、血生臭いようで)。

 それ以降の筋は、登場人物の名前だけ同じで別物です(つまりほぼ全編)。
 しかしウルヴァリンとマリコのラブストーリーになる基本的な部分はそのままか。ついでに婚約して、金閣寺で挙式しようとするところまでやれば良かったのに。
 カナダの山出し男が日本有数の名家の子女と結婚する場面は、是非ヒュー・ジャックマンに紋付き袴を着て演じて戴きたかった。フランク・ミラーの描いたとおりにするなら、珍妙なサムライのコスプレをしなければならないのですが……。

 ウルヴァリンの設定はX-メンの長い連載の過程で、色々と追加されたり変更されたりしておりますので、なかなか映画化に際して整合性を図るのも難しいのでしょうねえ。特に今回のように後年の設定で先に映画化してから、八〇年代の原作を引っ張り出してきて映画化するともなると辻褄合わせが大変です。
 本作でも、既にウルヴァリンは「不老不死である」ことになっていて、日本を訪れるのも矢志田家当主が死にかけており、別れを告げる為と云うことになっております。

 だから当主と初めて会った太平洋戦争中の出来事が回想シーンで語られたりします。
 長崎に原爆が投下されたまさにその時、二人は日本兵と米軍の捕虜として出会っていたと云う設定で、古井戸を改造した独房の描写が巧いです。詳細は語られずとも、一人だけ独房入りしている図がいかにもウルヴァリンらしい。
 時代的には『X-MEN2』や『 X-MEN ZERO』よりも以前なので、ウルヴァリンにはまだアダマンチウム製の爪は無く、変形した骨が飛びだす描写になっております。チラッとしか映らない場面にも細かい配慮が行き届いているのを感じました(マニアはうるさいからね)。
 それにしても原爆の高熱にも耐えるところが凄まじい。どこまで不死身なんだよ。

 本作では、ウルヴァリンがあまりに不死身であるので、一時的に再生能力に異常が生じる設定が採用されました。まぁ、そうでもしないと無敵ですからね。
 普段ならほぼ瞬時に塞がる傷が次第に治らなくなっていく。満身創痍で戦うウルヴァリンの図と云うのは、なかなか珍しいですね。
 但し、あまり理屈については考えられていないようで、よく判らない小型メカが心臓にへばり付くと再生能力が抑制されると云う、ビジュアルでのインパクトはあれど意味不明なところはコミック的です。

 また映画独自の描写として、ウルヴァリンがジーン・グレイ(ファムケ・ヤンセン)の幻をたびたび見る描写が挿入されています。映画化作品としては先の三部作があってからになりますので、ウルヴァリンがジーンの死が忘れられないのは判ります(だからマリコとは結婚しない)。
 ちゃんとファムケ・ヤンセンを登場させるあたり、ファン・サービスにも怠りなしです。

 本作で初登場になるのは、矢志田家の二人の女性、マリコ(TAO)とユキオ(福島リラ)。どちらもモデル出身で映画出演が初めてというのが信じられないくらい素晴らしいです。特に福島リラのアクションは実に見事です。
 余命幾ばくも無い矢志田家当主役はハル・ヤマノウチ。イタリアに帰化した俳優さんだそうで、何作か出演作も観ているのですが記憶に無いデス(汗)。

 そして矢志田家の次期当主と目されているシンゲン(「矢志田信玄」と書くのか)役が、真田広之です。コミック版のトンデモなシンゲン像を見事に払拭してくれました(フランク・ミラーが描くシンゲンはもろに大名でして。まぁ、名前が戦国武将なので正しいと云えば正しいけど)。
 剣の達人であり、殺陣の振付もお見事デス。劇中ではヒュー・ジャックマンと壮絶に斬り結ぶ場面があり、剣の腕では凌駕しているのに──二、三回は叩っ斬っているハズ──相手の再生能力に負けてしまいました(なんかズルい)。

 総じて日本人役は日本人俳優が演じているので、劇中で話される日本語は実にネイティブです。しかも皆さん英語の台詞もきちんと喋っている(多分)。
 日本人同士の会話はすべて日本語で行われます(英語字幕が表示される)。
 ウルヴァリンのことも「クズリ」と呼んだりします。イタチ科の哺乳類「貂熊」ですが、何もそこまで日本語に翻訳しなくても……。
 個人的に「クズリ」と云うと、いがらしみきおによる四コマ漫画を思い出してしまいます。「クズリくん」とウルヴァリンではイメージに落差がありすぎる。

 ところで日本人キャラの中で、只一人だけ日本語の台詞が残念な人がいました。マリコの幼馴染みであり、矢志田家を守護するニンジャ軍団のリーダー、ハラダ役がウィル・ユン・リー。
 何故、そこだけ韓国系俳優になってしまうのか(もう一人、法務大臣役も韓国系の俳優さんでしたが)。ハリウッドに於ける大人の事情という奴なんでしょうかねえ。
 ハラダ役も若手の日本人俳優とかにしてもらいたかった。しかも選りに選ってニンジャ役が韓国系とは……またトンデモな起源説に拍車が掛からぬ事を祈るばかりデス。

 コミック版に登場したミュータントの敵役ヴァイパーも、本作にちゃんと登場させてくれました(かなりムリヤリ感が漂いますが)。ヴァイパー役はスヴェトラーナ・コドチェンコワです。
 『裏切りのサーカス』(2011年)ではトム・ハーディの恋人役になったロシア人女性でしたが、本作では実に怪しげな毒蛇女を演じてくれております。ちゃんとヘビらしく脱皮もしてくれます。

 同じくコミック版でヴァイパーとセットで登場するシルバーサムライが、本作でのウルヴァリン最大の敵になっておりました。全身アダマンチウム製の武者ロボットな描写が楽しいです。
 実はロボットではなく、強化外骨格と云うか、パワードスーツだったりするのですが、その正体は映画オリジナルです。コミック版ではハラダがシルバーサムライなんですけどね。

 本作は日本ロケによる景観が印象的でした。地理的なつながりはともかく、東京でのロケや、パチンコ屋やラブホテルといった外人さんには珍しい光景を積極的に使っているのが楽しいですね(但し、クライマックスの最終決戦の場所だけよく判らん)。
 秋葉原でもロケしているので、萌え萌えメイド喫茶なんかでヒュー・ジャックマンに戦ってもらっても良かったような……。
 それから、さすがにシリアスなアクション映画ですので、他の「最近の日本を描いた洋画」によくあるアレは無かったデス。ヒュー・ジャックマンが洗浄機能付トイレに入るシーンも密かに期待していたのですが。

 本作は、ハリウッド映画にしては日本文化へのリスペクトも感じられ、日本人が観るとかなり楽しいのではないでしょうか。まぁ、3Dで観なくてもいいとは思いますが。
 新幹線の屋根の上での壮絶バトルとか、今まで邦画ではお目にかかれなかった場面も沢山あります。多分、よく知りすぎていると端からそんな場面にはリアリティが無いと思ってしまうのでしょうが、マンゴールド監督はいい具合に知りすぎていなかったようです。

 そして恒例、エンドクレジット後のお楽しみ。早く次回作の『X-MEN : デイズ・オブ・フューチャー・パスト』が観たいです。
 でもウルヴァリンの爪はどうするつもりなんでしょうねえ。また改造するしかないのかしら。




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