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2013年1月23日水曜日

ロンドンゾンビ紀行

(Cockneys Vs Zombies)

 ゾンビ映画にもシリアスなものとコミカルなものがありまして、本作は後者。『ショーン・オブ・ザ・デッド』(2004年)や『ゾンビーノ』(2006年)に連なる系譜ですね。
 ゾンビ映画の原典にして金字塔であるロメロの『ゾンビ』(1978年)にオマージュを捧げたのが、『ショーン・オブ・ザ・デッド』であるワケですが、本作はその『ショーン~』に多大なリスペクトとオマージュが捧げられております。他にも『ブレイン・デッド』(1993年)へのオマージュもチラリとありました。

 題名からして「お笑い系ゾンビ映画」と判る作品ですが、ゾンビの演出に非常に真摯なものを感じました。
 基本に忠実なところがいい。低予算でも、手を抜いていない感が伝わる良作です。
 監督は本作が初監督作品となるマティアス・ハーネー。CM監督出身であるので腕は確かです。それにゾンビ愛もある。

 邦題が『ロンドンゾンビ紀行』で、ロンドンが舞台であるのが明白ですが、原題はもっとダイレクト。 “Cockneys Vs Zombies” ですからねえ。『コックニー対ゾンビ』。
 「ロンドン」よりも更に地域限定色が強く、日本人にはよく判らないから大雑把に「ロンドン」にされたのでしょうか。
 コックニーとはロンドンの東側「イースト・エンド」と呼ばれる地域に住む人達を指し、下町というか、低所得な労働者階級の街、と云うニュアンスがあるそうな。この界隈では話される言葉も独特で、コックニー訛りと呼ばれ、伝統的に「汚い」英語であると上流階級から非難されることがあるとか。
 ミュージカル映画『マイ・フェア・レディ』(1964年)で、オードリー・ヘップバーンが喋っているのがコックニー訛りとな。そうか「ヘンリー・ヒギンズ」を「エンリー・イギンズ」と発音したり、「エイ」を「アイ」と発音するアノ訛り方か。スペインの雨は主に平地に降る。
 してみると原題を直訳すると『江戸っ子対ゾンビ軍団』みたいな感じなんですかね(笑)。

 地域ローカルなネタは劇中では他にも見られ、コックニーの伝統的なスラングがギャグとして使われております。「押韻スラング」と呼ばれる、言葉の韻を踏んで別の言葉に置き換えていくゴロ合わせみたいな喋り方で、日本語字幕がかなり苦心されているように見受けられました。
 劇中で老人の一人が、ゾンビを見て「外にはトラがうじゃうじゃいるぞ」と云う台詞があります。
 「なんでゾンビがトラなんだ」と尋ねられて、答えるのがひとつのギャグになっている。「風が吹けば桶屋が儲かる」式に韻を踏んだ単語を並べて、「だからゾンビがトラ」と説明するのですが、日本人には非常に判り辛いですね。ヘタクソな伝言ゲームのような。
 そんな「つまらないネタの解説を延々と続けていく」のもギャグにしているワケで、非常にイギリス映画らしいオフビートなコメディです(ユルいとも云う)。
 劇中では他にもコックニー訛りで喋る台詞が多々あるものと察せられますが、ヒアリング能力低いのでよく判りませんデス。

 ストーリーは単純明快。ある日、ロンドン市街にゾンビが大発生し、下町育ちの高齢者達がゾンビと戦うというもの。
 このあたりの導入部や、ゾンビの解説は極力省かれています。言わずもがなだし、観りゃ判るだろうと云わんがばかりです。
 実際、あまりにも基本に忠実なのでまったく説明不要なのがいいですね。

 物語はイーストエンドの再開発で、マンション建設中の現場から始まります。二人の作業員がショベルカーで得体の知れない墓所を掘り当ててしまう。
 開けてはいけないものをあっさり開けてしまう展開は、黄金のパターンです。人間の好奇心とは始末に負えませんね。
 墓所の中は白骨死体がゴロゴロ。このあたりでもう、中にいちゃイカンだろうと察しがつきそうなものですが、そんなことしません。値打ちものの副葬品でもないかと漁っていると、背後からガバーッと襲われる。
 ほとんどドリフのコントのようです。うしろうしろーっ。
 始まって三分でこれデス。しかし何故、こんなところに墓所があるのかとか、どういった経緯でこの死霊どもが封印されていたのかとか、一切の説明はありません。実に清々しい。

 さて、このマンション建設現場に隣接して高齢者専用の介護施設が建っていて、立ち退きを迫られております。二週間後には取り壊しが決まっている。
 ここを追い出されると行き場のない爺さん婆さんばかりですが、業者の方は我関せず。
 その中でリーダー格なのがアラン・フォード。『スナッチ』(2000年)とか『エクソシスト ビギニング』(2004年)に出演されておりますが、バイプレーヤーすぎてよく覚えておりません。

