『ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ』は音楽ドキュメンタリ映画として、アカデミー賞にノミネートされておりましたが、本作もまた今年(第84回・2012年)の長編ドキュメンタリ部門にノミネートされました。受賞は惜しくも逸しましたが(受賞作は “Undefeated” )。
本作は、二〇〇九年に急逝したドイツの世界的舞踊家であり振付師ピナ・バウシュと、彼女が監督を務めていたヴッパタール舞踊団についてのドキュメンタリです。
まったく申し訳ないことですが、演劇とか舞踏とかはトンと疎いもので、ピナ・バウシュと聞いてもどんな人だか判りません。凄い人なのか──なんて云うと、その筋のファンからは怒られそうです。
ペドロ・アルモドバル監督の『トーク・トゥ・ハー』(2002年)にも、そのパフォーマンスが作品に使用されているそうで、そちらもスルーしている身としては不勉強の謗りを免れぬデス。
本作はドキュメンタリ作品なのに3Dです。ドキュメンタリで3D映画と云うものを初めて観ました。
昨今は特に3Dにする必要を感じない作品まで3Dで公開されたりしておりますが、本作に於いてはその効果はありと申せましょう。一見の価値は充分にあります。
何と云っても、舞台の奥行きがはっきりと感じられる。目の前に飛び出してくるよりも、奥行き感がある画面の方が3Dの効果を感じます。
まさに「臨場感溢れる」という感じ。しかもアップで子細まで観ることが出来るので、普通に舞台を鑑賞するよりも、お得かも知れません。
本作はヴェンダース監督の二〇年来の企画だったそうですが、近年の3D撮影の進歩によってようやく撮影が始まったとか。しかしピナの急逝で企画が頓挫しかけたこともあるそうな。よく完成したものです。
しかし本作に於いて、ピナ・バウシュ本人はあまり登場してくれません。冒頭に登場したあとは、中盤に少しと、ラスト近くでまた登場してくれますが、他のダンサー達の方が出番が多いように思います。
どちらかと云うとピナ・バウシュのドキュメンタリではなく、彼女の育てたヴッパタール舞踏団のドキュメンタリと云う趣です。
ヴッパタールというのは、ドイツの地方都市の名称だそうで、劇中に登場する街がヴッパタールらしいです。ドイツらしい頑丈そうなモノレールが走っていたり、なかなか面白そうな町並みです。
本作では、主にピナ監修の四つの舞台が取り上げられています。「春の祭典」、「カフェ・ミュラー」、「コンタクトホーフ」、「フルムーン」。これをチョイスしたのは生前のピナ自身であるとか。
ユニークかつ興味深い舞台ではありますが、どれ一つとして存じませんでした(汗)。 四つの舞台の他に、舞踏団の各メンバーがひとりずつ、ピナとの思い出を語るインタビューが随所に挿入されます。
団員は特にドイツ人に限ったわけでなく、インタビューもドイツ語、英語、スペイン語、中国語等で語られておりました(インタビューには登場しませんが、本作中の舞台には日本人ダンサーの姿も映っているらしいです)。
各人が語る、ピナとの出会い、稽古での様子、その為人……等々。
あとはもう、舞踏あるのみ。
これがまた前衛的で実に印象的です。
舞台の上に土を撒いたり、舞台を水浸しにしたりした中でダンサーたちが踊りまくる。自然の巨岩を丸ごと一個、ゴロンと転がしてあるだけの舞台装置というのも斬新です。あれ一個だけでも十数トンはありそうですが。
また四つの舞台だけでなく、ヴェンダース監督のカメラはダンサー達と共に、屋外へ出かけていきます。至る処でダンサー達は踊りまくっている。
舞台とインタビュー、そして屋外でのパフォーマンスと、なかなかバラエティに富んだ編集が行われています。
ダンサーらは街頭やプールサイド、河川敷といった様々な自然の中で踊っている。そんなところで踊る意味はあるのかと訝しく思ったりもしますが、意表を突いた演出ではあります。
いや、舞台の演出を観ていると、本来はすべて大自然の中でこそ踊られるべきものなのでしょう。
なんか凄いな、ヴッパタール舞踊団。
しかし凄いことはスゴいが、言葉にしづらい。
「言葉で表現できないことを感じ取ってもらうのがダンスである」とピナ自身が語っていたからと云うわけではありませんが、本作の舞踏の迫力は観てもらわぬことには判らないでしょう。
まさに「考えるな、感じろ」と云うワケですかね。
表層的なことを云えば(その程度しか云えないのですが)、ダンサーの皆さんの筋肉って素晴らしいデス。
素人にも気づいた点としては舞踏家ではないのでよく判りませんが、ピナの振り付けには一定のパターンがあるように見受けられます。複雑怪奇な──ユニークとも云える──動作ですが、しばらく観ていると同じ動きを繰り返しているのが判ります。
それが一番顕著なのは、春夏秋冬を表現したパフォーマンス。
この四季を表現した振り付けを繰り返しながら、何人もの団員達が行進していく様子が、場面転換の代わりに何回か挿入されますが、これがなかなか面白かったデス。
ごく単純な動作を繰り返しながら、延々と行進していく様子に、時の流れを感じます。
ピナ亡き後、この舞踏団がどうなってしまったのか、非常に気になります。
ピナ・バウシュの生前の言葉の中から引用された、実に舞踏家らしい言葉が印象的でした。
──踊り続けなさい。自らを見失わぬように。
● 余談
本作と同時期に『ピナ・バウシュ 夢の教室』(2010年)というドキュメンタリ映画も公開されておりますね。
こちらはダンス経験のない四〇人の子供達が、ピナの代表作「コンタクトホーフ」を踊ろうと一〇ヶ月の特訓に挑んだという記録だそうな。「コンタクトホーフ」は本作でも紹介されておりますが、なかなかに印象的な舞台です。アレをティーンエイジャーが踊るのか。難易度高すぎなのでは……。
「コンタクトホーフ」は初演が一九七八年ですが、六五歳以上のダンサーを起用した再演が二〇〇〇年、そして二〇〇八年の再々演ではティーンエイジャーのダンサーが起用されたそうなので、そのときの記録というワケですね。
こちらの方がピナの生前の姿をたくさん拝むことが出来そうです。でもこれまた公開規模が小さい……(汗)。
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