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2012年9月12日水曜日

踊る大捜査線 THE FINAL

新たなる希望

 フジテレビ製作のドラマ『踊る大捜査線』の劇場版第四作にして完結編です。足掛け一五年とは長く続いたものです。シリーズの中にはスピンオフ作品あり、TV特番的番外編ありと、色々あってドラマの出来は玉石混交といったところでしたが、総じて劇場版の出来はいい方だと思います(例外はありますが)。
 個人的には劇場版としては第一作が一番好きで、僅差で第二作。第三作は如何なものかと思うところもあって、やや評価は下げざるを得ませんが。

 実は本作公開に先立って、TVでも新作エピソード『踊る大捜査線 THE LAST TV サラリーマン刑事と最後の難事件』(長いタイトルやね)が放送されましたですね。
 劇中での時間が、本作の一ヶ月前という設定のドラマだったそうで、正直、劇場版の予告編のようなドラマの作りは好きになれませんです。
 これと似たようなケースでは『SP/革命篇』(2011年)の前に『SP/野望篇』(2010年)とのブリッジになるような番組を放送したことがありました。
 しかし、それを観ておかないと劇場版が理解できないなら、そんなものは最初から劇場版に組み込んでおくべきだし、別に観なくてもいいなら放送しなくても良さそうなものだと思うのですがねえ。TV局が制作する映画だから仕方ないのでしょうか。
 TVでドラマはほとんど観ないので、これは個人的な偏見でしょうかね。

 それで『~ THE LAST TV ~』の方は観なかったのですが、これがまた評判が悪いと云うか、良い噂をさっぱり耳にしません。私の知人は口を極めて罵っておりました。もうボロクソ。
 予告編にもなっていない上に、「難事件」でも何でもないとか何とか……。
 その演出と脚本が、本作と同じ本広克行と君塚良一。と云うか、今までシリーズを支えてきた監督と脚本家じゃないですか。

 そんなにTV特番がダメダメなら、劇場版も推して知るべしか。第三作よりもヒドい出来ならどうしようかと心配になりましたが……。
 結論から云えば、悪くない出来でしたね。むしろシリーズの終幕を飾るに相応しい内容であったと思います。『~ THE LAST TV ~』の出来がそんなに悪かったと云うのも、何かの間違いなのではとさえ思えますが、観ていないので論評は控えましょう。

 冒頭の「夜明けのスカイツリー」を捉えたショットから、「東京ゲートブリッジ」を経て台場のフジテレビ社屋まで俯瞰していく空撮も美しいし、アバンタイトルの張り込み捜査の小芝居から一段落付けてのオープニングに繋がる演出がいい感じデス。
 これで完結と謳うだけあって、一五年の歴史を感じさせるオープニングの演出は、なかなか感慨深いものがありますね。いつもの「あのメロディ」に乗せて、シリーズの名場面をコラージュしつつ、スピーディに出演者を紹介していく。
 カイル・クーパーの演出もかくやと云う感じで、実に印象的です。今は亡きいかりや長介の姿も確認できます。このオープニングだけでも、一見の価値ありでしょう。いや、エンディングもまた、素晴らしいんですけどね。

 そしておもむろに本筋の開幕です。
 湾岸署管内で白昼堂々の誘拐事件が発生する。開催中の国際環境エネルギーサミット会場前からさらわれた環境活動家は、数時間後に射殺体で発見される。
 直ちに湾岸署内に捜査本部が設置され、本庁からも捜査員が大挙して押し掛けてくる。ただでさえ忙しい日常業務に加えて、新任署長(出世したな、真下くん)が組織の人員配置を刷新するものだから、署内はてんてこ舞い。
 しかし事件に使用された凶器は、数年前に警察が別の事件で押収した拳銃だったことから、本庁内の情報が開示されない異例の捜査体勢となり、捜査は迷走し始める。
 あからさまに事件を隠蔽しようとする本庁の姿勢に、室井の眉間のシワがまた深くなる──。

 織田裕二、柳葉敏郎、深津絵里を始めとする、いつものメンバーがきちんと登場してくれるので、実に懐かしいです。内田有紀もいてくれるし、スリーアミーゴスも不滅なようで一安心。
 それにしても元署長の神田さん(北村総一朗)が、今度は再雇用で指導員の腕章を付けている設定なのがお見事です。真下新署長(ユースケ・サンタマリア)も笑わせてくれます。事件の戒名を決めるよりも、習字を練習しまょう!
 他にも小泉孝太郎や小栗旬といった比較的ニューフェイな人達や、最後のゲストには香取慎吾まで登場とは豪華です。その分、ほんの顔見せだけな人達もいますけど(筧利夫とか)。
 また、いつものカエル急便や、カップ麺ネタも健在です。

 それにしても香取慎吾をゲストにして、安易に「真犯人でした」と云う展開では納得できないのではと思っておりました。この手のミステリーではゲストの有名俳優が犯人というのが定番ですから。
 案の定、香取慎吾が今回の犯人ですが、早々に正体がバレるのが巧いですね。真っ先に怪しい人として登場し──しかも捜査本部内の刑事の一人として──、しかし逮捕されることはない。共犯が必ずいるという展開になり、本庁からは「泳がせて様子を見ろ」という指示がでる。
 ミステリとしては、謎の共犯者の存在と、犯行の動機が判らないと云う点に焦点が移っていく。香取慎吾も怪しいオーラを放ちながら、ほとんど台詞の無いままチラチラ顔を見せるだけ。

