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2013年1月25日金曜日

エンド・オブ・ザ・ワールド

(Seeking a Friend for the End of the World)

 小惑星が地球に激突して人類は滅亡すると云う、破滅SFテーマな作品ですが、SF色は皆無ですねえ。一頃は『アルマゲドン』(1998年)とか『ディープ・インパクト』(同年)とか、小惑星衝突ネタのディザスター・ムービーが流行りましたし、近年もラース・フォン・トリアー監督・脚本で『メランコリア』(2011年)なんてのもありましたが、それらに比べると実にロマンチックでハートウォーミングな破滅SFになっております。

 奇妙ですが味わい深い作品でした。
 監督は本作が初監督となるローリーン・スカファリア。ラブコメ映画『キミに逢えたら!』(2008年)の脚本を書かれています(でもビデオスルーされており未見デス)。同様に本作でも、自分で脚本を書かれておられる。
 世界の滅亡を前に(または死ぬ前に)、貴方は何がしたいか──と云う問いかけはよく聞くネタですし、『ディープ・インパクト』も半分はそんな感じのストーリーでした。本作は『ディープ・インパクト』から政治的な描写やスペクタクルな特撮場面を抜いて、市井の登場人物だけにスポットを当てたような感じの物語になっております。
 『ディープ・インパクト』の監督ミミ・レダーも女性ですし、やはり女性の監督だと地球の滅亡を描いても一般市民目線になるのでしょうか。マイケル・ベイとは対極的ですね。

 主演はスティーヴ・カレルとキーラ・ナイトレイ。
 スティーヴの方は『ゲット スマート』(2008年)以来、あまりお見かけしていなかったような。『怪盗グルーの月泥棒』(2010年)も日本語吹替版で観てしまいましたし。『ラブ・アゲイン』(2011年)とか観ておけば良かったか。
 キーラの方は昨年観た『危険なメソッド』(2011年)の迫真の演技が忘れ難い。
 本作ではスティーヴのトボケたコメディ演技は見られず、割とシリアスな演技に徹しておられます。それでもやっぱり朴念仁なキャラクターは巧いものデス。

 冒頭で、地球に接近する小惑星を迎撃するべく発進したスペースシャトルが消息を絶ったことがラジオのニュースで報じられている。
 小惑星に接近した途端に、アクシデントがあったのか、交信が途絶えてそれっきり。
 これが最後の地球防衛の手段であったらしく、もはや状況は絶望的らしい。
 ラジオからのニュースキャスターの声が淡々と「これで人類滅亡が確定しました。あと三週間です」なんて報じている。死刑宣告ですね。

 さて、そうなると世の中はどうなるか。
 本作では二種類の人間に別れるという風に描かれております。
 まず、働かない人。仕事を辞めて遊び始める。旅行へ行く。やり逃していたことを片付けようと人生の清算に勤しむ人々。悪いことではないか。
 次に、何事もなかったかのように働き続ける人。むしろ以前はグータラだったのに、急に真面目に働き始め、職務遂行に燃え始める人。TV局も使命感に燃える人達だけで細々と放送が続けられる様子も描かれます。
 例外的に、ごく少数ですが自殺する人もいます。むしろ自殺者は急増しそうなものですが、本作はそちらにスポットは当てません。

 大多数はきっと仕事を辞めてしまうのでしょうが、働き続ける人も少数だがいます。
 本作では、電気や水道といった社会的インフラは最後まで崩壊しませんでした。そんなことを描く作品でもありませんし。
 地球最後の日まで停電は起こらず、発電所も変電所も動き続けているようです(きっと頑張っている人達がいたのですね)。
 さして社会的な混乱は起こりません。交通渋滞も初めのうちだけ。小さな暴動と略奪が散発的に発生しますが、すぐに納まるみたいです。
 このあたりはリアルなシミュレーションとは言い難いのですが、本作はそんなことが描きたいわけではありませんね。もっと人生哲学的なストーリーです。

 スティーヴの奥さんは翌日から姿を消してしまう。以前から亭主に愛想を尽かしていたのか、不倫相手とどこかへ行ってしまったようです。
 冴えない会社人間スティーヴは、職務遂行に燃えると云うよりも虚脱状態の抜け殻のようになって、取り残されたままダラダラと会社に勤め続ける。勤め先は保険会社であるのが、ちょっと笑えます。三週間後に世界滅亡が迫っているのに、今更保険商品の勧誘やら、保険金の支払い手続きやらやっても何になる。
 案の定、残っている社員は数えるほどしかおらず、取締役は皆、消えてしまったようです。
 ミーティングの席上で「誰か最高財務責任者になりたい人はいるかな。今ならすぐになれるぞ」なんて云われたりしています(社長が一人だけ残っているのもナンカ可哀想ですねえ)。

