監督は『プライドと偏見』(2005年)、『つぐない』(2007年)のジョー・ライト。他の監督作品には『路上のソリスト』(2009年)がありますが、長編第四作目にして突然アクション映画の監督に転身か。チャレンジャーですね。
しかし筋立ては凡庸というか、アニメなんかじゃよく見かける設定ではありますねえ。
遺伝子改変により驚異的な身体能力を持つ人間を作り出して兵士にしようという計画があった。「パーフェクト・ソルジャー」か。シアーシャちゃんは素体か。
ところが計画は中止。実験体は全員処分。しかしただひとり生き残った少女がいた。
シアーシャちゃんが主役のハンナ役。金髪碧眼で色素の薄い肌が氷のように冷たく無垢な少女ですが、同時に氷のように冷徹な殺人マシンでもあるという役を見事に演じております。
冒頭、フィンランドの森林地帯で狩りをしている少女がいる。大きなトナカイも一人でしとめる腕前。父親(エリック・バナ)と山小屋で世捨て人な暮らしをしているらしい。北極圏で父娘二人暮らしか。
父親のスパルタ教育は非常に厳しい。甘い顔など一切見せない。サバイバル技能だけでなく、格闘技から射撃まで徹底的に叩き込んでいる。その上、語学も数カ国語を巧みに操るまでに仕込んでいる。その代わり、サバイバルに直接関係ない知識は皆無。歌や音楽についてはまるで無知という、いびつな子育て。
少女は外界と接触したことが無いらしく、盛んに父親にアピールしている。だが、外界に出る最後の試練は、ある人物を殺害することだった……。
実はこの父はCIAの元エージェントであり、逃亡中の身の上。追っているのがケイト・ブランシェット。非情なスパイのボスを冷酷に演じております。
かつての超人兵士計画の指揮官であり、計画に参加して女の子を産んだ女性と恋仲になって逃亡したエリックを追い続けているのであった(母親は既に死亡している)。
さて、遂にハンナの旅立ちの日が来た。
長年封印してきた発信機のスイッチを入れる。時をおかずしてシグナルを探知したCIAの特殊部隊が派遣されてくる。父親はハンナとドイツ某所で落ち合うことを約束して姿をくらます。ひとり残ったハンナは拘束され、いずこかへと連行される。
父娘が外の世界で自由に生きる為には、ケイト・ブランシェットを始末しなければならない。さもなくばいつまでも追われる身の上である。
しかしエリック自身では標的に接近出来ない。そこで娘にやらせようという計略ですが、まぁどっちも非情ですな。
全編に渡ってシアーシャちゃんのアクションが見所です。眉一筋動かさずに相手の首をへし折るわ、撃てば必ず当たるし、身のこなしも軽い軽い。
CIA秘密基地からスルスルと脱走し、遂に外界に飛び出した先は……。
モロッコの砂漠。
極北の雪原から一転、灼熱の荒野という風景の切り替えが見事です。何故CIAがそんなところに秘密基地を持っているのかは謎ですが、細かいことはキニシナイ。
ここでモロッコに家族旅行に来ていた英国人一家と知り合いになる。
特に長女ソフィー(ジェシカ・バーデン)とは年齢も近く、すぐに二人は友達に……。
このあたりのハンナが他人に慣れていない様子や、電化製品等を一切目にしていなかった為に生じるカルチャー・ギャップな態度が面白いのですが、いまいち笑えない。演出が生真面目なのでコメディ的にならないのが惜しい。
もうちょっと明るく……ならんか。この時点までに結構、殺してますからね。
戦闘マシンな少女の無表情な演技だけでは、萌え要素は少ないか。『ラブリーボーン』の時は結構萌えたのですがねえ。
そして物語はモロッコを出発してスペイン、フランスと次第に北上しながらドイツを目指す。ここが父と約束した合流地点であり、ハンナの故国でもあるらしい(母親の故国ではある)。
その合間に、エリック・バナの逃亡行も描かれる。娘が娘なら父も父か。こちらはフィンランドから南下してドイツを目指している。泳いでバルト海を渡ったり、親父も超人かい。
監督の演出意図では、この作品は童話をモチーフにしているそうな。
確かに劇中ではグリム童話に言及されるし、クライマックスの対決はドイツの廃園となった遊園地で繰り広げられますが、これがグリム童話のテーマパークになっている。ロケ地としては面白いのですがねえ。
だから劇中ではケイト・ブランシェットは「悪い魔女」の役回り。確かに存在感は非常に強い。さすが大女優。
でもぶっちゃけ、童話性は感じ取れませんでした。
本当ならグリム童話を地でいく展開になるのが理想的だったのでしょうが。
ケイト・ブランシェットが呼び寄せる助っ人の殺し屋がトム・ホランダー。「悪い魔女」に対して、こちらは「狼さん」なのだろうか。企画当初はそういうイメージだったのかも知れませんが、もはや童話的な面影は失われております。
でも、ちょっとゲイっぽいけど冷酷非情と云う面白いキャラではありました。欲を云えば、殺し方に美学を求めるようなスタイリッシュな人であったら、もっと印象的だったろうに。
最後はエリック・バナと対決し、ヤラレちゃうのですが、ヤラレ方もあまり奇を衒った死に方ではなかったのが残念。
そのあとすぐに今度はエリックもケイトの手に掛かってしまうのですが、クライマックスでキャラがサクサク整理されていく展開があっさりし過ぎているような。
総じて設定と配役はいい感じなのに、脚本がイマイチで凡庸なアクション作品になってしまったように思えます。
もう少しハンナとソフィーの対比を強調するとか、最後までソフィーがハンナと行動を共にして少女同士の友情を描くとかしてもらいたかった。
ソフィーはハンナが初めて友達になった少女だというのに、あまり出番がないと云うのも如何なものか。
とりあえず追っ手は全員始末し、魔女も倒すが、友を失い、父も亡くなり、ハンナは天涯孤独の身となる──と云うところでエンド。でもシアーシャちゃんがあまりにも無表情なので、エモーショナルな展開には全然ならない。淡々とし過ぎるのも考えものか。
何となくシリーズの第一話というか、パイロット版を観たような気がします。この先、CIAが更なる追っ手を差し向ける……という展開になるのでしょうか。
続編はあまり期待できそうにありませんけど。
どうせなら、ラストは関係者全員死亡し、ハンナとソフィーの少女二人だけが生き残るという風にしても良かったのではないか。
でもって、新たな超人兵士計画から生まれた別の少女がハンナを追跡するというような続編には出来ないものか。遺伝子的にハンナとは姉妹なのだとか云う設定にして……。
題名は『ハンナとその姉妹』──いや、それが云いたかっただけ(汗)。
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