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2016年5月31日火曜日

スノーホワイト/氷の王国

(The Huntsman : Winter's War)

 グリム童話の『白雪姫』を「大胆にアレンジ(笑)」したCG特撮満載のファンタジー・アクション映画『スノーホワイト』(2012年)のまさかの続編であります。何と強引な。
 しかしこれは本当に「続編」なんですかね。「番外編」とか「スピンオフ」と呼ばれるべきものではないかと思われます。
 原題からして “The Huntsman : Winter's War” ですから、白雪姫要素がほぼ無いに等しい状態デス。前作の原題が “Snow White & The Huntsman” でしたので、「狩人(ハンツマン)」で繋がっていると云えないこともないけれど。
 つまり主役は「狩人さん」であって、「白雪姫」ではない。と云うか、本作に白雪姫は登場しません。クリステン・スチュワートに出番なし。一応、序盤に後ろ姿がワンカットだけ入りますが、クリステン・スチュワートである必要はないですね。

 前作から続いて登場しているのは、狩人エリック役のクリス・ヘムズワースと、悪の女王ラヴェンナ役のシャーリーズ・セロン。
 七人のドワーフ達──いや、『スノーホワイト』では八人いましたっけ──の中から、ニオン役のニック・フロストだけが登場しております。あと、チョイ役ですが、ウィリアム王子役のサム・クラフリンもいましたね。
 残りの主要な役はすべて新たに登場するキャラクターです。

 まずは「女王ラヴェンナには妹がいた」と云う前置きで──リーアム・ニーソンの強引なナレーションが有無を云わせません──、フレイヤなる女性が登場します。演じているのはエミリー・ブラント。
 近年のエミリー・ブラントは『イントゥ・ザ・ウッズ』(2014年)でもファンタジー映画に出演しておりますが、SF者としてはトム・クルーズと共演した『オール・ユー・ニード・イズ・キル』(同年)の方が忘れ難いですね。
 今回はもう堂々の主演と云っても差し支えなし。作品のキービジュアルにもなっていますし、やはり悪役の方が印象強いですね。

 全てを凍結させる「氷の魔法」というと、やはりディズニーの『アナと雪の女王』(2013年)のエルサを連想いたしますが、もはや描写にはほとんど違いがありません。『X-MEN』等の既存のコミックスやアニメの描写にも沿った表現です。
 しかしグリム童話である『白雪姫』の続編と銘打っているのに、アンデルセン童話の『雪の女王』みたいな人が登場するのは、ホントにイイんですかね。もはや童話ならナンデモアリか。
 それどころか『ナルニア国物語』(2005年)でティルダ・スウィントンが演じていた〈白い魔女〉みたいなところもありますし、白熊ぽい動物に騎乗しているビジュアルが『ライラの冒険/黄金の羅針盤』(2008年)を思わせたりもして、「よくあるファンタジー映画」の最大公約数的イメージで作られたキャラクターのような印象です(そう云えばティルダ・スウィントンの〈白い魔女〉も白熊に戦車を曳かせていましたっけ)。
 ついでながら、邦題の『スノーホワイト』も──ストーリー上は白雪姫は不在ですが──、このエミリー・ブラントの見た目が「スノー」で「ホワイト」な人なので(性格はブラックですが)、ある意味正しいのかしら。

 冒頭から、シャーリーズ・セロンが様々な王国を乗っ取り勢力を拡大させていく過程が改めて語られておりますが、実はそれには妹のエミリー・ブラントも同行していたのであったと明かされます。時系列的には、これは『スノーホワイト』以前のストーリーです。
 当時のエミリー・ブラントは心優しく、「真実の愛」を信じる乙女でありましたが、姉シャーリーズ・セロンのような強大な魔力は持ち合わせていなかったようです。しかし自分をも凌ぐポテンシャルを持つ妹の能力を開花させようと、姉の方が一計を案じるわけで、その為に人生を誤ってしまうと云うちょっと哀しい過去が語られます。

 愛していた男性に裏切られ、せっかく生まれた愛娘も失い、激情に駆られて遂に魔力に目覚めるエミリーですが、もう誰がどう見ても「姉の陰謀だろう」的な展開ですね。
 そうとは気付かず、すっかり男性不信に陥り、姉の元を去って北の果てに引き籠もって自分の王国を建設し始めるエミリー。スケールの大きな引きこもりです。
 結局、魔力の才能が開花したのは良いが、姉の野望達成を手助けすることはないので、姉の陰謀も目論見どおりには行かなかったという事でしょうか。

 伴侶がいないので、もう子供を設けることなく、代わりに近隣の集落を手下に襲撃させては少年少女達を拉致しております。そして自分の王国で新たな教育を施していくわけで、その過程で愛を否定し、武芸を叩き込み、強力な戦士達を育成し始める。
 その中の少年の一人が、たくましく成長してクリス・ヘムズワースになる次第です。序盤の前日譚的ストーリーが割と長く続きます。子役の少年がクリス・ヘムズワースに成長する場面がワンカットで演出されていてなかなか面白いです。

