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2012年7月26日木曜日

スターシップ・トゥルーパーズ/インベイジョン

(Starship Troopers : Invasion)

 SF者としては、かのハインラインの傑作『宇宙の戦士』を見事に映画化したポール・バーホーベン監督の手腕は高く評価したいです。『スターシップ・トゥルーパーズ』(1997年)は大好きです。ただ一点、「パワードスーツ」が全く登場しないという設定を除いては(そこだけは本当に……)。
 やっとシリーズ第三作目になって、〈マローダー〉という「パワードスーツもどき」な巨大ロボットが登場しましたが、デザイン的にもかなりビミョーな代物でありました(ちなみに『~2』(2003年)については忘れたい)。
 まぁ、『~3』(2008年)は〈マローダー〉よりも、主題歌「今日は死に日より」が素晴らしく、SF映画の主題歌としては俺的ベストの一、二を争うと云っても過言ではありませぬ。
 出来れば本作でも、あの歌を歌っていただきたかったのに、残念です。

 そんな『スターシップ・トゥルーパーズ』シリーズも一五周年。これを記念し、CGアニメーションとして制作されたのが本作。実は実写版映画三作の他にも、TVシリーズ『スターシップ・トゥルーパーズ・クロニクルズ』(1999年)が制作されたと聞いた覚えがあるのですが、そちらは未見です(なんか低視聴率で打ち切りになったとか……)。
 ともあれ、あの『APPLESEED アップルシード』(2004年)と『エクスマキナ』(2007年)の荒牧伸志が監督すると聞いて、かなり期待するところがありました。

 ですが……何と申しましょうか。
 ビジュアルは本当に素晴らしいのデスが、脚本の方がB級でスカタンなのはどうしたことか。
 実写映画と変わるところの無いリアルなCGアニメで、箸にも棒にもかからぬB級映画なテイストまでも再現するという目論見だったのでしょうか(そんなワケはないか)。
 あの荒牧伸志監督作品であるとはどうしても思えません。悪いのは脚本の方なのですが、どうしてあんな脚本にOKが出たのか理解に苦しみます。

 本作の脚本はフリント・ディル。ゲーム・クリエイター出身で、『ヴェノム/毒蛇男の恐怖』(2005年)の脚本を担当……。うーむ。やっぱり最初からB級映画狙いだったのかなぁ。
 ゲーム・クリエイター出身と云うのも、観ていて納得というか、本当にゲームのシナリオが進行していくような展開でした。一本調子というか、物語の展開にメリハリが無いと云うか。
 「宇宙船の中でバグと戦う」と云うコンセプトは判りますし、閉鎖空間で敵と対峙するサスペンスも(アリガチですが)手堅く描かれているとは思います。でもそればっかりでは……。
 あるステージをクリアして、次のステージに進む。そしてまた次のステージに進み、最終的にラスボスを倒してお終い。
 その間、やっていることはバグを殺してバグを殺してバグを殺してバグを殺すことだけ。実に単調です。合間にちょっとしたお色気シーンもあるにはありますが。
 しかもステージが変わると云っても、見た目がほとんど変わらない。ずっと似たような人工物ばかり、CGの素材としては背景描写が楽なんですかね。宇宙船を乗り換えたとしても、同型艦であるので中の様子も大して変化しないし。

 うーむ。期待しすぎたのが不味かったか。前作『~3』が、まったく期待せずに観に行き、結構面白かったのに比べ、本作はその反対になってしまいました。
 制作総指揮も、エド・ニューマイヤーとキャスパー・ヴァン・ディーンだったのになあ。
 エド・ニューマイヤーが関わっていながら、本作には『スターシップ・トゥルーパーズ』シリーズに特有な「滑稽すぎる政府のプロガンダCM」とか、「過剰なまでにグロい殺戮シーン」がありません。あのプロパガンダCMが見たかったのにッ! 本作には毒が足りんッ!
 戦闘シーンの大半がゲーム感覚なのは……まぁ、「そういう脚本」だから仕方ないのか。

 長編劇場用フルCGアニメとしては、本当に素晴らしいのデスがねえ。もう実写と比べても違和感なしです。人物の動きも随分となめらかだし、モーション・キャプチャーの進化はスゴいものです。
 もっとも微妙な表情の変化までは、描写し切れていないのが残念なところですが、本作に登場する機動歩兵は常時フルフェイスのマスク着用なので、難しい芝居に費やす労力は随分と軽減されているようですが。
 見事なのは人間よりもバグの方ですが、奴らは最初からCGだからこちらも違和感なしね。
 本作では毎度お馴染みのウォリアー・バグや、中型プラズマ・バグも登場します。『~3』のクィーン・バグまで登場します。使える設定は皆、使おうというサービス精神が感じられますが、私はブレイン・バグ派なので、クィーン・バグは設定自体が不必要だと思うのですがね。
 それより『~2』のパラサイト・バグの方が怖いのですが、ここでも『~2』はスルーされています。でも本作は一部のネタが『~2』の裏返しと云えないことも無い(げふんげふん)。