 しかしその連れ合いである婆ちゃん役の方は、よく存じております。オナー・ブラックマンですよ。出演作では『007 ゴールドフィンガー』(1964年)が一番有名でしょうか。往年のボンドガールをこんなところでお見かけするとは懐かしいと云うか、何と云うか。
 うーむ。あのプッシー・ガロアが、こんなお婆ちゃんに。お元気そうで何よりですが。
 御存命であればゲルト・フレーベにも出演してもらいたかった。或いは予算が許せばアラン・フォードでなくショーン・コネリーを起用してもらいたかった。コネリーは引退してるし無理か。それにショーン・コネリーが汚いスラングを連発する図は似合わんですね。

 この爺さんと婆さんには二人の孫がいて、こちらが若者サイドの主人公。
 ラスムス・ハーディガーとハリー・トリーダウェイ。しかし英国の俳優ではありますが、さっぱり馴染みがありません。
 どちらかと云うと、この兄弟の従姉妹役のミシェル・ライアンの方が馴染みがあります。リメイク版『バイオニック・ジェミー』の主役でしたから(でもあれは途中で打ち切られたままか)。

 幼くして両親を亡くした兄弟は、祖父母の窮地を救おうと銀行強盗を企んでいた。従姉妹を巻き込み、ヤバい売人から銃器を調達して、颯爽と銀行に乗り込んだはいいが、あっさりバレて警察に通報され、あっと云う間に警官隊に包囲されて銀行に籠城。
 何となくド素人達によるマヌケな『狼たちの午後』(1975年)でも観ているかのようです。
 その頃、工事現場では作業員達が次から次へゾンビ化し、街中へ溢れていこうとしていた。

 本作のゾンビはヒネリなしです。
 ルール1、走らない。
 ルール2、死んでいる。
 ルール3、噛まれたらゾンビ化する。
 ルール4、脳を破壊されない限り動き続ける。

 『28日後・・・』(2002年)や『ドーン・オブ・ザ・デッド』(2004年)に登場するような「走るゾンビ」ではありません。ワクチンの投与で治療できるような偽ゾンビでもありません。
 感染する危険や退治法が周知の事実として認識されているのもいいデスね。

 銀行に籠城し始めた矢先に騒ぎが起こって、外を見ると警官隊がゾンビに襲われている。これ幸いとパニックに乗じて銀行を脱出し、祖父母の救出に向かおうとする。
 このあたりの展開にちょっとモタつきが感じられますが、丁寧な描写だし、「噛まれた仲間がゾンビ化する」お約束の場面もしっかり外さず描いてくれるので、特に文句はありませんです。

 あとはもう、ゾンビネタのギャグが色々と続くのですが、割とユルユルなテイストです。
 サッカーのサポーター達がそろってゾンビ化し(フーリガンだったのか)、ユニフォームで色分けされたゾンビの一団同士が街角で激突している(ユルユルと)場面もあります。地元のサッカーチームのユニフォームに見覚えがあるともっと笑えるのでしょうか。

 また、老人ホームの庭で昼寝していて逃げ遅れた爺さんとゾンビのノロノロした追いかけっこのギャグもまたユルい。歩行器にすがってヨチヨチ逃げる爺さんの後ろから、ゾンビ共もやっぱりノロノロ追いかけてくる。
 このギャグはアニメ『秘密結社 鷹の爪』で見た憶えがあります。でも『秘密結社 鷹の爪』の方には、更につづきがありましたけどね(爺さんがチェーンソーで反撃に転じるも、チェーンソーは重たいので体力のない老人は長く持っていられないとか、爺さんがアルツハイマーで、何故逃げているのか途中で忘れてしまうとか)。

 何とか救援に駆けつけた孫達の持っていた銃火器で武装した老人達がバリバリとゾンビ共を撃ちまくるシーンはなかなか痛快です。でも撃った後で「切ないのう」と一言漏らしたり。
 孫よりも爺さん婆さんの方が銃の扱いに長けているのが笑えます。オナー・ブラックマンも軽快にウージーを撃ちまくります。
 そのままロンドン市内からの脱出を図るワケですが、特に解決策があるわけではない。
 テムズ川の水上バスだか遊覧船に乗り込んで難を逃れる。ラストで頭上を軍のヘリが何機も飛んでいくので、世界的な災厄に拡大することは無さそうだと予想されます。
 このあたりは『28週後・・・』(2007年)のようでもあります。
 問題はサッパリ解決していないが、前向きに行きましょう的なエンドクレジットも賑やかでした。

 低予算B級ホラーにしては、長々と続くクレジットでした。でも大半は劇中に登場したゾンビ役のエキストラさん達の名前が続いていくように見受けられます。
 確かに、場面毎に違うゾンビ達がゾロゾロと蠢いておりましたが、そんなに沢山いたのかぁと、ちょっと感心してしまいました。やっぱりゾンビ好きな人達がノーギャラで参加してくれていたんですかね。


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