題名にわざわざ監督の名前を冠する必要あったのか?
チケット売り場のお姉さんも読めませんでした。
「えー、板尾……。いたお……。脱獄王、一名様ですね、ハイ」
ただの『脱獄王』では、実在の〈昭和の脱獄王〉と間違われてしまうからか。
ネットで「脱獄王」を検索すると、「白鳥由栄(しらとりよしえ)」なる人物がヒットする。こちらは実在した脱獄常習犯だそうですが、映画ほどドラマチックではありません。でも一九八五年に緒形拳主演で『破獄』としてNHKでドラマ化されているそうな。私は観ておりませぬが。
直接の関係はないとは云え、劇中ではこの白鳥由江のエピソードにインスパイアされたような(オマージュか?)展開があります。時代背景を昭和初期に設定したのも、実在の脱獄王から持ってきたのでしょうか。
面白いのは、劇中では主役の脱獄王にセリフが一切無い、ということですね。
まったく無言で、ただ黙々と脱獄に邁進する。驚くべき身体能力と奇抜な発想で獄を破るのだが、その割に手配されるとあっさり発見され、再逮捕される。
何を考えているのか。
何故、脱獄するのか。
看守役の國村隼には理解できない。主役が喋らない分、國村隼が代弁者となっている。
他にも吉本興業のコメディアンの皆さんが大挙して出演しています。ほとんどが看守役ですが。
その所為で、シリアスなドラマのくせに妙にユーモラスな雰囲気が漂いますが、演出が巧くスベリません。いや、普通の俳優さん達より、お笑い芸人の皆さんの方が演技が巧いのではとすら感じます。
これはやはり企画、監督、脚本、主演をこなす板尾創路の才能でしょうか。
日本のデヴィット・リンチであるとか、タランティーノであるとか、ポン・ジュノであると評されているのもある程度は理解できます。まぁ、タランティーノかポン・ジュノかと云うのは、どうかなとは思いますが、リンチに似ていると思われる節はありますね。
特に、途中でワケ判らん演出が挿入されるあたりがリンチぽい。
観ていて、これは計算による演出ではなく、監督個人の感覚だろうと思われる場面が挿入されるあたり。
それが、セリフの一切無い板尾創路が、途中で一度だけ「獄中で歌う」という場面。
印象的ではありますが、何故歌うのか、選曲の意図は何か、どういう意味なのか判りませんでした。
パンフレットのインタビューでも、はっきり回答していない。「この辺で一曲、歌っておきたかった」旨の発言をしています。実にシュールだ。
だからと云って、詰まらないワケじゃないのですがね。
基本的にシリアスなサスペンス・タッチで物語は進行していきます。
常人には理解できない執拗さで脱獄を繰り返し、そのたびに連れ戻されて別の監獄送りになる。どんどん脱獄は困難になっていくのに、意表を突く方法でまた脱獄する。
そして遂に『パピヨン』並の「絶海の孤島の刑務所」に送られる。
そして九〇分間、耐えに耐え、ストイックなまでに進行してきたシリアスなドラマでしたが……。
ラストの三分で仰け反ってしまいました。
そんなオチでいいのかッ?
なんかもう、すべてを台無しにするような。最初、ここは笑うトコなのかどうなのか、判断が付きませんでした。九〇分すべてが前振りだったのか?
國村隼の最後の一言と、板尾創路と笑福亭松之助の底抜けの笑顔が忘れられませぬ。うーむ。
狐に摘まれたような感じになるのも、リンチぽいデス(笑)。
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