 物語は、出だしは割とサスペンスフルな展開だったのですが……。
 バグに襲撃された地球連邦軍の小惑星基地〈フォート・ケイシー〉救援に駆けつけた強襲艦アレジア号と機動歩兵の猛者共。
 しかし到着してみると数名の生存者を除き、ほぼ全滅な状態。ここでは連邦の極秘実験が行われていたらしい。実験を行っていた超能力戦略担当大臣カール(出世したな、カール)は何も語らぬまま、ジョン・A・ウォーデン号(以下、JAW号)で勝手に脱出。
 救出チームはバグを掃討しつつ、取り残されたJAW号のカルメン艦長と生き残りの兵士を救出して基地を後にした。
 ほどなく先に脱出したJAW号が消息を絶ち、アレジア号には地球のジョニー・リコ将軍から、JAW号捜索の指令が指令が下る。
 自分の艦を取り戻したいカルメンは作戦に同行することを強く主張する。
 果たしてカールが極秘に進めていた実験とは何なのか。

 第一作からのファンであれば、リコ、カール、カルメンが全員登場する嬉しい展開ではありますが、ビミョーに外した感が漂っています。リコも将軍に出世していて、直接物語に関係してこないというのもそう(実は終盤でこれ以上ないくらい活躍してくれますが)。
 アレジア号の機動歩兵部隊の連中も、表面的な特徴は色々と考えられており、いかにも戦争映画によく出てきそうな記号を持ったキャラクターがぞろぞろいるのですが、それが物語にサッパリ関係してこないので、印象が薄くストーリーを盛り上げる役に立っていません。

 例えばカンフー使いの機動歩兵チョウ。弾薬が尽きたとき、最後はカンフー技でバグに立ち向かう。絵ヅラとしては面白いけれど、ただそれだけ。
 バグに故郷を全滅させられた狙撃手トリッグ。一撃でウォリアーを倒す特製ライフルで屠ったバグをカウントしていくのですが、そのカウントは本筋に全く関係ない。
 全身に異様なまじないの刺青を施したスピリチュアルな戦士ホーリーマン。迷信深く、様々な神に祈るのはいいが、ホントに見た目だけのキャラでした。
 色々な兵隊達がいるのは判りますが、圧倒的物量で押し寄せるバグの大群の前にどんどんやられていくだけ。
 「人間はアッサリと不条理に死ぬものである」というバーホーベン流のバイオレンス哲学を踏襲しているのでしょうが、その一方でフツーの戦争映画のように部隊のメンバーを個性豊かに描こうともしており、しかしキャラの描写が中途半端なので、感情移入もナニも出来ません。
 しかも死に様も大差ないし。まさしくゲームのキャラのように設定だけしてあって、それを物語の中でどう活かすかまでは考えが及んで居なさそうなのが残念。

 その代わり、機動歩兵の装備の描写は詳細かつ緻密です。
 今般、ついに〈パワードスーツ〉が登場します。これは〈マローダー〉とは別ものです。〈マローダー〉もMkII となり、デザインは一新され、巨大ロボ描写が廃されたのは嬉しいです。
 いわば軽装備と重装備の、二種類の〈パワードスーツ〉があるようなものか。
 どちらもデザイン的には、スタジオぬえが設定した〈機動強化服〉とは異なりますが、宮武一貴氏自身が「自分達のイメージに引っ張られていない」ことを喜んでおられる(パンフレットの解説文で)。
 そういうものなのかな。でもオールド・ファンとしては……うーむ。

 通常の〈パワードスーツ〉は、一種の装甲宇宙服といった趣でした。ドラマ上は特に筋力や脚力をサポートしているようには見受けられません。これもまた演出の弱いところで、バグの大群をジャンプで飛び越えるアクションは、〈パワードスーツ〉の増幅された脚力の為せる技なのか、単に宇宙船内が低重力下だから出来たのか、判らないのです。
 一方、〈マローダーMkII 〉は、ぐっと原作に近くなりました。軌道上から投下されたカプセルが大気圏突入後に割れて、中から飛び出すという描写はいい感じです。
 ただ、こちらも「スタジオぬえ製ではない」代わりに、別のナニかに似ております。
 ぶっちゃけ、士郎正宗の『アップルシード』。監督が荒牧だからか。いいのかこんなことして。
 もう〈マローダー〉と云うよりも〈ランドメイト〉。よりパワードスーツぽくなったとは云え、これは如何なものか。
 肩から伸びた付属肢に、巨大チェーンソーとガトリング砲を装備しているのが凶悪です。特に接近戦でバグをブッた斬るシーンは燃えますが。

 シリーズ恒例、女性兵士の羞恥心の欠如は目の保養にはなります(リアルなCG万歳)。
 B級だと割り切って観て、鑑賞後に同好の士と一大ツッコミ大会に突入すると楽しいかも。




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