作品自体が、レイ・ハリーハウゼンと本多猪四郎に捧げられているのもマニアには嬉しい。ギレルモ・デル・トロ監督、判っている人ですねえ。出来ればジェリー・アンダーソンや円谷英二にも捧げて戴きたかったところですが、それを云い出すとリスペクトする人達が増えすぎますか。
冒頭、二つの用語が解説されます。
巨大ロボは「イェーガー」。ドイツ語です。そして怪獣は「カイジュー」。日本語です。何故、ドイツ語と日本語なのか説明はありません。訊いても仕方が無いことなので、そこはスルーしてあげましょう。
本作では「モンスター」などとは決して呼ばれません。すべて「カイジュー」。しかも大きさによって、カテゴライズされている(笑)。
劇中では「カテゴリー3のカイジューが上陸」などと云われます。まるで台風かハリケーンのような扱いですが、そこも日本の特撮映画の精神に則っておられる。デル・トロ監督の造詣の深さが半端ではありません。
本作は六〇年代から七〇年代にかけて日本で一大ブームを巻き起こした、昔懐かしい怪獣特撮映画と、SFロボットアニメの「何処かで見た」設定や展開がテンコ盛りです。実に楽しい(ええ、もう直撃を受けた世代ですから)。
しかしデル・トロ監督はどちらかと云うと、怪獣よりも巨大ロボの方にコダワリをお持ちのようであります。
まぁ、怪獣は「巨大な異形の生物である」以上の解説は不要ですからね。本作では何体もの怪獣が手を変え品を変え登場しますが、デザインの差異よりも「巨大であること」の描写の方が際立っており、細かい部分まで見せてくれません。しかしそれでいい。怪獣は全体像がハッキリ見えない方が凄みがありますからね。
一方、巨大ロボの方は人類側の描写でもありますので、詳細です。
遠隔操作ではなく、パイロットが乗り込んで動かす。人間の動きをトレースする直感的な操縦システムである。パイロットへの負担を軽減する為に、二人の人間が精神をシンクロさせる必要がある、等々。
細かいところを突っ込んでいけばキリがありませぬが、こうでないとイカンですね。
また、発進に際しては「頭部がコクピット」であり、「乗り込んでから、格納庫内を移送」されて、「頭部と胴体がドッキング」して、起動する。この様式美に異を唱えていては楽しむことは出来ません。
これは、そういう作法なのです。
まぁ、発進シークエンスはもっともっと重厚に描いても良かったのにとか、ヘリコプターに吊り下げられて海上輸送されるのは如何なものかとか、注文を付けはじめればキリがないのも事実ですが。
そこまでやるなら自力で空を飛べとか、合体変型もしてほしいとか。あ、でも頭部と胴体が合体はするのか。
このあたりのロボット描写の設定の取捨選択は趣味の範疇ですねえ。今回はデル・トロ監督の嗜好がそっちの方向へ向いていただけと云う感じです。だから必然性はあまりない。
バーチャル機能で遠隔操作するとか、人工知能(勿論、美少女型)にサポートさせるとかでも、一向に差し支えありませぬが、今回は「この様式」で演出するのだと明快に示されております。
長期にわたる対怪獣戦争のおかげで、イェーガーも世代を重ねて、新型と旧型に別れております。
主人公のライバル役が操縦するのが最新鋭で機動力のある新型ロボであるとか、旧型は「原子力で動く、無骨なロボ」であるとか、もういちいち設定が「皆まで云うな。判っているから」と云わんがばかりのお約束。ライバルのパイロットが主人公に敵意を燃やしているのもテッパンすぎます。
対怪獣兵装がイェーガー毎に異なっているのもお約束ですねえ。ロケットパンチとか、腕にカッターとかアニメでお馴染みの兵装が次々に映像化されるのが堪りません。
巨大ロボが剣を振るうのも素晴らしい。チェーンソードか。個人的にはジャラジャラ剣と呼びたい。
でもドリルを装備したイェーガーも欲しかったデス。
更に欲を云うなら、何体も登場する新旧イェーガーのお国柄がもっと表れていれば面白かったのですが。
太平洋上の海底に異次元に通じる裂け目が周期的に生じるようになり、そこから巨大な怪獣が侵入してくる。よって被害を受けるのは、もっぱら環太平洋諸国──だから『パシフィック・リム』なのね──であり、各国が総力を結集して製造した巨大ロボ、イェーガーが怪獣を迎え撃つ。
なので、アメリカ製、ロシア製、中国製、オーストラリア製のイェーガー等が登場します。勿論、日本製も。他にも設定上は色々あるようでしたが、劇中に登場するのは主にこれだけ。
でも日本製イェーガーの名称が〈コヨーテ・タンゴ〉と云うのは如何なものか。もうちょっと日本らしい呼び名にして戴きたかったです。〈マツモト一四号〉でないだけマシかしら。
中国製イェーガーは〈クリムゾン・タイフーン〉ですが、機体に漢字で「暴風赤紅」と書いてあるのに。
中国製イェーガーのパイロットは三人兄弟だからイェーガーも三本腕だとか、ロシア製イェーガーのパイロットはマッチョな夫婦だからイェーガーも頑丈な重量級だとか云うあたりは面白いのに。
出演しておられる俳優さん達は、見た目が如何にも「それらしいキャラクター」ではありますが、馴染みのない人達ばかりです。
