2010年9月1日水曜日

瞳の奥の秘密

(EL SECRETO DE SUS OJOS)

 教訓: 目は口ほどにものを云う──いやホント。
 アルゼンチン映画です。実に珍しい。しかしアルゼンチンはスペイン語なのでスペイン映画を観るのと大差ないと云えますが。
 今年のアカデミー賞外国語部門受賞作でもあります。カンパネラ監督は、クェンティン・タランティーノとペドロ・アルモドバルというヘンな組み合わせの監督コンビからオスカー像を贈られ、スペイン語で笑えるスピーチをしていました。

 ──『アバター』が外国語映画部門にノミネートされていなくて本当に良かった。

 いやいや。ナヴィ語は外国語デスか(笑)。

 本作は二五年前の凄惨な殺人事件を回想するという形式でドラマが進行していく一種のミステリではありますが、主人公は事件の当事者とはちょっと違います。
 アルゼンチンの司法の仕組みを知っていないと判りづらいかも知れません。刑事裁判所の書記官という役職。
 しかし書記官が警察と一緒に現場検証に出かけたり、時には犯人逮捕の際にも警察に同行するという、まことに不思議なことをしています。
 検事でもないのに探偵紛いの捜査活動が許されるというのは、なかなか興味深い。世界は広いですね。

 加えて回想される時代が一九七四年のブエノスアイレス。これもまた日本人にはピンと来ない背景です。
 クーデターによる軍事政権発足間際の重苦しい閉息的な雰囲気だったと云われてもなあ。そもそもバリバリにラテン系な人種ばかりが登場するので──そりゃアルゼンチンなんだから当然か──イマイチ重苦しさが理解できない。
 なんかそれなりに楽しんでいそうだったし……(笑)。

 政府による反政府ゲリラ狩り──拉致、暗殺も──が公然と行われているあたり、なんか戦前の日本のようでもあります。容疑者を拷問して自白を強要するなんぞという、非道が七〇年代に平然と行われているのがビックリ。
 背景的にはインターネットなどのIT技術が無いだけで、ほとんど現代といっても通用しそうな(ちょっと古風ではありますが)社会とのギャップが興味深かったです。
 映画で世界史のお勉強やね(笑)。

 しかしどんなに閉息的な時代だったとしても、正義を追求する人は存在する。そして人を愛する気持ちも無くなりはしない。
 そしてクーデター前夜だろうが独裁政権下だろうが、アルゼンチン人のサッカーに対する愛もまた変わることは無いのである。
 すばらしいサッカー愛。
 さすがアルゼンチン!

 サッカーに熱を上げる余りスタジアムに応援に出掛けていき、逮捕されてしまう犯人はマヌケではあるが、実にアルゼンチンらしい(笑)。
 この熱狂的ファンで超満員なスタジアムで繰り広げられる一連の追跡シーンは完全ワンカット。手持ちカメラを駆使しまくった実に見事な場面ですが、映画の中で、ここだけ妙に浮いたシーンになってしまったのは御愛敬デスね(笑)。

 しかしこれで一件落着ではない。まだ中盤を過ぎたあたり。単なるミステリで終わらないのがいいです。
 ここから更に物語の興味深い背景が描かれる。実はアルゼンチンには死刑制度がない。最も重い刑罰は「終身刑」。
 被害者遺族の気持ちはこれで晴れるのか──。

 「犯人を殺して、それで終わりになどしたくない。可能な限り空虚な人生を過ごしてもらいたい」と語る遺族の心情を考えるとなかなか複雑です。
 愛する者を奪われた被害者遺族は、この先一生、喪失感を抱いたまま生きねばならないのだから、加害者には更に虚しい一生を……って、怖いなあ。
 してみると死刑制度のある日本は実は情け深いのかしらん。

 ラテン系とは情熱のキャラクターだと思っていたし、事実そんな人物の多い映画の中で、主人公と被害者遺族が妙にストイック。情熱が激しく迸るのも怖いが、静かにいつまでも炎が燃え続ける人というのも怖い。

 そしてまた外国人には理解しづらいアルゼンチン社会──意味不明の恩赦。実際に政治犯に混じって殺人犯までが恩赦されたりした事件があったらしい。これが原作者がこの小説を書こうとした原因なのだそうな。
 作者はカンパネラ監督と一緒にこの映画の脚本を共同執筆していますな。

 そこから更に主人公の身にも危険がおよび始め、緊張が高まっていく。このあたりまで来ると、ドラマがどんな決着を見せるのか先が読めなくてハラハラします。怖いですね。
 一応、本筋が回想である以上、死んだりしないのは判ってはいるものの……。

 四半世紀の年月を挟んだメインの登場人物は全員、各俳優が老けメイクと若作りで演じ分けています。さすがアルゼンチンを代表すると云われた演技派ぞろい。
 もう犯人役の俳優も、被害者遺族役の俳優も、実に印象深い。

 中でも主役のリカルド・ダリンとソレダ・ビシャミルがいいです。
 そして相棒役のギレルモ・フランチェラもなかなかいい味出してます。アル中一歩手前の酔いどれで、奥さんから愛想尽かされかかっているのに酒がやめられないダメダメ野郎ですが、妙に憎めないユーモア溢れる相棒。そして犯人がサッカー狂であることを見抜く名探偵でもある。
 まあ、主人公が妙なところでボンクラ野郎なのはベストセラー小説のお約束ですからな(笑)。

 そして明かされる衝撃の結末。
 四半世紀をへだてた各々の登場人物の人生の決算とは。
 なんとなくジャック・ヴァンスの〈魔王子〉の第一作『スターキング』の結末を思い出しました。復讐って、根気の要る作業だよなあ。これも愛のなせる技か。

 そしてようやく主人公の愛も次なるステップに……。
 重苦しくてやりきれない物語ではありますが、ラストは妙に爽やかで救われました。
 マーティン・スコセッシや、ブライアン・デ・パルマ監督作品が好きな方にはお薦めでしょう。

●余談
 全裸絞殺死体の陰毛がボカシなしでチラ見できるとは映倫の基準も緩くなったものですね(笑)。
 しかし強姦殺人犯の股間モロ出しには、さすがにボカシがかかりました(一瞬ですが)。
 アルゼンチンではコレもアリなのか。うーむ。




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