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2012年5月10日木曜日

宇宙兄弟

(SPACE BROTHERS)

 小山宙哉による同名のコミックの実写映画化ですね。実は原作の方は読んでおりません(連載はまだ続いているのか)。
 SF者ですから、星野宣之のコミックスは勿論、今でも全作愛読しておりますし、他の作家の方々の近未来宇宙開発ものなコミックスも色々と読んでいた時期がありました(過去形)。
 思いつくまま挙げると、御米椎の『宇宙課々付エヴァ・レディ』、幸村誠の『プラネテス』、柳沼行の『ふたつのスピカ』、山田芳裕の『度胸星』、的場健の『まっすぐ天へ』なんてのを読んでおりました。大石まさるの『水惑星年代記』もか。
 でも『度胸星』と『まっすぐ天へ』が連載中断になってしまって、待てど暮らせど再開されないし、そのうち興醒めてしまい、『宇宙兄弟』が刊行され始めたときも、「どうせこれも途中で終わってしまうのであろう」とスルーしてしまいました。よもやベストセラーとなり映画化までされるとは。読みを誤ったか(汗)。

 仲の良い兄弟ムッタとヒビトは子供時代にUFOを目撃したことから天体観測に夢中になり、宇宙飛行士になる約束を交わす。
 しかし弟のヒビトの方は積極的に「宇宙飛行士になって月へ行く」という目標を立てたのに、兄のムッタの方は割と受動的で「兄は弟に常に先んじているべき」という理念だけから、「おまえが月なら、俺は火星だ」などとブチ上げてしまう。
 このあたりから既に若干の温度差があったのか。
 余談ですが、二人の子供時代と成長してからが実によく似ていて、配役の妙を感じました。

 そして時は流れて西暦二〇二五年。弟ヒビト(岡田将生)が夢をかなえて宇宙飛行士となった一方、兄ムッタ(小栗旬)は自動車メーカー勤務のカーデザイナーとなっていた。
 それはそれで別に悪くない職業だと思うのですが、初心を貫徹した弟の姿をTVで見ると、忸怩たるものがあるようで、軽い劣等感に苛まれるムッタ。
 しかしあるとき職場で弟をバカにされ、頭に血が上ったムッタは相手が取締役だというのに構わずブチのめしてしまい、即刻解雇。その後も再就職先が決まらず、弟との差は開く一方。
 弟思いの良い兄貴ではあるのですがねえ(それにしても近未来でも不景気は続いているらしい描写が世知辛いデス)。

 そんなときにJAXAからムッタ宛に書類が届く。五年ぶりのJAXAの人員募集に対して、ヒビトが勝手にムッタの名前で応募していたのだ。しかも内容は書類審査の合格通知。
 勝手に話を進めるヒビトに文句垂れるムッタだが、売り言葉に買い言葉で、なし崩し的に宇宙飛行士への道を歩み始める。
 弟に先行された五年間を、ムッタは埋めることが出来るのか。再び、少年の日の約束を思い出したムッタは改めて選抜試験に挑む。

 本作の監督は森義隆。本作の前に高校球児を描いた青春映画『ひゃくはち』(2008年)を監督されたそうですが未見でした。『畳の桃源郷』(2000年)という作品も存じませんでした。洋画ばかり見ているのはイカンですか(自戒)。
 脚本は『デトロイト・メタル・シティ』(2008年)や『カイジ/人生逆転ゲーム』(2009年)の大森美香です。コミックスの映画化も手慣れておりますね。原作の方は読んでいないので、どの程度コミックスの内容が反映されているのか判りませぬが、本作は巧く一本の映画としてまとまっているように感じられました。
 配役の方は、小栗旬と岡田将生の他に、麻生久美子、堤真一、井上芳雄といった面々が脇を固めています。特にJAXA職員役の堤真一がイイ。

 ドラマはムッタの選抜試験をメインに展開していきながら、幕間にヒビトのドラマが挿入される感じで、悪戦苦闘する兄に先んじてロケットに乗り込むヒビトの様子も描かれます。人類初の月面基地建設というミッションが近未来的です。
 二次試験の結果がまだ出ていないうちにNASAに招かれ、弟の出発を見送る兄の複雑な思いはよく判る。その一方で、ヒビトが宿舎に遺してきた「万一の場合に備えて書いた遺書」を先に見つけて読んでしまい、弟の期待を裏切り続けてきた自分の姿に悔悟の念を覚える。
 一度は夢を諦めてしまったムッタは改めて決意を固める。