主演のチャーリー・ハナムは『トゥモロー・ワールド』(2006年)にも出演しておられますが、覚えが無い。
司令官役のイドリス・エルバは『マイティ・ソー』(2011年)や、『プロメテウス』(2012年)、『ゴーストライダー2』(同年)と、最近よくお見かけします。
しかし菊地凛子と芦田愛菜とロン・パールマンはすぐに判りますね(笑)。
長年の相棒だった兄を亡くしたチャーリーと新しくペアを組む女性パイロットが菊地凛子です。パイロットスーツ姿も凛々しいし、パイロット選抜時の棒術アクションも決まってます。
菊地凛子の回想シーンに登場する少女時代を演じているのが芦田愛菜ちゃん。菊地凛子は英語の台詞も流暢に話しますが、愛菜ちゃんはどうするのか。
と思っていたら、愛菜ちゃんには台詞がありませんでした。初期に襲来した怪獣(カニ型か)に襲われそうになったところを、若き日の司令官が操縦するイェーガーに救われると云うシーン。特に台詞はないものの、恐怖に怯える演技だけでも大した子役です(出番は少ないですけどね)。
怪獣襲来で孤児となり、パイロットを引退した司令官が我が子のように育てていたと云う、これまたどこかのロボットアニメで見たような設定です。
本作はまず字幕版で鑑賞しましたが、やはり3D吹替版でも鑑賞しなければなりません。
主人公のチャーリーは杉田智和、エルバ司令官が玄田哲章、そして菊地凛子は林原めぐみが吹き替えております。日本人俳優が出演している洋画の日本語吹替版は、本人が吹き替えるのが最近の流れであると思いましたが(渡辺謙なんかはそうしてますね)、本作に於いては別人か。
しかし杉田智和、玄田哲章、林原めぐみと、三人揃った日本アニメ界の声優さんによる吹替の方が内容にしっくり来ますので、本作に限ってはこれが正解であると思いマス。
他にも本作の日本語吹替版は、古谷徹、三ツ矢雄二、池田秀一、千葉繁といった、あまりにも日本のロボット・アニメに馴染み深いベテラン声優さんのオンパレードなのが嬉しいデスね。
そしてロン・パールマン。デル・トロ監督作品だから呼ばれたのでしょうか。今回はヘルボーイではなく、怪しげな怪獣商人役を楽しげに演じておられます。
香港を拠点に、退治された怪獣の屍体から無許可で臓器を切り取り、得体の知れない漢方薬にして売りさばいている闇商人のボスです。中国ならそういうことをする人もいそうなところがコワイ。
こちらもあまり出番はありませんが、対怪獣戦争に終止符を打つ作戦に重要な役割で関わってきます。趣味の悪そうな成金趣味の衣装が素敵デス。
イェーガーのパイロットの精神をリンクさせる装置を使って、怪獣の脳とコンタクトしようなどと云うマッドサイエンティストが司令部内にいるのもお約束ですが、ロン・パールマンから調達してきた怪獣の脳から驚くべき事実が明らかになる。
怪獣は何者かが明確な意思を持って、こちら側に送り込んでいたのだ。
うわ、異次元人の侵略か。ヤプールか。だとするとアレは「怪獣」ではなくて「超……
異次元の裂け目が接続されるサイクルが次第に加速し、出現する怪獣も次第に大型化していく。次は二体同時出現もあり得ると云う事態に、司令官は核兵器を使用した裂け目自体の破壊を目論む最終作戦を立案するが、使用できるイェーガーはもはや残り少ない。
しかも乾坤一擲の反撃作戦前に、肝心なパイロットの数まで足りなくなる。
このあたりに来るまでに、イドリス・エルバ演じる司令官が、かつてはイェーガーのパイロットだったが健康を害して一線を退いていること、医者からは「次にイェーガーに乗ったら死ぬ」と宣告されていることがちゃんと説明されます。実に判り易い「死亡フラグ」です。
案の定、最終作戦には司令官自らがイェーガーに搭乗することになるわけですが、もはやイドリス・エルバが主役を掠っていくようなイキオイです。貫禄もあるし、覚悟を決めた漢の表情が素晴らしいデス。
最後に出撃するのは、主人公達の旧型〈ジプシー・デンジャー〉と、司令官とライバル野郎の新型〈ストライカー・エウレカ〉の二機のみ。そして海底での最終決戦。
二体同時出現だけでなく、かつてなく巨大なカテゴリー5の出現。
もう黄金のパターンのつるべ打ちな最終回ノリ演出が実に熱い。本作はもう堂々たる熱血スーパーロボット映画です。
いやぁ、こんな映画を観ることが出来るなんて、生きていて良かったですわ。最後のオチに至るまで、外しません。予想できる展開が、その通りに進行してもまったく不満では無いのが、黄金の黄金たる所以ですねえ。
ラミン・ジャヴァディの熱血劇伴も素晴らしいです。サントラCDも聴きましょう。
熱いバカ映画なエンディングのあと、オマケでロン・パールマンが笑わせてくれますので、席は最後までお立ちになりませぬよう。
ところでエンドクレジットに流れる主題歌はロン・パールマンの娘さんのブレイク・パールマンが歌っているそうな。あまりお父上には似ていないようで、良かったデス(失礼な)。
ランキングに参加中です。お気に召されたならひとつ、応援クリックをお願いいたします。
にほんブログ村