 世界が終わると判っているので、享楽的なパーティがあちこちで行われ、ドラッグも大盤振る舞い。もはやモラルもへったくれもないか。ゲイのカミングアウトも相次いでいるようで。
 もう独身者達のパーティはやりたい放題のようです。スティーヴもそこへ招かれるものの、イマイチ同調できず疎外感を味わうばかり。

 一方、キーラは同じマンションの階下に住んでいる女性です。家族がイギリスにいるものの、最後の国際線のフライトに間に合わなかった──航空業界は割と早めに業務を停止してしまうようです──のを嘆いているところで、スティーヴと知り合う。同じマンションの住人でも顔を合わせたことがないと云うのはよくあることです。
 話をして打ち解けると、やおらキーラが思い出したように郵便物を持ってくる。誤配達された手紙をそのまま持ち続けていたらしい。今まで隣人への関心が薄かったのねえ。
 三ヶ月以上前に届いていた手紙は、学生時代の恋人からの手紙だった。そこには今でもスティーヴを愛しており、会いたい旨が綴られていた。

 一念発起したスティーヴは、世界が終わる前にかつて愛した女性のもとへ駆け付けようとするが、その手段がない。キーラと取引して、車を貸してくれたら、自家用飛行機を持っている知人を紹介してやると持ちかける。
 かくして商談は成立し、冴えない男とやたら奔放な女の二人が旅に出る。
 その途中で出会う様々な人々との出会いと別れのエピソードが本作の主題でありまして、これはロードムービーだったのですね。
 スティーヴとキーラのまるで性格の異なる二人の凸凹ぶりがユーモア溢れるタッチで描かれていきます。その道中で二人が次第に親密になっていく。
 劇中ではキーラが音楽ファンである設定で、往年のポップスやロックの名曲がなかなかイイ感じで使用されておりました(ビーチ・ボーイズとか)。
 本作は音楽的にもなかなか聴きものです。

 あまりバイオレイスな描写は描かれませんが、劇中では問答無用に人を射殺して逃げていくような輩も登場します。
 また、人類滅亡を信じずに今から復興の準備を整えている連中もいます。チタニウム製のシェルターに食料をしこたま貯め込んでおりますが、地球がなくなることは考えていないのか。
 宗教にすがる人々もおり、対応は様々です。

 道中ではスティーヴと長年疎遠にしていた父親との和解も描かれます。実は自家用機の所有者が父親だったわけで、ここで登場する親父がマーティン・シーンだったのが軽くサプライズでした。断絶していた親子の絆が終末を前にして回復される。
 最近のマーティンは味わい深い役が多い。出番は少ないけれど、なかなか印象的です。
 親子二人でポーチに腰掛けハーモニカを演奏するのは、穏やかで心温まる図です。

 しかし結局、スティーヴはかつて愛した恋人に会うのを止めてしまう。
 無論、それはキーラに惹かれていることの証拠なのでしょうけど。「もう何も変えたくない」と考える理由が少し弱いように思われました。
 そしてキーラの方もイギリスに帰国するのを諦めてしまう。電話で無事を確認し合っただけで満足したのか(衛星電話はまだ使えると云う描写にも驚きでしたが)。
 最期は本当に愛した人と一緒にいたいと云うのは判りますが、少し強引でしょうか。

 でも小惑星衝突に関しては、イマイチ実感が湧きませんでした。本作ではよくあるSF映画のように、地球に迫ってくる小惑星をCGで迫力たっぷりに見せてくれるようなことは一切いたしません。
 だから劇中で何度も「あと何日」とカウントダウンされても、どうにもリアルに感じられない。
 夜空を見上げて、迫ってくる小惑星を見たりする場面も無し。
 ひょっとして誤報だったとか、ギリギリで回避されたとか、実は夢オチだったとか、ナンカそういうエンディングもありなのかなーと思っておりました。
 でも違いました。破滅は間違いなくやってくる。

 二人きりで見つめ合うスティーヴとキーラ。
 考えてみればキーラのことをよく知っているわけではない。キーラは自分の生い立ちや、少女時代の思い出を語り始めるが、窓の外からは不穏な地響きや爆発音が聞こえてくる(でも決してカメラは窓の外を映しません)。
 もう全部話している余裕などありはしない。「人生はいつだってそう」ですけど。
 スティーヴは最後に告げる。「君に出会えて良かったよ」

 そして唐突にエンド。本当に地球は滅亡してしまったらしい。救済策なし。
 『メランコリア』とオチは同じですが、後味はこちらの方が断然いいです。
 やり残したことや思い残したことは色々あっても、愛する人と一緒ならいいじゃないか。
 とりあえず私も、人生の最後は誰かに感謝の言葉を伝えて幸福に迎えたいものであります。


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