マイケル・ケインとシャーリー・マクレーンのコメディですからね。うん、多分、どこかで観たよ。
それが日曜洋画劇場だったか、水曜ロードショーだったか、はたまた月曜だったか土曜だったかは、もう思い出せません(汗)。
リメイクするに当たって、マイケル・ケインが演じた役はコリン・ファースになりました。これはハマっておりますねえ。真面目な堅物を演じながら、颯爽とアホなことをやっております。
シャーリー・マクレーンの方は、キャメロン・ディアスになりました。こちらは打って変わって、活動的なテキサスのカウガール。
水と油な二人が、イヤミな大富豪に一杯食わせようというストーリーです。
カモにされる富豪役は、ハーバート・ロムからアラン・リックマンになりました。こちらもハマリ過ぎなほど似合っているのが素晴らしいデス。
もはやオープニングからして、懐かしいスタイルが炸裂しております。七〇年代のお洒落で軽妙なロマンチック・コメディ路線であることが実に明確です。オールドファンであるほど、ニヤニヤと楽しめるでしょう。
三人の主演俳優をデフォルメしたアニメーションによるコミカルなオープニングは、昔の『ピンクパンサー』シリーズが甦ったかのようです。
ぶっちゃけ、ノンクレジットで本作のオープニングを見せられ、「監督はブレイク・エドワーズで、音楽はヘンリー・マンシーニだ」と云われたら、ウカウカと信じてしまうでしょう。
でも『泥棒貴族』の監督はロナルド・ニームでしたけどね。『ポセイドン・アドベンチャー』(1972年)や、『オデッサ・ファイル』(1974年)なんて、シリアスな作品のイメージが強い人ですが、SF者にしてみれば、あの超絶スカタンSF『メテオ』(1979年)の監督として忘れ難い。
一方、リメイクされた本作の方は、マイケル・ホフマンが監督しております。『真夏の夜の夢』(1999年)とか、『終着駅/トルストイ最後の旅』(2009年)あたりなら存じております。ここまで軽妙なコメディ作品が撮れる方とは思いませんでしたが、本作の脚本がジョエルとイーサンのコーエン兄弟であると知って納得しました。
ちなみに『泥棒貴族』の音楽は名匠モーリス・ジャールでしたが、本作の劇伴はロルフ・ケントです。
『キス&キル』(2010年)の音楽もこの人でした。懐かしめのコメディタッチなテーマ曲を作らせたら巧いデスねえ。『ヤング≒アダルト』(2011年)の音楽もこの人か。
さて、しがない美術鑑定家のコリン・ファースは、高名な美術品コレクターでもある大富豪アラン・リックマンのお抱え鑑定士でありましたが、傲慢な富豪の態度にほとほと嫌気がさす。もうこんな自己中な金持ち野郎にへつらうのはヤメだ。
しかし職を辞める前に、何とかリックマンをヘコませてやりたい。そこで思いついたのが、名画を使った贋作詐欺。友人の画家に作らせた贋作を、高額で売りつけてやろうと計画する。
『泥棒貴族』の記憶があやふやなので、どこまでオリジナルに忠実なのかは定かではありませぬが、何とも「あの頃のロマンチック・コメディ作品」の雰囲気がぷんぷんするような演出が随所に見られます。
ストーリーと云うよりかは、スピリットがそっくりな感じ。
あまりにも懐かしい雰囲気で進行していくコメディですが、果たして現代でもウケるのかしらと心配なところもあります。個人的には最初から最後までニヤニヤし放しでしたが。
コリン・ファースの演技も、見事にマイケル・ケインの若かりし日を彷彿とさせますが、大真面目にバカをしているあたりに、ピーター・セラーズ的なものも感じたりします(過剰なドタバタではありませんけど)。
その所為か、アラン・リックマンが尚のことハーバート・ロムに似てきたように感じられます(ピーター・セラーズとハーバート・ロムと云えば、ピンクパンサーですねえ)。
ところで印象派の巨匠クロード・モネが描いた名画の一つに『積み藁』と云うのがあります。
「収穫後の畑に積まれた干し草の山」を描いた作品で、連作になっているそうな。全部で二五点にもなるそうで、同じ主題を異なる条件──季節、時刻、天候──の光の下で描き分けた作品群として知られているとか。
本作では巨匠が同じ日に描いた対になる作品として『積み藁・夜明け』と『積み藁・夕暮れ』の二作があると設定されています。巨匠は自宅近くの畑で、日がな一日、ワラの山ばかり描いておったようで。
しかし第二次世界大戦が勃発し、フランスの名画はナチスドイツの略奪するところとなり、ゲーリングの私邸にコレクションされていたが、終戦後『~夕暮れ』の方は行方知れずに。
コリンの計画は、この行方不明だった『~夕暮れ』が発見されたと云う触れ込みで、大富豪リックマンに買い取らせようというもの。
モネの名画を使った贋作詐欺だから『モネ・ゲーム』と云う邦題になるワケですが、なんかイマイチです。“Gambit” を直訳した「策略」でも味気ないし、やはりオリジナル版と同じく『泥棒貴族』にした方が洒落ていてイイ感じがすると思われるのデスが。
