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2009年1月21日水曜日

クローンは故郷を目指す

(The Clone Returns Home)

 邦画とは思えぬくらい良い映画でした。とりあえず今年の邦画(実写)ベストに入れておこう──って、これが今年初の邦画ですが。

 そもそもはサンダンス映画祭の脚本コンペで受賞したのがきっかけで、ヴィム・ヴェン ダースにプロデュースしてもらったという近未来SF。何となくと云うか、やっぱりヴェンダースぽい香りが漂っています。
 本当は監督兼脚本の中嶋莞爾の腕がいい所為でしょうが。
 割と低予算なのにしっかりと近未来SFの体裁を保っている。『ガタカ』とか好きな人にはお勧めです。

 でも基本的なプロットは、なんかどこかで読んだような……。

 宇宙飛行士の及川光博が軌道上で殉職。
 そこでミッチーのクローン、〈ミッチー2〉が作られるが、記憶注入の段階で巧くいかずに意識が少年に退行してしまう。
 人格が不安定なまま〈ミッチー2〉は失踪。
 再生をやり直して、今度は成功した〈ミッチー3〉は〈ミッチー2〉の足取りを追う。

 なんだ。萩尾望都の『銀の三角』か?
 パンフレットにちゃんと萩尾望都のコメントが掲載されているあたり、きちんと仁義を通して制作されたようである(笑)。

 まぁ。そうは云っても、まるまる『銀の三角』ばかりではなく、他にも色々な要素が絡み合っておりますが。
 特に少年時代に死んでしまった双子の弟のエピソードと、クローン再生のイメージが重なってノスタルジックな独特の雰囲気を持ったSFになりました。

 でもこれをSFと云い切るのは、どうかな……。
 「クローン再生された人間は、生前のオリジナルと同一人物か?」という疑問が呈されています。いくら記憶まで完璧にコピーされていても〈魂〉は同一なのか。いや、そもそも「クローンに魂はあるのか?」とか、割とスピリチュアルなテーマがちらちらと垣間見えたりします。

 肉体は死亡してもオリジナルの魂はまだどこかに存在しているのではないか。
 そこに「器としてのクローン」が再生された場合、「魂の共鳴」が生じるのではないか。
 この「魂の共鳴」についての演出がなかなか興味深い。

 私がこの映画のどこが気に入ったかと云うと、くだくだしく台詞で説明しない演出が貫かれている点です。素晴らしい。
 それでいてきちんと観る側に理解させる。邦画でもちゃんと出来るじゃないか。

 主役に及川光博をキャスティングしたのが巧いですね。
 表情の変化に乏しいミッチーのビミョーな演技が光っています。特にオリジナルと二人のクローンという、それぞれに少しずつ違う一人三役状態を演じ分けています。
 再生されたミッチーとの関係に戸惑う奥さん役の永作博美も巧い。

 脇役としては、「クローン再生は単なる治療行為の一種に過ぎない」と云い切るクールな研究所長が嶋田久作でした。クローン技術の普及を目指すあまり、ちょっとモラルを失っている感じ。この映画では一番の悪役。
 しかし「最終的に成功したクローン体が一人残れば、それ以前の失敗したケースをいくら処分しても、それは殺人ではない」と云い切るあたりに難しい問題が潜んでいますね。

 魂の存在というスピリチュアルなテーマの他にも、医療倫理や、少年時代のトラウマの克服といった問題が重層的に描かれ、それがノスタルジックな日本の田園風景の中で進行する静かなドラマとして描かれているのが印象的です。

 難点は二つ。
 一つ目は、少年時代の回想シーンがちょっと長すぎたかな、という点。
 二つ目は、主人公の主観による幻想と、客観的現実の違いが曖昧で、解釈に悩む場面が散見された点。ちょっとね、今でもよく判らないところがあって……。

 でも総じて『クローンは故郷をめざす』は素晴らしい出来でした。
 私が観に行ったときは、ミニシアターもほぼ満員御礼状態。しかも観客の八割くらいは女性でした。
 まさか皆、ヴェンダースのファン? それともSFに理解のある人がこんなに。

 いやいや。多分、全員ベイベー(及川光博ファン)なんだよね(笑)。
 でもベイベーの皆さんはストーリーがちゃんと理解出来たのだろうか。
 ミッチーがカッコ良く描かれていたから満足したのかな。


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