 ロケットの打ち上げシーンは完全CGですが、これがなかなか凄い。気合い入れまくりのクォリティは洋画に負けていませんですよ。『アポロ13』(1995年)にも負けていないと思うのは贔屓目でしょうか。
 劇中でも、月を見上げる小栗旬が親指で月を隠して「トム・ハンクスの真似さ」と云う、『アポロ13』を意識した場面がありました。

 このロケット打ち上げシーンで、バズ・オルドリン飛行士が本人役で登場するのも印象深い。近年、ドキュメンタリ映画『ザ・ムーン』(2007年)とか、SF映画『トランスフォーマー/ダークサイド・ムーン』(2011年)に出演されるようになったので、よくお見かけしますね。
 本作でもロケットの打ち上げを、誰も知らない穴場の特等席から眺めている不思議な老人という形で登場してくれました。

 しかし幼少時、あれほど宇宙にのめり込んだムッタが、バズ・オルドリンの顔を一目見て判らなかったという演出は如何なものか。あれだけ宇宙に熱中していたなら思い出せるのでは。老けすぎてて無理だったのか。
 でもこのときのムッタとオルドリン氏の交わす言葉はなかなか印象深くて好きな場面です。

 「ところでアンタ、誰なんだい」
 「なに。昔、あそこを(空を見上げて)歩いたことがあるだけの、ただの老いぼれさ」

 他にも「何がロケットを飛ばすのか」という問いをムッタに発したりします。この問いの答えもなかなか宇宙開発関係者ならではの答えで、熱い人ですオルドリンさん(ちょっと大根ぽいがそこはスルーしてあげましょう)。

 そして弟が月へ向かって出発すると、兄には二次選考も通過したとの報せが入る。
 いよいよ最終試験となる閉鎖環境での共同生活試験。前述した宇宙開発コミックスでもこのシチュエーションは外せませんねえ。個人的には『度胸星』での同様の試験の場面が忘れがたいのですが、本作もなかなか。
 故意にストレスを与えて人間関係を破綻させようという意地の悪いテストですが、それだけに小栗旬を始め、参加した者たちがこれを乗り越えていく様は感動的です。

 しかしこの試験の最中に、月面での事故発生の報せが入る。ヒビトが月面で行方不明になったのだった。
 試験中にこの報せを受け、「試験を中断するか」と問われて、これを断るムッタ。断腸の思いでしょうが、自分に出来ることは何もない。救助に駆けつけることも出来ないのであれば、この試験をやり遂げることが最善の途である。
 頭で理解していても、これはなかなかに辛い。

 兄のドラマと弟のドラマが平行して描かれていく構成であれば、ラスト近くでドラマのプロットが交錯するのかとも思いましたが、安易にムッタがヒビトの救助に駆けつけるような展開にはなりませんでしたね。時間の流れからしても無理デスし。
 通信途絶した絶望的な状況からヒビトが生還するのに、どんな手があるのかと思われましたが、結局は自力で生還します。しかし諦めて力尽きかけたヒビトを奮い立たせたのが、人生の走馬燈の中で見たムッタとの約束だったというワケで、間接的にムッタが助けていたという解釈でしょうか。
 やはり兄弟の絆は一朝一夕に出来るものでは無いのだという、歴史の積み重ねを感じました。これはこれで感動的です。
 そして遭難したクレーターの中から見上げる地球光がまた美しい。

 兄弟共に難関を乗り越えた数年後。
 奇跡の生還した宇宙飛行士ヒビトが再び月に赴く。共にロケットに乗り込むメンバーの中には、兄ムッタの姿があった。

 「待たせたな」
 「おう」

 短いやり取りの中に兄弟の固い絆を感じて、思わずウルウルきますね。
 月面に兄弟揃って立ち、日の丸を立てる。これが現実になるのはいつの頃でしょうか。生きているうちに拝みたいものです。

 エンディングに流れる主題歌「ウォーターフォール~一粒の涙は滝のごとく」もまたイイ感じでした。特に映画の為に作曲されたというわけではなく、〈コールドプレイ〉というイギリスのバンドが楽曲を提供してくれたそうな(世界的に有名なバンドだと云うことを知らなかったのはナイショにして下さい)。




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