 実は本作では「狩人」は一貫して「ハンツマン」と字幕で表現されています。翻訳しないのは、単なる猟師では無く、ある種の役職か称号であるからのようです。
 氷の王国が育成した戦闘のエキスパート達の呼称が「ハンツマン」。劇中ではクリス・ヘムズワース以外にもハンツマン達が大勢登場しますが、動物を狩る生業の人は誰もいません。すべて戦士や兵士といった意味であるようです。
 上橋菜穂子の異世界ファンタジー小説『精霊の守り人』でも、「狩人」とは「武人」とか「暗殺者」の意味で使われていましたが、これと同じ事ですね。

 ここで幼少時代から同じハンツマンの仲間として登場する少女サラ(の成長した姿)を演じているのが、ジェシカ・チャステインです。クリス・ヘムズワースがトマホークの使い手になるように、弓矢の達人となるジェシカ。
 そしてライバル同士に愛が芽生え……と云う展開ですが、恋愛禁止の氷の王国ではそれは許されず、駆け落ちを企てますが、氷の女王エミリーはそれを許すはずもない。
 前作では、クリス・ヘムズワースには今は亡き妻がいたと云う設定があって、白雪姫との恋愛が回避される展開がありましたが、それがこのジェシカ・チャステインであったと云う、なかなか後付けにしては巧く辻褄を合わせております。

 駆け落ちは失敗し、目の前で愛する人を殺され、自分もまた河に落とされますが、九死に一生を得て助かり、そして『スノーホワイト』へと繋がっていくわけで、ここまでの説明がかなり長い。まぁ、クリス・ヘムズワースが一方の主役デスから。
 そしてようやく本筋の始まりです。前作のラストで悪の女王は滅ぼされたものの、〈魔法の鏡〉自体は残され、そのままクリステン・スチュワートが王位を継ぐというラストシーンでしたが、〈魔法の鏡〉をそのままにして良い訳が無い。
 案の定、夜毎にささやきかける〈魔法の鏡〉に精神的に追い詰められる白雪姫。その身を案じたウィリアム王子が、一存で〈魔法の鏡〉の処分を決定する。
 ここはウィリアム王子が狩人エリックに状況を語って説明するので、白雪姫は回想シーンで後ろ姿がワンカットだけの登場でした。これで『スノーホワイト』とは詐欺や。

 ウィリアム王子に拠ると、この手の呪われたマジック・アイテムを引き受けてくれる便利な場所があるそうで、「聖地(サンクチュアリ)」と呼ばれております。しかし王子が派遣した〈魔法の鏡〉輸送部隊が消息を絶ってしまう。
 と云うところから、輸送部隊の行方を突き止め、無事に〈魔法の鏡〉を聖地に送り届けてくれと王子から直々に依頼される狩人エリックです。
 同行するのはかつての仲間であるドワーフのニオン(ニック・フロスト)と、その異父兄弟グリフ(ロブ・ブライドン)。グリフは本作で初登場となるドワーフです。
 しかし〈魔法の鏡〉がスノーホワイト王国を離れ、所在が不明になったことは直ちに北の氷の王国の知るところとなり、エミリー・ブラントもまた〈魔法の鏡〉奪取を目指して動き始めるのであった。

 本筋はこの〈魔法の鏡〉の探索と、その争奪戦となるわけで、狩人エリックにお供のドワーフが二人という少人数の探索隊が、行く先々で冒険しメンバーを増やしていく過程が、アクションを交えてテンポ良く語られていきます。
 前作では男しか出てこないドワーフでしたが、本作では「女性のドワーフ」も登場します。ドワーフは全員、普通の俳優さん達が演じて、トリックやら合成やらで小人に見せております。
 そして死んだと思われていたジェシカ・チャステインとも再会し、パーティの人数も倍増するわけですが、かつて自分の妻とまで呼んだ女性はすっかり性格が変わってしまい、男を信じないワイルドな女性になっていた。

 探索と冒険の過程で、クリス・ヘムズワースがジェシカ・チャステインの誤解を解いて、再び愛を取り戻すことが出来るかどうかと云うのが、もう一つのストーリーとなっています。
 まぁ、愛を信じない氷の女王が敵なわけですし、「真実の愛」がまたしてもキーワードとして使用されておりますし──ファンタジー映画の合言葉やね──、ハッピーエンドを目指すなら、そうなるのだろうなとは容易く予想が付くところですが、脚本がちょっとヒネっていて、そもそもの誤解の原因も氷の女王の策略だったと明かされます。
 序盤のちょっと長めのプロローグ的経緯説明で、色々と伏線が敷かれております。きちんとした辻褄合わせは、それなりに巧いと思うのですが、わざわざ『スノーホワイト』の続編──又はスピンオフ──にする必要もなかったのではとも思えます。オリジナルのファンタジー作品でも良かったのでは。

