うーむ。しかしこれがCGアニメだったとは知らなんだ。
ゼメキスなりに頑張っておるのでしょう。パフォーマンス・キャプチャー方式にもそれなりのメリットがあるのでしょう。でもねえ。
二時間もゲームのイベント・ムービーが続くようで堪らんのです。
これが最初からアニメとして製作されていれば、或いは問題なかったのかも知れない。しかし生身の役者の演技を期待して行ったのに、出てきたのはアンソニィ・ホプキンス顔のCG人形とか、ジョン・マルコビッチ顔のCG人形ばかりだと、どうよ?
なんか映画の作り方を間違えているとしか思えぬ。
何のセットもないところで、体中にマーカー付けまくった役者に演技させ、背景も衣装も後付で合成する。そりゃ役者はラクチンでしょう。老け役や若返りのメイクすら必要ないというのだから、大したものだ。体型すら自由自在。
時には顔面にもマーカー付けまくりで役者の表情すらキャプチャーするというのは凄いとは思いますが――。
しかし現在の技術では、役者の表情の演技をCGでトレースするにはまだ不充分かと。どうにも能面のような感じがつきまとう。
今年初めに公開された『モンスターハウス』のような、デフォルメされたキャラに役者の動きをキャプチャーする分にはいいが、この作品のようにリアルに近づけようとすると不自然さが拭えない。
AI研究で云うところの〈不気味の谷〉を越えることが出来ていないのか。
あまりメイクの必要のない部分はそのまま役者の顔を使っているのか、一部ではとてもリアルな部分はありますが、場面によって(あるいはキャラによって)顔が生き生きしたり死んだりすると云うのは不自然でしょう。
ついでに、背景のモブがCGキャラなのは手抜きだ。
画面手前でレイ・ウィンストンらが実写さながらに演技している――ほとんど実写――な場面の背後で、宴会していたり戦闘していたりするエキストラさん達は完全CG。動き方が全然違う……。
この違和感は、日本でも似たようなやり方で製作している『ベクシル』とか『エクス・マキナ』とかではあまり感じなかったのに。不思議だ……。
この作品で唯一、違和感なしのキャラはアンジョリ演じる〈グレンデルの母〉ね(笑)。
役者でいうと大物俳優ばかり取り上げられて、熱演しているクリスピン・グローバーが話題に上らないというのは可哀想だなあ。
グレンデル役だから仕方ないか(笑)。
素顔が判らぬくらいにCGで作った怪物の眼の表情だけですが、頑張ってます。
クリスピン・グローバーというと『バック・トゥ・ザ・フューチャー』で〈マーティンのパパ〉役だったころは普通の役者さんでしたが、『チャーリーズ・エンジェル』の〈不気味な痩せ男〉役の頃にはすっかりヘンな人になってしまった。
おまけにリメイク版『ウィラード』にも主演したり、すっかり怪奇役者やのう。
いや、文芸作品にも出てるそうですが、私はそちらの方は観ないので(笑)。
まあ、なんだかんだ云ってますが、映像技術としては最先端ですし、アラン・シルベストリの音楽もいいし、ゲイマンの脚本も見事です。
特に辻褄の合わない叙事詩の抜けた箇所を、大胆に補完して見事な悲劇に仕立て上げたゲイマンの手腕は素晴らしい。
ヘンな演出はゼメキスの所為ね。
何がヘンかと云うと――。
ベオウルフは何故か「全裸で戦うこと」にこだわっている(笑)。
実は戦う前に脱ぐ人なのだ、ベオウルフ。
その為、グレンデルと全裸で死闘を演じる際に正面からベオウルフを撮ると、必ず股間の前に巧妙に人物や物体が配置されて見えないように演出されている。
この巧妙さたるや、ほとんどギャグ。
まるで『オースティン・パワーズ』のようだ(笑)。
ところがベオウルフの露出度は物語が進行すると、どんどん落ちていく。
最初、回想シーンでの「海の怪物退治」では全裸。これは泳ぎ比べの最中に怪物に襲われたというシチュエーションなので全裸にも無理はない。五世紀当時には水着なんて無かっただろうし。
それにしてもメチャクチャ強い。
次に前半の山場、「対グレンデル戦」では事前に脱ぐ。
このときもベオウルフ絶好調。
ところが山中の洞窟に分け入り〈グレンデルの母〉と対峙するシーンでは、腰巻き撒いている! 洞窟に入る前に、またしても脱ぎ始めたので全裸かと思いきや、パンツ残しているのである。
だから〈グレンデルの母〉の誘惑に屈したのかッ。
そしてラストの「対ドラゴン戦」では完全に着衣。
ベオウルフはドラゴンと戦い、命を落とす。
全裸なら勝ってたのに! 脱げ、ベオウルフ!
この映画のルールでは「脱いだ方が勝ち」なのである(爆)。
全裸で戦うのはギリシャ神話ぽくなるのを狙ったのだろうが――まさか原作の叙事詩に全裸指定が?――、それにしてもヘンな演出。
まぁ〈グレンデルの母〉も全裸だし、ここで両者全裸だとかなりアブない画になってしまうのですが(笑)。
うーむ。それはちょっと観たかった……。
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