苦労して探し出したのが、大戦時ゲーリング邸に突入した連合軍の小隊指揮官の子孫。ここから名画が発見されたと云えば、出自を調べられても疑われることはないし、信憑性も増す。
しかし隊長の孫にあたる女性は、テキサスでカウガールとしてトレーラーハウス暮らしをしていた。
このワイルドでフランクな田舎の姉御が、キャメロン・ディアス。
目尻に小皺が目立つお歳ですので、ラブコメに出演するには、かなりギリギリな感じがいたしますが、コリン・ファースやアラン・リックマンと堂々と渡り合うあたりがサスガの貫禄です。
セクシーな下着姿も惜しげもなく披露してくれますし。まだまだイケるか。
本作では主役の三人には必ず脱ぐシーンが用意されています。
コリン・ファースはパンツ丸出しになるだけで、キャメロンの下着姿より大人しいですが、過激なのはアラン・リックマン。堂々と全裸を披露してくれます。尻丸出しです。
アラン・リックマンの尻と云えば、かつて『ドグマ』(1999年)で、ズボンを降ろして尻丸出しになる場面がありましたが、画面には作り物のニセ尻が映ったのが不満でした。しかし本作ではナマの、ちょっとタルんだ尻を披露してくれます(あまり長く見ていたくない代物ですが)。
序盤に、コリンが相棒である贋作画家(トム・コートネイ)と共に、キャメロンをスカウトしに行く場面があります。
そこから物凄く順調にストーリーが進展し始め、あれよあれよと云う間にアラン・リックマンから大枚巻き上げ、計画は見事に成功。なんじゃそりゃ。
と、思ったら全部、コリンの白昼夢だったと云うオチが付きます。どうもコリンは楽天家で、自分に都合良く物事が運ぶと思いがちであるようです。
この長めの白昼夢が、以後の展開の伏線になるわけで、このあとに語られる現実はすべて白昼夢とは正反対に進行して笑わせてくれます。かなりベタなギャグですが、王道です。
爆笑するようなコメディではなく、ユルユルと楽しむのがよろしいのでしょう。
しかしこの展開を観ていて、日本語吹替版だとどのようになるのだろうと考えてしまいました。きっと広川太一郎か山田康雄あたりが吹き替えてくれたら、ものすごく笑えるのでしょうねえ。本作を七〇年代の洋画吹替声優さんで観てみたいものです。もう無理か。中村正ならまだ御存命ですが。
イマドキの声優さんではどうでしょうか。コリン・ファースなら堀内賢雄だろうから安心か。
計画通りにすんなり運ばず、ドタバタするコリンと対照的に、富豪リックマンに気に入られるキャメロン。田舎の姉御かと思いきや、意外とビジネスセンスも持ち合わせており、キャメロンに助け船を出してもらいながら、何とかコリンの計画は進行していきます。
劇中では、富豪のビジネス上の取引相手として、日本の商社の一団も登場し、ベタなギャグを披露してくれます。
アホな東洋人ネタかと思いきや、それを逆手に取った作戦だったりしますが、観ていてかなりイタい描写ではあります。役者さんが皆、ネイティブな日本語を喋ってくれたのが嬉しい。
本作で登場する日本人はほぼ在英の日本人俳優だそうな。伊川東吾、藤本政志、石田淡朗といった方々です。伊川東吾はどこかで見た顔だと思いましたら、『ジョニー・イングリッシュ/気休めの報酬』(2011年)にも出演しておられました。
実は八〇年代に富豪リックマンはモネの『~夜明け』をめぐって、日本商社の会長(伊川東吾)とオークションで競り合ったという経緯があり、ここで『~夕暮れ』も手に入れて、ライバルに差を付けようとしていたと云う背景も語られ、ベタな日本人ネタだけではなく結末の意外な展開の伏線になっているのが見事でした。
八〇年代は日本人が名画を買い漁っておりましたからねえ。もう遠い昔ですねえ。
モネの贋作を鑑定させようと富豪が呼び寄せるライバル鑑定士として、スタンリー・トゥッチが登場したり、なかなか一筋縄ではいかない展開です。しかしこんなところで、スタンリー・トゥッチまで顔を見せてくれるとは。なにげに豪華な配役ですね。
日本語吹替なら、特に根拠なくオネェ言葉で喋ってくれそうなスタンリーが素敵でした。芸達者な人です。
一点だけ惜しいのは、富豪の邸宅にあるギャラリーのセキュリティに、生きたライオンが使われているというネタです。画面の合成具合に残念なところがありまして、テキサス娘キャメロンが投げ縄でライオンを縛り上げてコリンを救うと云う場面が、ちょっと興醒めでした。
俳優を危険な目には遭わせられないというのは理解できますが、無理して合成するなら別のネタでも良かったような気がします。
贋作詐欺の行方も一転、二転と意外な展開を見せ、最後には万事ハッピーに納まるわけですが、ラストで急転直下、策士になるコリン・ファースがカッコ良すぎでしょう。あれでは中盤のドジ展開は意味なしになるのでは。それともあれは演技か(誰に見せていたのだ)。
実は何もかもが計算ずくで、してやったりなコリンのドヤ顔に、ホンマかいなとツッコミを入れたくなりますが、痛快な結末なのでヨシとしましょう。
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