 そうは云っても、ファンタジーなビジュアルは見事ですし、殺陣のアクションもスピーディで、観ているうちは特に不満に思うところはありません。
 本作の監督はセドリック・ニコラス=トロイアン。前作では視覚効果を担当し、アカデミー賞視覚効果賞にもノミネートされた特撮マンでしたか。『マレフィセント』(2014年)の第二班監督を経て、本作が初監督作品となるそうな。
 だからビジュアル面では前作との繋がりがきちんと描かれていて、「動物と植物が混じり合った」ような禁断の森のクリーチャー達がまた登場しております。前作ではCG全開のクリーチャーとして、トロールが登場しましたが、今回は新たにゴブリンが追加されました。トロールより小振りですが、凶暴さは上を行くようです。
 劇中ではクリス・ヘムズワースがCGのゴブリンと壮絶な格闘を演じてくれます。

 加えて、音楽も引き続きジェームズ・ニュートン・ハワードですし、監督が交代してもシリーズとしての統一感は保たれていますね。
 しかし前作のルパート・サンダース監督がクリステン・スチュワートと不倫騒動を起こしてくれたお陰で、本作には白雪姫が登場しなくなったのだと思うと、ちょっと複雑であります。本来は白雪姫と狩人が、氷の女王と〈魔法の鏡〉をめぐって戦うストーリーに……なったのでしょうか。
 でも代わりにジェシカ・チャステインの弓矢アクションが拝めますので、これはこれで個人的には有り難いデス。

 そして紆余曲折ありまして、〈魔法の鏡〉は氷の女王の手中に落ち、クリス・ヘムズワース達はそれを取り戻すために、氷の王国に乗り込んでいくのがクライマックスとなります。
 ここで満を持して登場するのが前作で倒された悪の女王ラヴェンナ。シャーリーズ・セロンの出番は序盤の経緯説明シーンだけではありませんでしたね。
 何度も〈魔法の鏡〉に姿を映して、「この世で一番美しいものは……」なんて問うているうちに、鏡の中にコピーが作られたのか。記憶と経験も受け継がれているので、バックアップと云うべきか。
 鏡から液体金属がドロドロと流れだし、次第にシャーリーズ・セロンの姿になっていく場面は、本作の見せ場の一つでありましょう。CGだけでなく、更に凄みを増したシャーリーズ・セロンが印象的です。

 〈魔法の鏡〉自体が黄金色をしていますので、シャーリーズ・セロンのイメージカラーも黄金色になっています。一方ではエミリー・ブラントは氷の女王として、白銀色で統一されているので、ビジュアルとしても姉妹の対比が効いております。
 加えて、液体金属のようなドロドロの姉に対して、凍りついたカチカチの妹という質感の差も感じました。まぁ、姉妹と云っても、水と油ほども違うようです。

 当初は姉妹そろって再会を喜んでいましたが、すぐに姉妹の仲がギクシャクし始めると云うのも、世間一般的によくあることですねえ。
 白雪姫に復讐を誓う姉ラヴェンナは、早速に妹フレイヤの育てたハンツマンの軍勢を動かしてスノーホワイト王国に攻め入ろうとするわけですが、自分が育てた軍勢を勝手に動かされて胸中穏やかでは無いエミリー・ブラントのビミョーな表情が巧いです。子供がいない分、育てたハンツマン達に愛着を感じているのか。
 やはり妹の方は根からの悪人では無いと云う描き方ですね。

 クライマックスの戦闘シーンでは、氷の宮殿に突入したクリス・ヘムズワース達ですが、シャーリーズ・セロンの魔力に圧倒されて為す術無し。
 ところが、シャーリーズ・セロンの不用意な一言から、かつての愛する男性と愛娘を失った経緯の絡繰りがバレてしまい、いきなり壮絶な姉妹喧嘩に発展していきます。
 ここで敵役でありながら、姉ラヴェンナが「自分には子供が生まれなかった!」などと口走るシーンもあり、実は妹に嫉妬していたことが伺えます。終盤で復活した途端、シャーリーズ・セロンが目立ちまくりなのは流石と云うべきでしょうか。
 なかなか複雑な展開を判り易くまとめているトロイアン監督の手腕が巧いです。

 姉妹喧嘩の果てにエミリー・ブラントの方が先に倒されますが、最後の魔力で〈魔法の鏡〉を凍らせたところに、クリス・ヘムズワースのトマホークの一撃で勝敗が決します。液体金属のような物質でも、凍結したところに衝撃が加われば粉々になる、と云うのはよく判りますね。
 魔力の源たる〈魔法の鏡〉が破壊されては、遂にシャーリーズ・セロンも一巻の終わり。クリス・ヘムズワースはジェシカ・チャステインとの愛を取り戻すハッピーエンド。ドワーフ組にもそれなりにラブラブな展開が待っています。エミリー・ブラントの末期だけはちょっと哀れでした。

 エンドクレジットのCGがまた美しいグラフィックで、目を楽しませてくれます。
 ところで、スノーホワイト王国も安泰となり万事メデタシ……なのはいいとして、結局〈魔法の鏡〉を処分するために聖地まで送り届けるという任務は達成されないままになりました。それでいいのか。聖地がどんなところなのか遂に判らず仕舞いですよ。
 これはまさか更に続編があると云うことなんですかね。もはやクリス・ヘムズワース主演のシリーズとなるのでしょうか。もう「スノーホワイト」じゃなくて「ハンツマン」シリーズですね。




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