 そして第二、第三の殺人が発生し、謎を解く鍵が「六年前の少女誘拐殺人事件」にあることが判ってくる。殺された被害者はすべて当時の関係者であったという共通点。
 更に警察官僚組織の隠蔽体質にこそ原因があるらしいと匂わせてくれます。

 この隠蔽体質が組織の上層と下層で同時に描かれていくのが面白いです。
 上層部の「警察関係者による犯行」を隠蔽しようとする展開と、湾岸署内でドタバタ進行する「捜査費用で大量に買ってしまった缶ビール」を隠蔽しようとする展開が重なる演出が実に皮肉で笑えます。後者の隠蔽程度なら微笑ましいものですが、笑ってばかりもいられないか。
 どちらも早期に誤りを認めて対処すれば傷は浅いのにねえ。「保身」という概念が絡むと、どんなことでも出来る限り隠そうというのは、人の性なのか。

 加えて、本作では青島刑事の同僚スミレさんの引退も絡んでくる。健康問題から刑事を辞めて、深夜の夜行バスで郷里に帰ろうと決意するスミレさん。
 このあたりでドラマは深夜バスの発車時刻までが、一種のタイムリミットになるのだろうと予想されます。全体として、本作の時間経過はほんの二日間くらいしかありません。
 短い時間内にバタバタ起きる大小様々な出来事がなかなか賑やかで、観ている間は飽きません。劇中では年の瀬も迫った年末の出来事となっていますが、あまり季節感は感じられませんです。
 一応、署内にサンタ服の人達がウロウロしているのが映ったり、クリスマスな飾り付けも見受けられますが。あまり公開時期とは関連しないし、特に雪が降ったりもしませんからねえ。何故、時期が年末に設定されているのか、よく判りませんです。
 ひょっとして終盤に登場するスカイツリーのライトアップを美しく見せたかっただけなのか。

 短期間にバタバタ進行していくドラマなので、よく考えると無理な展開であったりします。
 そんなに簡単に隠蔽工作が出来るのかとか、身内の職員に泥を被らせて引責辞任させ、トカゲの尻尾切りでことを収めるなんて可能なのかとか、ツッコミ処はありますね。
 特にイマドキ、内部告発なんて簡単に出来てしまう御時世に、そんな処分で幕引きが本当に可能だと考えているあたり、ちょっと浅はかなのではと思ってしまいます。

 それもまたひとつのトリックであり、本庁上層部にそのようなお手軽な隠蔽工作を指示させることが、犯人達の目的だったという展開で、ある程度は納得できますが……。それにしても目の前にそんなエサがあるからといって簡単に飛びつくとは、そんなに本庁上層部を愚かに描いていいものか。
 短時間に矢継ぎ早に事件が発生し、深く考える暇を与えないという作戦だったと思えば……いいのかなぁ?

 青島刑事の誤認逮捕と、それを指示した室井審議官の責任と云うことで、ふたりに辞表を提出させ、幕を引こうとしたところで、更に「真下署長の息子が誘拐」事件が発生する。
 犯人の目的は六年前の誘拐事件の再現であることが察せられ、そうだとすれば誘拐された子供の命も数時間の余裕しか無い。
 命令を無視して突っ走る青島は、子供の命を救えるのか──。
 
 事件解決に当たって、今は亡き和久さんの教えが役に立つ。いかりや長介は姿を見せずとも、その存在がちゃんと感じられる演出に泣けます。
 そして会議室で地図を眺めているだけでは思いつけない方法で事件が解決に導かれる。
 現場の判断を最大限に尊重し、その責任は自分が取ると云い切る室井の姿に惚れます。

 そして明らかになる香取慎吾と、その共犯者達の思惑。
 「これは正義だ」と云い放つ香取慎吾の姿に、『ダーティハリー2』(1973年)を思い起こしました。あれもまた、警察内部で私的に正義を執行しようとするグループの物語でした。
 しかしその為に殺人も厭わないのはやり過ぎでしょう。それでは只の犯罪者。
 「正義なんてのは、胸に秘めておくくらいが丁度良い」と云うのは、けだし名言ですね。本作で一番の名台詞でしょう。
 「事件は現場で起きているんだ!」に匹敵する名台詞だと思います。

 若干、映画らしく大掛かりなことをやりたかったのか、クライマックスでスミレさんの運転する夜行バスが、倉庫に突っ込んでくるスペクタクルは、ちょっとヤリスギの感があります。スミレさん、無茶しすぎ。関係者全員、轢き殺すおつもりですか。
 散乱するバナナの配置がまた綺麗すぎるのも、ちょっと興醒めではありました。もっとグチャグチャにして、誰かバナナの皮に滑って転ぶくらいはしてもらいたかったです。

 事件は解決し、上層部の隠蔽工作も暴かれ、一件落着(隠蔽した大量の缶ビールの使い途も決まってめでたしです)。
 ラストでは、かつて青島と室井の間で交わされた約束が思い起こされます。「俺は上へ行って頑張る。お前は現場で頑張れ」
 いつの日か、組織を真に改革できる日が来るまで……。
 それが遂に現実のものとなる。
 思えば「踊る大捜査線」とは、巨大な組織の中で戦う個人の物語だったのだなあと再確認いたしました。
 だからこそ、これ以上は無いくらいの結末で、シリーズを見事に締めくくってくれました。さすが完結編。この先の下手な続編は御無用に願いたいものです。
 織田裕二の歌うお馴染みの主題歌「Love Somebody」に感無量でありました。




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